第117話 嘘でしょ!?
時間は砂山 鈴保が家族の元から走り去った直後まで遡る。
☆☆☆
最悪。
由衣と真聡と智陽と遊んで時間を潰して、家族3人が出発するまでやり過ごそうと思ってたのに。
まさか、学校まで迎えに来てるなんて。
そんな文句を心の中で呟きながら、私は駅前の人込みをすり抜けていく。
この後どうしよう。
あれ、絶対私を連れていくつもりだよね。
そうなると家に帰りたくないな……誰かの家に…でも候補がない。
そんなことを考えながら、私は駅近くの歩道を歩く。
そのとき、スマホがメッセージを受信したのを感じた。
…絶対両親のどっちかでしょ。
そう思いながら邪魔にならない所で立ち止まる。
そしてスマホを取り出して、メッセージを確認する。
その内容は、予想外の物だった。
『智陽 駅前近く 真聡と由衣が戦闘中 相手は堕ち星』
「嘘でしょ!?」
思わず声が出た。
真聡と由衣が既に戦ってる。
つまりそれは、さっきの場所かその近くに堕ち星が出たってことでしょ!?
…戻って戦ったら絶対家族に怪物と戦ってることがバレるじゃん。
うちの両親は過保護すぎるから何言われるかわからないから絶対にバレたくないんだけど…。
…待って?堕ち星?
もう出ないかもしれないって話じゃなかったの?
あぁ~もう!わけわかんない!何でこんな面倒なことになってるの!?
そう思いながら、私は来た道を走って戻る。
相手が堕ち星なら、文句なんて言ってられないから。
☆☆☆
さっき両親と喧嘩した広場近くまで戻ってきた。
戦闘音が聞こえてくる。
私は一度建物の陰に隠れて、周りを確認する。
両親も藍斗も、それどころか誰もいない。
ここなら大丈夫。
そう思いながら私はギアを喚び出して、プレートを差し込む。
そしていつもの手順で構えて、ギアのボタンを押して紺色と深紅色の星鎧を身に纏う。
大丈夫、戦闘が終わったら家族にバレる前に去ろう。
そう思って私は再び走り出す。
広場では話の通り、既に黒色の星鎧と赤色の星鎧の星座騎士、真聡と由衣が戦っている。
相手は鱗のような皮膚と尻尾がある怪物。
まさか…へび座の堕ち星!?
いや、でも決めつけるのには早いよね。
とりあえず、真聡と由衣に合流しないと。
私は戦闘に参加するタイミングを待つ。
堕ち星が真聡に飛び掛かった。
真聡は後ろに下がってそれを避ける。
そして真聡は左手をついて着地すると同時に言葉を紡ぐ。
「草木よ、捕らえよ!」
すると、堕ち星の周り3カ所から蔓が生えてくる。
蔓は堕ち星を捕まえようと迫る。
だけど堕ち星は真聡との距離を詰めて、それを避けた。
真聡は急いで地面から手を放して、さらに後ろに下がろうとする。
由衣は真聡を助けようと走り出してる。
でもきっと、2人とも間に合わない。
一方、私は堕ち星が距離を詰めたその瞬間に私の武器である槍を生成していた。
そして真聡の目の前めがけて投げる。
堕ち星が真聡に襲い掛かる。
その瞬間、私が投げた槍が堕ち星に命中した。
堕ち星は横向きに吹き飛んで地面を転がる。
私はその隙に真聡と「すずちゃん!」と嬉しそうに叫ぶ由衣と合流する。
「名前で呼ばないで。…あの人たち近くにいるんでしょ」
「さぁな。逃げるようには言ったが」
近くにいないことを祈るしかないか。
私は真聡の言葉に返事をしながら質問を続ける。
「で、あれ。…もしかしてへび座?」
「違うって。えっと…イモリ座?ヤモリ座?」
「とかげ座な」
真聡が由衣にそうツッコんだのと同時に、とかげ座が立ち上がった。
「考えるのも話すのも後だ。とりあえず先に無力化するぞ」
「うん!」
「わかった。あ、私が前行くから」
2人にそう言ってから私は槍を再生成しながら、とかげ座との距離を詰める。
真聡がなんか言ってる気がするけど気にしない。
何でまた現れたのかわからないけど、とりあえず早く家族にバレる前に終わらせたい。
それにやっぱり真聡と由衣は近接向きじゃないと思うし。武器とか能力的に。
間合いに入った私は、槍でとかげ座を突く。
だけど残念ながら避けられた。
反撃として飛び掛かってくる。
私はそれを後ろに下がって避ける。
そこに、真聡からの水と由衣から半透明の羊による援護は飛んできた。
とかげ座は水に濡れながらも羊を避けて距離を取った。
意外と素早い。
どうやって攻めよう。
そう考えているととかげ座が言葉を発した。
「すズ……おまエ…砂山ノ…むすメ?」
何?娘って聞くことは私の両親のどっちかの知り合い?
…今両親の話なんてしたくないんだけど。
私は少しイラつきながら言葉を返す。
「別に私が誰で、親が誰だろうとあなたには関係ないでしょ」
「憎イ…幸セ…壊ス!!!」
そう言ってとかげ座はまた飛び掛かってくる。
でも、さっきよりも早い。
私は反応が遅れて相手が間合いに入るのを許してしまった。
咄嗟に槍で迎え撃つ。
しかし、槍を掴まれて止められてしまった。
力比べが始まる。
意外と強い。
このままだとマズい。
そう思ったとき、とかげ座の足元が膨らみ始めた。
私は反射的に槍を離して後ろに下がる。
そのすぐ後、地面が盛り上がってとかげ座は吹き飛ばされた。
右を見ると、真聡が両手で杖をもって地面に杖の先を付けていた。
「無茶するな」
「うるさい」
まだイライラしてる私はそう返す。
もちろん感謝はしてる。
でも無茶するなって真聡が言えた事じゃないよね?
「とかげ座…落ちてこないね」
…確かに。
そんなに高く打ちあがったわけじゃないでしょ。
由衣の言葉にそう思いながら上を見上げる。
するととかげ座は近くのビルの壁に張り付いていた。
「邪魔ヲ…するナ!!!」
その叫びと同時に、ビルの壁面から、空中から、そして私達の周りから澱みが湧きだす。
由衣が驚きの声を上げる。
「嘘でしょ!?」
「焦るな。以前と同じなだけだ。落ち着いて近くのやつから倒せ」
私も驚いたけど、真聡の言う通り。前と一緒。
逆に最近が平和すぎただけ。
そう思いながら私は近くの澱みを殴る。
真聡と由衣も既に澱みと戦ってる。
2体倒したところで、違和感を感じた。
何か少し暗くなった気がする。
いや違う。
私は反射的に前に飛び込んでその場を離れる。
私がいた場所に土ぼこりが舞う。
私は転がりながらも態勢を整える。
「さやマ…壊ス…」
とかげ座が上から落ちてきた。
私は間一髪避けれた。
反撃するために私は距離を詰める。
そして「だったら何!」と叫びながら、私はとかげ座を蹴る。
とかげ座は蹴りを受けて吹き飛ぶ。
だけど、とかげ座は吹き飛びながらも態勢を整える。
そして着地した瞬間に踏み切って、距離を詰めてくる。
でも、ペルセウス座ほどじゃない。
何とか横に飛んで直撃を避ける。
私だって、このままではいけないって思ってるんだから。
でも、どうやって攻めよう。地味に早い。
考えながら、立ち上がり後ろを向く。
その直前、背中に衝撃を感じる。
同時に私は地面に押さえつけられる。
「まずハ…ムスメカラ!!!!」
私の背中の上から憎悪の籠った声が聞こえる
どうなってるかわかんないけど、私はピンチらしい。
…最近、悔しい思いばっかりだ。
真聡はよくわかんないけど距離を置かれるし、ペルセウス座には手も足も出なかったし、迷ってるとか言われるし。
そして今も、
…私は、どうしたらいいの。
「させるかっ!!!」
その声と同時に私の背中から重さが消えた。
次に聞こえたのは何かが壁に激突した音。
「…蠍、立てるか」
私が顔を上げると真聡がいた。
私に向けて手を差し出している。
また助けられたみたい。
私はお礼を言いながらその手を取って立ち上がる。
真聡は私が立つと、土ぼこりが待ってる方に視線を戻した。
「焦るな。落ち着け。あと、堕ち星から目を逸らすな」
「…うるさい。わかってるわよ」
真聡の呟くような言葉に、私はそう返してしまった。
私はとかげ座の突進を避けて安心した。
でもとかげ座は止まらずに切り返して、もう一度私に突撃してきたんだと思う。
普通なら避けれたはずの攻撃を受けてしまった。
私は悔しさのあまり、星鎧の下で唇を噛む。
そのやり取りの間に土ぼこりが晴れる。
でもそこには、誰もいなかった。
それを見た真聡が「逃げられたか…」と吐き捨てるように呟く。
…終わったなら、私は両親に見つかる前にここを去りたい。
そう思って真聡に「私、行くから。また連絡して」と言い、歩き出す。
でも、そう上手くいかなかった。
「なぁ…あんた、姉ちゃんだろ?」
弟の藍斗が、私の前に立ちはだかっていた。
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