第103話 嫌なお嬢様
「…あれ、助けた方がいいよね?」
「いやいや、あれナンパだから女子は絶対に行っちゃ駄目だからな?」
「というかあれ、
揉め事の首を突っ込もうとする由衣を志郎が止めてくれたのでとりあえずは一安心した。
状況としては
深夜のコンビニとかにいそうな格好。ナンパでなくても…良くないものだろうな。
そして智陽が言ったその名前は1番奥にいる黒髪ロングの女子生徒らしい。なんでも社長令嬢で本物のお嬢様だとかなんとか。
智陽から話を聞いていると志郎が「じゃあ俺が行くかぁ…」と呟いた。
…ないとは思うが、何故か殴り合いになる気がした。
志郎なら余裕で勝てるとは思うが…そうなると揉め事になる。それは困る。星座騎士の活動に支障をきたす。
……面倒だが俺が行くか。
「いや、俺が行く」
「え、まー君が行くの!?…大丈夫?」
「俺を何だと思ってるんだ。…あ、お前ら全員スマホで撮影してるふりをしてろ」
「何する気…?」
そんな日和の声を背中に受けながら俺はガラの悪い男達に近づく。
途中、無詠唱でいつもよりも弱い認識阻害魔術を使いながら。
聞こえてくる会話によると斉条 美愛一行はクラスの店番の時間らしい。そのため教室に戻ろうとしているところを絡まれたらしい。
そして俺は声をかける。
「嫌がってるだろ。それに彼女達は急いでる。そこをどけ」
「なんだぁ…てめぇ?」
「俺達はこの可愛い子達と話してるんだよ。男は引っ込んでろ」
「それともなんだ?女の子を助ける英雄気分か?だったら痛い目に合わせてやろうか?」
テンプレのような脅し方だ。恐らく俺を弱いと思っているんだろう。
まぁ確かに俺は身長も体つきも普通並だ。戦闘面は全部魔力や星力で補ってるため、一般人にはそう思われるだろう。
魔術で身体能力を盛れば余裕で勝てるが…それでは意味がない。というか一般人相手に魔術を使用して傷害事件を起こすと秘匿違反で俺が捕まる。
そのため、比較的平和に片付けるために策を立ててある。
ただ先に相手に手を出させないと俺の策は意味をなさない。
なので俺は挑発で返すことにした。
「痛い目…か。いったいどんな目にあわされるんだ?」
「じゃあお望み通り合わせてやるよ!」
そう言いながら1人の男が殴りかかってくる。
喧嘩慣れしてそうな拳。しかし、見切れない速度ではない。
これなら志郎や大牙さんの一撃の方が怖い。魔力による身体強化もしなくていいな。
そう思いながら体を少し動かして避ける。
そして、自然な感じで男が来るであろう位置に足を残しながら。
男の拳はさっきまで俺の顔があった位置を通過する。
そして、予想通り俺の足に引っかかって転んだ。
するともう1人の男が怒声を上げながら殴り掛かってこようとする。
俺はそれを「ちょっと待てよ」と言って止める。
さぁ、ここからが勝負だ。
「なんだぁ?今更命乞いか?」
「いや?ただ、本当に俺を殴っていいのかと思ってな」
「どういう意味だ」
転んだ男が立ち上がりながら威嚇しながら聞き返してくる。
…まるで獣だな。
そんなことを思いながら俺は右手で言った通り、スマホを構えている由衣達の方を指す。
「人が集まってきて動画を撮ってるぞ?」
「だからどうした!お前がボコボコにされるのが映るだけだ!」
「だな!」
そう言いながら男達は品の無い笑い方で笑う。
…こいつらも頭の中おめでたいな。
「別に俺は殴られたって構わない。だが、お前らが俺を殴ってる動画がネットに広まればどうなるだろうな。
身元を特定されて、警察にも連絡が行くかもな。もしかしたら傷害罪で捕まるかもな。それでもいいなら続けるが…どうする?」
俺のその言葉に男達は怯む。
まぁ俺は認識阻害魔術を使っているから映らないがな。
男達の様子を窺っていると片方の男が舌打ちをした。
「お、覚えてろ!」
「この借りは必ず返すからな!」
よくある捨て台詞を吐きながら男達は斉条一行の横を走り抜けていった。
軽い認識阻害魔術を使っているから俺の顔は記憶に残らないんだがな。ここまでおめでたいともはや可哀想だ。
とりあえず1件落着だ。何故かやけに疲れた。
認識阻害魔術を解除しながら吐息を吐く。
すると、斉条 美愛の取り巻きが声をかけてきた。
「…で、英雄気分はいかがですか?」
「…は?」
「斉条さんにお近づきになりたいんでしょ?でも残念ながらそれは私たちが許しませんので」
「それに私たち急いでるので。そこを退いてくれます?」
なんだこの3人の取り巻き。典型的な嫌なお嬢様かよ。
別に礼が欲しくて助けたわけではないが、この仕打ちは腹が立つな。
というか別に斉条 美愛に興味はないんだが。
そして斉条は一言も発しない。ずっと何を考えているかわからない表情だ。
なんだこいつら。
とりあえず俺は誤解を解くのを兼ねて言葉を返す。
「別にそんなつもりはない。ただあの男どもが不愉快だったから追い払いたいと思っただけだ。だから別に礼とかは求めていない。ほら、さっさと行けよ」
面倒になった俺はそう言いながら斉条一行の前から渡り廊下の反対側の壁際へ移動する。
「あら、それは失礼しました」
「男子生徒にもそういう方がいらっしゃったのですね」
「では私たちはこれで」
そう言い残して斉条一行は去っていった。
本当になんだこいつら。
心の中で悪態をついていると由衣達が合流してきた。
「まー君、大丈夫?」
「すげぇな…口だけで追い返すなんて」
由衣に続いて志郎が褒めてくる。
…別に褒められるほどのことではないと思うが。
すると反対側の窓から外を見ている佑希が嫌なことを口にした。
「そんなこと言ってる場合じゃないぞ。職員室の出入りが多くなってる。もし、生徒指導の御堂教頭が来たら面倒なことになるかもな」
その言葉で一気に重い空気になった。
あの教頭は苦手だ。できれば関わりたくない。
そんな俺に佑希が提案をしてきた。
「俺が残って事情を説明しておくから全員ここから離れろ。特に真聡と…由衣。この前の職員室の一件で目を付けられてるだろうし」
「私も残る。私はそんなに目立ってなかったし」
「助かる。やっぱりもう1人ぐらいはいて欲しいからな」
正直助かる。
佑希と智陽には悪いが…まぁこの2人なら大丈夫だろ。
そう思ったとき、ずっと黙っていた長沢が口を開いた。
「じゃあ…私も」
「麻優ちゃん!?」
「大丈夫。私は普段一緒に行動してないから。それに今日いきなり仲間に入れてくれたお礼がしたいし」
「じゃあ俺も残るぜ?」
「やめろ。お前がいるとややこしくなる」
「なんでだよ!?」
「今はもめてる場合じゃないから。一緒に行くよ」
「なんだよ!…日和も?」
「私はあの教頭苦手だから」
「ひーちゃんは実は結構人見知りだもんね~」
「うるさい」
何故か志郎と日和と由衣がわちゃわちゃし始めた。
…なに遊んでるんだこいつら。
そう思いながら俺は佑希達にこの場を託して、近くの階段に向けて歩き出す。
しかし、由衣がなかなか動かない。
仕方なく俺は戻って、由衣の腕を掴む。
そして、今度こそ階段へ向かって歩き出した。
「じ、じゃあ理系教室周辺で集まろうねぇ~!!」
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