第104話 マジで誰
あれから数十分後。
俺達、逃走4人組は学校内をうろうろしてから生物実験室付近に移動した後、事情聴取担当してくれた3人の再合流した。
「3人とも~!大丈夫だった?」
「なんとかな」
「まぁ…色々あったけどね」
俺達は邪魔にならないように廊下の壁際に寄って、3人の話を聞く。
纏めると「あの後に来たのはやはり御堂教頭だった。そして、さっきの一連の相手をしたのを俺から佑希に変更して、逃走4人組は元からいなかったことにした。智陽はしっかりと相手の顔を撮っていたので見せた。なのに色々言われた。そこに斉条 美愛が戻ってきて、話を合わせてくれた。すると御堂教頭はようやく解放してくれた」とのこと。
「で、写真をコピーして提出してきたってわけ」
「あぁ、あと斉条さんから「お礼を伝えておいて」と言われたな。以上だ」
「戻ってきたんだな……やっぱり斉条 美愛って学年1の美人だよなぁ」
志郎の何気ない呟きで、場の空気が一気に重くなった。
…鈴保がいたら瞬間的にツッコミが入ったのだろうか。
そう思っていると代わりに智陽が口を開いた。
「一応聞くけどさ。それ、喧嘩売ってる?」
「…あ、いやそういう意味じゃねぇよ!?美人で中身もちゃんとしてる、学年で噂になるだけはあるなって意味だって!」
「それはそうだよね!斉条さん、わざわざ戻ってきてくれたんだもんね!」
志郎の釈明に由衣から肯定の発言が出た。
どうやらほぼ全員そう考えているらしく斉条 美愛についての会話が始まる。
その噂を覚えてなかった俺的には嫌なお嬢様のボスみたいな印象だった。しかし、3人の話を聞いて印象が変わった。理由は分からないが。
そう考えてる俺に志郎から言葉が飛んできた。
「真聡はどう思うよ」
「何がだ」
「斉条 美愛をどう思うかに決まってるだろ!」
志郎がすごい勢いで聞いてくる。
…なんでこんな話題になってるんだ。
そんな感想を抱いたが、答えないと開放してくれなさそうなので俺は感じたことをそのまま口にする。
「なんというか…生きづらそうに見えたな」
その一言にいるほとんどが「理解できない」という反応をする。
…俺自身も直観に等しいからなぜそう思ったかはわからないが。
またワイワイと話し出す一同。そこに日和が少し不満そうに口を開いた。
「……いつまでここで話してるの?」
「あっ!ごめんひーちゃん!ひーちゃんの生物部での展示を見に行くって話だったもんね!」
「そうだったな!悪い悪い」
「いや別にそれはどっちでもいいんだけどここで話してる時間がってあ、ちょっと!」
日和が言い切る前に由衣が日和の手を掴んで生物実験室に向けて歩いていく。
そしてその後ろを志郎、智陽、佑希の順番で付いていく。
…元気だな、本当に。
はぐれると面倒なことになるのは目に見えているので追いかけ…
ようとしたとき、長沢 麻優がまだいること。そもそも合流してから一度も口を開いていないことに加え、複雑そうな顔をしていることに気が付いた。
…普段は由衣の次ぐらいに騒がしい長沢が静かなのは流石にほっておけなかった。
「長沢」
「…あっ、ごめん。何の話だっけ」
「いや、全員もう行ったが」
「ごめんごめん。ちょっとああいう喧嘩見慣れてないから今頃衝撃受けちゃってた。もう大丈夫だから行こ。」
そう言って長沢は生物実験室に向かって歩き始める。
何か声をかけるべきだろう。しかし、俺には長沢の言葉がどうにも本心とは思えなかった。
そのため、かける言葉が見つからない俺は無言でその背中を追いかけた。
☆☆☆
約1時間後。13時過ぎ。
俺達は生物実験室で日和の生物部での展示を見た後、地学実験室で見鏡先輩の解説展示を聞いた。
そのあとはメンバー…主に由衣と志郎が気になる文化部やクラスを回った。
そしてお昼を食べるために、飲食の出店を行うクラスが集まっている中庭に向かうことになった。
先頭を歩く長沢、日和、由衣、志郎の会話が聞こえてくる。
「望結先輩の解説展示、凄くわかりやすかったよね!」
「うん。『夜空に浮かぶ季節の図形』とても分かりやすかった」
「もう既に科学館で働けるよね!でもひーちゃんの展示も凄かったよ!」
「だな!にしても日和は魚について詳しかったんだなぁ…知らなかったわ…」
「だって言ってないから知らなくて当たり前。それに先輩達や大捕先生のお陰だし。私はそんなに凄くない」
「でもひーちゃん昔から魚のこと好きだし、小学校ではメダカのお世話してたよね?」
「今そういう話はいいから!」
日和は褒められて照れているのか、それとも昔話をされて怒っているのか。どちらかは分からない。
というか懐かしい話だな…。
だが実際、展示物は星雲市内に流れる川に生息する生き物についてわかりやすく纏められていると俺も思った。
……地下貯水路であんな事があったのによく調べれたな。
今考えると、地下貯水路1度目の突入時の脱出の際に俺以外を連れて出た巨大魚。
状況的にもやはりあれを生成したのは日和だったんだろうか。
日和自身の思いと想像力に魚座が応えて、普通じゃ考えられないぐらいの力が発現した…というところだろうか。
まぁ日和自身も覚えていないし、俺もしっかり確認できたわけではない。
結局真実は闇の中、魚座のみぞ知る…か。
考えながら歩いていると中庭に着いた。
お昼時は少し過ぎているからか生徒の量は少し少ない。
俺は持ってきた
由衣に「こういう時ぐらいそういうの止めようよ~!」と言われたが無視した。
こっちは金欠学生なんだ。ほっとけ。
そう思って先にベンチに座って栄養バーの袋を開けて、口にする。
先に座ったのは俺1人だけだ。
どうやら全員何かしら買いに行ったらしい。
普通の高校生…か。
俺は親がいない代わりに協会から学費を含めた生活費を支給されてる。
とはいえ親がいないことや魔術師として澱みや堕ち星と戦うこと。そういう点から
「自分は普通じゃない」ということを痛いぐらい感じる。
…まぁ、残念ながら魔術師の時点で俺は
というか、支給金額から学費を引かれると月20万残らないってなんだよ。命かけて戦ってるんだからもう少しあったっていいだろ。俺がまだ高校生とはいえ。
…まぁあっても使い道も使ってる時間もないが。
「やっと見つけたっすよ!!!陰星 真聡さん!!!」
その大声で俺は我に返る。
大声の主は男子生徒だが
そしてその男子生徒は俺の目の前にまでやってきて、凄い勢いで頭を下げた。
「陰星 真聡さん!その節は本当に迷惑をかけました!マジですみませんでした!」
いや……マジで誰だよ。
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