第081話 行方不明

「ねぇ!どうしよう…どうしたらいいの!?まー君…ゆー君…」

「とりあえず落ち着け」


 取り乱す由衣を佑希が支える。

 …いや、俺だって完全に冷静なわけじゃない。流石に心配だ。

 それにしても身体が不調な上に日和が行方不明になるとは…頭痛が増しそうだ。…学校に着いてからは楽になったが。

 だが日和が行方不明なのは無視できない。

 できるわけがない。

 とりあえず俺は由衣に問う。


「日和とは連絡取ってないのか」

「うん…この前…えっと…路地裏で4人で話したときあるじゃん?あれ以来メッセージはしてない。学校であったときはちょっと喋ったりしたけど…」


 残念ながら手がかりは無さそうだ。

 まぁ、日和が俺達に嫌気がさしてるような雰囲気から期待はしてなかったが。

 かくなる上は…やるしかないか。


 俺は覚悟を決め「行ってくる」と仲間達に言い残し、とある場所へ向け歩き出した。


☆☆☆


 「コンコンコン」と3回ノックして、扉を開ける。

 すると中にいる教員の目線が全て俺に注がれた。

 まぁ、予想通りだが。


 俺が来たのは職員室。

 『職員会議中 立入禁止』という看板をガン無視して職員室に入ったらこうなるのは当たり前だ。

 1番最初に話しかけてきたのは教頭で何故か生徒指導も兼任している御堂みどう 長治ちょうじ


「陰星…だったか。看板が見えなかったのか?」

「見えてます。見えてる上で入ってきました。緊急の要件なので」

「職員会議中だ。出ていきなさい」

「お断りさせていただきます。俺は普通の生徒ではないことは先生方はわかっていらっしゃるでしょう」


 俺のその言葉で職員室はざわつく。

 4月に校内で戦闘したときに職員会議に呼び出されて事情聴取されている。

 そのため、この学校の教員は差あれど俺が澱みや堕ち星と戦っていることを知っている。

 そして御堂教頭はその職員会議でしつこく追及してきた。

 面倒ではあるがここで引き下がるわけにはいかない。

 しかし、その決意はあっけなく打ち砕かれる。


「出ていきなさい。これは普通の失踪事件だ。警察も既に捜査を始めている。君の出番はない」


 やっぱりこの教頭は頭が硬い。そしてタムセンからの援護もない。

 ここからどうするか悩んでいると俺の後ろのドアが勢いよく開いた。


「大切な幼馴染が怪物騒ぎがある中で行方不明って言われたら心配してはいけないんですか!!何かしたいって思っちゃ駄目なんですか!それにもし、怪物に襲われてたら先生や警察に何ができるんですか!」


 扉を開けた白上 由衣がそう叫んだ。

 何で入ってきた…ただでさえ今面倒な状況なんだが…

 頭を抱えたくなっていると、御堂教頭がため息を漏らしてから口を開いた。


「類は友を呼ぶ…か。とりあえず外へ出なさい。職員会議を邪魔する生徒なんて前代未聞だ。…それともあれか、特別指導が必要か?」


 この教頭…本当に何なんだ。もはや悪意を感じるぞ。 

 そう思ったとき、職員室の奥からよく通る声がした。


「まぁまぁ、御堂教頭。そこまで熱くならなくても。それに今警察の方から連絡があってね。陰星君に来て欲しいって」

「ですが、理事長」

「警察からの協力のお願いは無下にはできない」


 奥の校長室に繋がる扉からこの学校の理事長である金城かねしろ 斉明なりあきが現れた。

 以前、御堂教頭からの追及から庇ってくれたのも金城理事長だった。

 この人はこの人で何なんだ…?

 そう考えていると、金城理事長から声をかけられる。


「陰星君、理事長室に来て欲しい。お友達も一緒にね。もちろん職員会議の邪魔にならないように外からね」


 そう言い残して理事長室へ戻っていった。

 俺は「失礼しました」と言い、由衣を連れて職員室から出る。

 外に出ると由衣以外の仲間が待っていて、佑希と鈴保が順番に言葉を発した。


「…悪い、由衣を止めれなくて」

「というかどうなったの?」

「金城理事長が警察から呼ばれてるから、みんなと一緒に理事長室に来て欲しいって」


 何故か由衣が答えた。

「何でお前が答えるんだよ」とツッコミそうになる。

 しかし、さっきの取り乱してた状態から状況が説明できるほどに回復したと考えてツッコむのを止めた。

 あと時間の無駄になるだろうしな。


 理事長室の前についた俺達は俺を先頭に理事長に入る。


「よく来てくれたね、まずはすわっ……4月から増えたね?」

「えぇ…まぁ…」


 職員会議で教員から事情聴取された時は俺1人だった。

 しかし、今は6人だ。……確かに増えたな。

 そして金城理事長はテーブルを挟んだ位置にある、恐らく3人がけのソファを見て呟いた。


「……ソファ、足りないね」

「いいっす!俺立ってますんで!とりあえず真聡は座れよ。リーダーなんだから」

「座りなよ。私も立ってるから」


 …俺はいつからリーダーになったんだ?

 そんな野暮な考えはさておき、志郎と智陽の言葉に甘えて俺は座る。

 するとその隣に由衣が座った。

 そして何やら鈴保と話した後に佑希が端に座った。

 全員が落ち着いたところで金城理事長は口を開く。


「まさかこんなに増えてるとはね…少し驚いたよ……順番に名前を聞いて良いかな?」

「はい!1年生の白上 由衣です!」


 やはりこういうので1番最初に口を開くのは由衣。そこから順番に自己紹介が始まる。

 ……こんなことしてる場合ではない気がするが……まぁ必要か。


☆☆☆


 最後の智陽が終わったので俺はようやく本題に入ってもらうために口を開く。


「それで理事長、警察に呼ばれたっていうのは」

「そうそう。丸岡という刑事さんから電話がかかってきてね。行方不明になった人たちの手がかりが見つからないから来て欲しいって。もしかしたら怪物が絡んでもしれないと考えているんだろうね」


 そう言いながら差し出されたメモには住所と橋の名前が書かれている。

 橋の名前や町名なんて覚えてないぞ。

 そう考えていると後ろにいる智陽が「今地図を共有した」と言った。

 ……仕事が早いな。


「……住宅街の中か?」

「星野川ではないね」

「…じゃあ、あのときの橋とは別の場所か」

「いらないこと言わなくていいから」


 立ってる鈴保と志郎が何かを言っているが気にしないことにする。というか何の話だ。

 つまり、この住所に丸岡刑事がいると。とりあえずは行って話を聞こう。

 そう思い、金城理事長に礼を言って立ち上がろうとする。

 すると由衣が口を開いた。


「あの…理事長。1つだけ聞いてもいいですか」

「由衣、日和が心配なんだろ」

「でも気になったことは聞きたいんだもん!」

「あのなぁ…」


 言い合いになりそうになったそのとき、金城理事長が止めに入った。


「まぁまぁ、知りたいと思うことは大事なことだ。それで白上君、何が聞きたいんだい?」

「えっと……何で理事長は私達の味方をしてくれるんですか?教頭先生はあんな感じだったのに」

「それはね、私がこの学校が生徒にとって自分のやりたいことをやる、見つける場所になって欲しいからだよ。だからね、生徒がやりたいと言ったことはできるだけ叶えてあげたい。

 それに、怪物騒ぎがある中で生徒と教員が行方不明なのは心配だ。でも君達は怪物と戦える。それなら私は君達に頼りたい。大人としては情けないかもしれないけれどね。

 でも教頭先生のことを嫌いにはならないであげて欲しい。教頭先生は教頭先生なりに生徒のことを1番に考えてるんだ」


 どうやら金城理事長は理解がある人のようだ。

 御堂教頭がいまいち信用できないということに変わりはないが。

 そう考えていると由衣を始めとした仲間達が金城理事長にお礼を言っている。

 俺も改めて礼を言い、今度こそ理事長室を出るために扉を開ける。

 すると金城理事長が言葉を投げかけてきた。


「あぁ、最後に1つだけ。

 …全員無事で帰ってきなさい。くれぐれも命を捨てる、なんてことはしないように」

「はい!ありがとうございました!!行ってきます!」


 由衣がそう言って深く頭を下げる。


 そして全員廊下に出て理事長室の扉を閉める。

 由衣が全員の顔を見てから「…じゃあ行こっか」と言う。

 その言葉に全員が同意を示した。


 …だから何でお前が言うんだよ。

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