第102話 よくあること

 生徒達の楽しそうな声が校舎内に響き、楽しそうな空気が漂っている。

 こういう空気はやはり苦手だが、平和な証拠であるとして頑張って気にしないことにする。

 そんな中、椅子に座って暇を持て余す俺は逃げるように考え事を始める。


 今日は10月の第1土曜。

 地下貯水路での戦いから約2週間が経った。

 あれからへび座もからす座、それどころか堕ち星すら現れていない。

 1学期終業式前後から大量に出現していた澱みですら、あの日を境にいきなり出現回数が減った。

 あの日以来戦闘した回数は2回ぐらいだろうか。


 …2体の堕ち星は死んだのだろうか。

 そもそも身元すらわかっていない。へび座に至っては人間の姿すら見たことがなかった。

 この世には人ならざるモノが人に化けることもある。

 そのため俺の中には「あの2体は本当に人間だったのか」と言う疑問が生まれていた。


 というのを含めて協会に報告してみた。


 だが、あまりいい返事は帰ってこなかった。

 しかし、俺が当初この街に来た理由である「星雲市で観測されていた魔力の異常」は解消されたと言われた。

 あの地下貯水路での戦いの直後にそう言われた。そこから俺は異常の原因を「へび座のあの儀式」と考えることにした。


 当初の目的を果たしたとなると、俺はもうこの街にいる必要はない。

 神秘保持者である以上、協会本部に戻る指示が出ることを覚悟した。


 しかし、出た指示は現状維持だった。


 …やはり協会上層部はいい加減だ。

 だがその指示は「由衣を始めとした他5人の星座騎士も、このまま普通の生活をしていていい」ということになる。

 そう考えると凄く複雑な気分だ。

 そして1つの考えがここ数日、俺の頭の中で渦巻いている。


 帰還指示が出るまでに、由衣達を星座の力から切り離した方がいいのではないか。

 

 まぁ、そもそもどうやって切り離すのかが問題なのだが…


 そのとき、俺は左足首に鈍い痛みを感じた。

 俺は反射的にその元凶に文句を言った。


「智陽。お前」

「いや、お客さん来たから。ほら」


 目の前には同じ星芒高校の制服を着た女子生徒2人が立っていた。

 そう。俺はただ座って暇を持て余していたのではない。


 今日は文化祭で今はその出し物の店番をしている。

 俺は智陽と2人でブラックボックスの担当。

 「箱の中に手を入れ、手の感覚だけで入っているものを当てる」といった内容だ。


 客の前で口論は出来ないので俺は智陽と共に箱の中身を準備する。

 中身は店番がクラスで用意した候補が入った入れ物の中から選ぶ。


 そして、俺はガチャガチャの景品の根付の小さなぬいぐるみを、智陽はこっちもガチャガチャの景品の仏像の模型にした。

 …チョイスどうなってるんだうちのクラス。


 用意ができたので女子生徒に声をかけて、ゲームが始まった。

 仏像の模型が中身になってしまった不幸な女子生徒はとても混乱している。

 …いや、仏像の模型なんて触っただけでわからないだろ。


 そういや準備の時に智陽が「このブラックボックスは2つがぶつかっても爆発しないから安心」とか呟いていたな…

 意味がさっぱり分からん。


☆☆☆


 約1時間後。

 次の店番役のクラスメイトが来たので俺達はようやく店番から解放された。

 しかし教室は出店になっているので出ていく必要がある。

 というか由衣に連れまわされることになっている。「せっかく文化祭なんだからみんなで楽しもうよ!」と。なので一緒に行動するために星座騎士の7人は全員店番の時間を合わせてある。


 歩き回るために荷物を用意していると智陽が呟いた。


「…1時間半店番はめんどい」

「だな。…というかお前、蹴ることはないだろ」

「声かけても気づかない真聡が悪いと思うんだけど?」


 …それは確かに俺が悪いか。 

 そう思ったとき、後ろから「2人ともお疲れ~!」という元気な声と共に由衣がやってきた。

 ちょうど準備ができた俺達は返事をしながら立ち上がる。


「じゃあ、行くか」

「まずひーちゃんとしろ君と合流だからね!」

「そうだな。連絡は来てるか?」

「えっとねぇ…」


 そんな会話をしている由衣と佑希に続いて教室を出る。

 するとまた後ろから、今度は「待って~!」と声を掛けられた。

 声の主は…


「麻優ちゃん!?どうしたの?」

「私も混ぜて欲しいなぁ~なんて…」


 どうやら同じクラスの長沢 麻優も一緒に行動したいらしい。そういえば役は違うが、同じ時間帯に店番だったな。

 ただそう言われると恐らく由衣は…


「もちろんいいよ!!」

「本当に?ありがと~!」


 …だろうな。

 だが今日は星座騎士のメンバーで行動する話だっただろ……まぁ、鈴保は星鎖祭りのときと同じで別行動だが。だがそこに無関係の長沢が…

 一応言うが、長沢が嫌いなわけではない。…面倒だと思うときはあるが。

 俺が気にしているのは面識がない日和と志郎がどう言うかだ。


 と考えているうちにも由衣は長沢と話しながら、日和と志郎に合流するために人が行きかう廊下を進んでいく。


「お前の言いたいことは分かるが行くぞ」

「見失ったら探すの面倒だし」


 佑希と智陽がそう言い残して追いかけていく。

 俺もとりあえず先頭2人を追いかける。


 俺が追いついたときには既に2人は集合場所である渡り廊下の窓際で他クラス2人と合流していた。


「でも本当にいいの?いきなり私が入って…」

「俺は全然問題ないぞ!由衣の友達なんだろ?だから俺は全然いいけど……日和は大丈夫か?」

「私は何回か話したことあるから」

「なんか…ごめんね?」


 どうやら目立った問題はなさそうだ。

 そのまま由衣、志郎、長沢の陽キャ3人組による「どこから行く会議」が始まった。

 それと同時に俺達が後ろにいることに気が付いたらしい日和がこちら側に来た。

 ちょうどいいので俺は日和に疑問をぶつける。


「本当にいいのか」

「何が?」

「長沢 麻優だ。いきなり増えて嫌じゃないのか」

「ちょっと驚いたけど、遠足とか体育祭で話したの覚えられてたし。あと私だけ嫌がるのもあれだし。それに、だし」

「…そうか」


 その発言から俺は日和はもう必要以上に心配しなくて良いと感じた。


「まー君とひーちゃんはどこか行きたいとこある~?」


 その発言で由衣達の方を見ると既に佑希と智陽まで混ざって話が進んでいた。

 …いや別に俺は面倒だからどこにも行きたくないんだが。

 返答に困っていると言い争う声が耳に入った。


 その声がした方向を見ると、反対側の校舎で星芒高校の制服を着た4人の女子生徒が手前側にいるガラの悪い2人の男に絡まれている。

 …いくら文化祭で入校自由とはいえ、問題起こしそうなやつ入れるなよ。実際起こしてるし。受付は何してるんだ。

 と心の中で文句を言っていると由衣がとんでもないことを言った。


「…あれ、助けた方がいいよね?」

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