第105話 憧れるな
「陰星 真聡さん!その節は本当に迷惑をかけました!マジですみませんでした!」
学制服を着た男子が凄い勢いで頭を下げた。腰の角度が綺麗に90度じゃないのかと思うくらいだ。
…いや、マジで誰だよ。俺には他校の知り合いなんていないはずだぞ。顔を下に向けてるから誰か分らないし。
それ以前に、文化祭の昼過ぎの中庭で大声で頭下げて謝られると確実に注目されるからやめろ。…既に手遅れかもしれんが。
「とりあえずそれ止めろ、頭上げろ。…で、どちら様だ」
「…マジすか」
「マジで誰だ」
俺がそう返すと男子生徒は呻き声を上げながら「マジか~!ショックだ~!」と叫んでる。
…とりあえず叫ぶな。だか確かにどこかで見たことある気がするが…
そう考えながら男子生徒の方に視線を戻す。
彼は何やらぶつぶつ呟いている。
そこに俺とは違って男子生徒の正体がわかっている奴がフランクフルトを片手に戻ってきた。
「君は…森住 晶?」
「そうっす!…誰でしたっけ」
「児島 佑希だ。…そっか、病院では俺は名乗らなかったな」
「…マジ?」
「マジっす!」
森住 晶。こぎつね座の堕ち星と成った中学3年生。
入院中に様子を1度様子を見に行った時、彼の母親と喧嘩していたのが見ていられなかったので間を一応取り持ったが…あのときの印象とだいぶ違う。
以前は完全に問題児、本当の不良少年一歩手前という印象だった。
しかし今は比較的爽やかな印象で、年相応に見える。
…いやまぁ年齢は1つしか変わらないが。
そして佑希と一緒に戻ってきた日和は完全に初対面なので佑希に質問している。
そっちは任せて俺は目の前の疑問の山を片付けるか。
「…何しに来た」
「そりゃもちろんお礼を言いに来たんすよ!それと進学先の下見っす!」
お礼を言われることはした記憶はないが…まぁ本人のその気持ちを否定するは良くない。受け取るだけ受け取っておこう。
そして後半の言葉について考える。
進学先の下見か。そうか中学3年だから高校を決めないといけないからな…
「いやなんで
「そりゃ憧れ先輩がいる高校に進学したいじゃないすか!」
「憧れ…誰のことだ」
「真聡さんに決まってるじゃないすか!!」
「お前……本気で言ってるのか」
「本気っすよ!俺を元に戻してくれたのも、母さんとちゃんと話せたのも、前のように学校に行けるのも全部真聡さんのお陰なんすから!真聡さんは俺の恩人で憧れの人でヒーローっす!」
…何故か凄く恩人になってしまってる。俺はヒーローでも何でもないんだが。
強いて言うなら…
人殺しだ。
「えっ…もしかして森住 晶君?」
「そうっす!…えっと」
「あ、私は白上 由衣!まー…真聡と一緒に病院にお見舞いに行ったんだけど、あの時は名前言わなかったもんね」
「…つまりここにいる人があのときの」
「いや全員ってわけじゃないけどね」
「何の話~?」
由衣を始めとした残りの4人が戻ってきた。
そして完全に事情を知らない長沢が疑問を口にした。由衣が何とか堕ち星絡みの話だとバレないように誤魔化そうとしている。
俺は気を取り直して森住 晶と話す。
「母親の考えがわかったなら少しは親孝行をしろ」
「母さんには「俺がやりたいことをして独り立ちするのが1番の親孝行」って言われたっす!そして俺の今1番やりたいことは真聡さんへの恩返しっす!あと真聡さんのように誰かを助けれる人になりたいっす!」
…完全に困った。
母親としっかり話せるようになったのは嬉しいことだが、ここまで俺のことを憧れにされていると追い払うのにも一苦労どころじゃすまないだろう。だが付きまとわれると困る。
というかこいつ性格変わりすぎだろ。堕ち星になると人格や性格が変わるやつはいる。が、ここまで変わるとわかっていても混乱する。
とりあえず…現実を突きつけて目を覚まさせるか。
「…俺なんかに憧れるな。俺はただ自分がやるべきことをやってるだけだ。憧れるなら大勢を救った偉人とか世界に笑顔や勇気を与えた有名人にしておけ」
「俺にとっては真聡さんは十分偉人っす!」
凄い手遅れな気配を感じで俺は思わずため息をつく。
ここまでなら、もういっそのこと協会に連絡して記憶消去魔法を使える魔法使いに応援を頼みたい。
俺が困っていると誤魔化せたらしい由衣が会話に戻ってきた。
「つまり森住君はここが第一志望なの?」
「そうっす!」
「そっか~じゃあ来年から私達の後輩になるんだね~」
「そうなるっす!先輩方、よろしくお願いします!」
「よろしくな!ちなみに俺は平原 志郎!」
「よろしくお願いします!」
「おいまて、何勝手に話を進めている」
「…森住君の進路なんだからどこの高校目指そうと自由でしょ?」
由衣からの思わぬ正論パンチで俺は反論の手札を失った。
こいつ…たまに鋭い正論を返してくるんだよな…。
あとなんか長沢が「慕われるっていいことだよ~」と言っている。
どいつもこいつも他人事だと思って好きかって言いやがって…。
とりあえずこいつに何とかして追い払わないと。
そう考えていると森住 晶の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、ヤバい。一緒に来た友人が待ちくたびれたって文句言ってる。先輩方!今日はこれで失礼します!」
森住 晶はそう言い残して去っていった。
何も解決してないしさらに疲れたぞ…。
他の連中は楽しそうに話しながら各自ベンチに座ってお昼を食べ始める。
智陽が通り過ぎるときに同情するかのように肩を叩いていった。
片手に焼きそばを持ちながら。
…同情するなら手伝ってくれよ。
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