第101話 生徒指導!?

 翌日。

 まだ地面は濡れていて湿度も高いが、太陽が街を照らしていた。

 台風は夜中の間に通り過ぎたらしい。


 そんな朝、俺は1人で学校に向かっている。

 なぜ1人か。それは…


「やっっっと追いついた!!!まー君おはよ!!!」


 その聞き慣れた騒がしい声と共に背中が押される。

 一晩経って星力も体力もある程度は回復しているので転けることはない。だが驚きはするので止めてほしい。

 由衣は今朝、寝坊したらしい。そのため、俺は1人で先に行くことにした。

 …しかしこいつ、普通に追いついてきたな。


 とりあえず俺は挨拶を返す。

 そこに後ろから荒い呼吸をしながら、もう1人追いついてきた。


「ちょっと…昨日の今日で何で朝からそんなに走れるの…私を置いてく気なの…?」

「あはは……ごめんねひーちゃん…」

「まったく…」


 俺達は立ち止まって、由衣の話を聞きながら日和が息を整えるのを待つ。

 どうやら今日から日和も一緒に登校することになったらしい。

 …いや別に俺的には勝手に由衣が朝からついてきてるだけなんだが。


 そして日和が落ち着いたようなので、俺達はまた学校に向けて歩き出す。

 歩きながら俺は疑問をぶつける。


「そもそも2人は一緒に登校してなかったのか」

「最初はしてたんだけど…途中から私がまー君を迎えに行くようになったから…」

「私がそれなら1人で行くって言って、そこからは一緒に行くことはなくなった」

「その件はごめんよぉ…」

「…つまり俺のせい…と」

「まー君!?」

「そうね。真聡のせい」

「ひーちゃん!?」

「「冗談」だ」


 日和と声が重なる。

 由衣は「も~~!!焦るじゃん!!」と少し怒っている。

 それを日和がなだめている。

 だが普段は振り回されているため、たまにはこうしてからかいたくもなる。


 まぁ、俺は後ろめたさから出た言葉だが。


「まぁ、こうして3人一緒に行けるからいっか!」

「そうそう。やっぱり由衣はそうだよ」

「やっぱり~?」


 そう言いながら由衣は照れ臭そうに笑ってる。

 朝から元気だな、本当に。


「そうだ!せっかくだし、ゆー君も誘おうよ!さっちゃんは居ないけど…あの頃みたいにさ!」

「由衣がそうしたいなら私は何でも。…でもまぁ、確かに佑希だけ仲間外れみたいなのは私も嫌かな」

「じゃあ、決まり!」


 そう言い切って由衣はまた走り出す。

 その後ろを日和が文句を言いながら追いかけていく。

 …元気すぎるだろこいつら。


 ちなみに、由衣は登校してから佑希にこの話をしたが断られていた。


☆☆☆


 その日の放課後。

 俺達、星座騎士として活動している7人は各自担任からの呼び出しで1つの空き教室に集められた。

 多分この3日間の休んだ授業の補修についてだと思うんだが…。

 まぁ、誰が来るかは知らないが…先生が来るはずだ。


 とりあえず、各自思い思いの場所に座って時間を潰している。

 俺は窓際の席に座り、外を眺めている。

 するとすぐ近くで固まって座っている由衣達の話が聞こえてきた。

 

「…本当に補修なのかな」

「それ俺も思った!」

「いや普通に補修でしょ」

「でもよ鈴保、由衣達のクラスと俺達のクラスと日和のクラス。休んでた間の授業全部一緒だったわけじゃないだろ?」

「まぁそれはそうだけど…被ってる授業もあるでしょ」

「でもいきなり全員呼び出されてるんだぜ?本当に補修か…?」

「…もしかして、私達怒られるか……生徒指導!?」

「うわそれだろ!そういや真聡、あの生徒指導の御堂と職員室で言い争いしてたよな」

「なんだ俺のせいか?」


 流石にそれはないだろ。いくら何でも由衣と志郎の想像は飛躍しすぎだ。最終的に俺が悪いみたいになってるし。

 そんな2人に鈴保が「いやないって。普通に補修だって」と言っている。

 …あっちの2人は任せるか。


 まったく。

 静かに座ってる佑希、智陽、日和を見習ってほしいものだ。

 日和に至っては由衣が隣に座ったお陰で、会話に参加してないのにあの騒がしいのに巻き込まれている。

 …少し可哀想だ。


 そんな事を考えていると教室の扉がようやく開いた。

 入ってきたのは俺のクラスの担任であるタムセン。手に結構な量のプリントを持って入ってきた。


 そしてその顔を見た瞬間、志郎と由衣は問答無用で質問する。

 手元見ろ手元。


「説教すか!生徒指導すか!」

「私達覚悟はできてます!」


 そんな早とちり2人組を鈴保と日和が引っ張って座らせる。

 人数が増えたから俺がツッコまなくていいのは助かるな……。

 2人が座ったところでタムセンが俺達が集められた理由を口にした。


「いや、普通に補修の件だからな。お前達が怪物との戦いで授業を抜けるのは理事長から許可が下りてるから」


 その言葉に由衣と志郎は安堵の声を上げる。

 いや、お前ら2人が勝手に勘違いしてだけだからな?

 心の中でツッコミを入れているとタムセンが持ってきたプリントを7つの山に分けた。

 それを見て、また由衣と志郎が食いついた。


「なんか2つだけ量少ないですか…?」

「というか何の授業なんすか?」

「今回の補修はこのプリントだ。本当は授業の予定だったんだが…もうすぐ文化祭だからな。

 先生達も文化祭準備で忙しいから今回はプリントになった。提出は文化祭前最後の授業までに各自提出だ。

 で、少ないのはこっちが華山でこっちが水崎の分な」

「なんでちーちゃんとひーちゃんの分だけ少ないの!?」

「私は昨日抜けたのは午後だけだから」

「あ…そっか…」


 智陽の指摘で由衣の言葉は勢いを失った。

 智陽には射守 聖也と矢持 満琉と共に街中に出た澱みを頼んでいた。出ていない場合は普通に学校に行くように言った。

 そのため、昨日の午前中の授業は出ていたらしい。


「じゃあなんでひーちゃんは…?」

「日和は初日は失踪扱いで普通の欠席になってるんじゃないか?」


 佑希の言葉に由衣は納得の声を上げる。

 …由衣はただプリントをやりたくないだけだろこれ。

 そのやり取りの裏で他のメンバーはプリントを受け取って中身を確認している。


 夏休みの宿題を進めさせるのも大変だったからな……もしかして、今回も監視がいるのか?

 俺もプリントを確認しながらそんなことを考えているとタムセンが質問してきた。


「…今日の朝、陰星から言われてから思ってたが…水崎も怪物と戦えるようになったのか?」

「えぇ…まぁ」

「人数増えたなぁ…最初は陰星と白上だけだったのになぁ」

「本当にその通りです」

「そういや…射守と矢持も授業を抜けてたらしいが…あの2人もなのか?」


 その質問に俺は言葉を濁す。

 確かに同じことをしている…が共闘することは手酷く拒否された。

 だから別に学校側に俺が言う必要はないが…。

 しかし、色々悩んだがやんわりと言うことにした。


「仲間…ではないですけど、同じように怪物と戦ってはいますね」

「やっぱりそうなのか……それならあの2人にも補修プリント渡さないとな…」

「それはあの2人に直接聞いてください。俺達は射守に嫌われているので」

「……大変だな、陰星も」

「本当ですよ全く」


 そんな話をしていると両肩に手が置かれた。

 振り返ると由衣が俺の後ろに立っていた。


「まー君、何の話してるの?」

「こっちの話だ。お前には関係ない」

「…そう?……それより早く教室戻って文化祭の準備手伝わないと!」

「確かに早く戻らないと雑用押し付けられるかもな」


 何故か佑希まで会話に参加してきた。

 文化祭準備……面倒だ。しかし、雑用を押し付けられるのはもっと面倒だ。

 そう考えていると今度は由衣をはじめ同じクラス3人がタムセンと話している。


「戻るなら10分後ぐらいには様子を見に行くと言っておいてくれ」

「わかりました!任せてください!ほらまー君も戻るよ!」


 そう言いながら俺の体を揺すってくる。

 多分戻らないとずっとこのままだろうな。

 

「わかった。わかったから離せ。プリントを鞄に入れさせろ」

「はぁい」


 由衣がようやく手を離したので俺は移動する準備をする。

 どうやら他のメンバーも教室に戻るらしく、既に空き教室から出ようとしていた。


「んじゃあ俺達も戻るわ」

「…めんど」

「そんなこと言うなって」


「私も自分の教室に戻るから。またね由衣」

「うん!また後でね! またね~!しろ君!すずちゃん!」


 由衣が入口まで行ってそう叫んでる。

 俺は鞄を持って、引き続き黒板前でタムセンと話している佑希と智陽に声をかけてから空き教室から出る。


 そして「ちょっと!置いてかないでよ!」という由衣の声を背中に受けながら、自分の教室に向けて廊下を歩く。


 こうして、俺はまた普通の高校生活に戻っていった。

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