第118話 あんたにはわからない

 「まずハ…ムスメカラ!!!!」


 私は目の前の澱みを突き飛ばして、その叫びが聞こえた方向を見る。


 とかげ座の堕ち星がうつ伏せので倒れている深紅色の星座騎士、すずちゃんの上に乗っている。

 …すずちゃん大ピンチじゃん!?

 助けに行こうとした瞬間、まー君が言葉を投げてきた。


「由衣」

「まー君お願い!残りは任せて!」


 私の言葉を聞いたまー君はとかげ座に向かっていった。

 …まー君が行った方が確実だからね。適材適所…だっけ。

 私はそう思いながら、残り3体の澱みと向かい合う。


 私も早く追いかけないと。

 距離を詰めて、右手に持っている杖で1体を思いっきり叩く。

 その間に飛び掛かってくる2体の澱みを避けてから、蹴って、叩く。


 3体の澱みが消滅していく。

 澱みはこれで全部。

 早くまー君とすずちゃんに合流しないと。

 そう思って私は辺りを見回して2人を探す。


 すると、まだ星鎧を纏っているすずちゃんの前に藍斗君が立っているのが目に入った。

 もしかして…バレたのかな?


 そう思いながらとりあえず、すずちゃんに近づく。

 同じタイミングですずちゃんのお父さんとお母さんが藍斗君の後ろにやってきた。


「…何。私があなたの姉だって証拠でもあるの」

「自分の姉かどうかぐらい雰囲気でわかるよ。それに、夏休み以降の姉ちゃんの変化の原因がこれなら…すべて納得いくし」

「ほ…本当に鈴保ちゃんなの!?」

「またこんな危ないことを…何でそんなことばっかりするんだ!」


 すずちゃんは答えない。

 ただ、自分の両手をぎゅって握っている。

 でも、すずちゃんのお父さんの怒りは収まらない。


「答えなさい!誰に言われてるんだ!誰に強制されてるんだ!」

「そうよ鈴保ちゃん!そんな可愛くない鎧なんて脱いで、可愛い鈴保ちゃんのお顔を見せて?」


すずちゃんのお母さんがそう言いながら、すずちゃんの前まで歩いて行って右手を握る。


 すずちゃんが左手でプレートを抜き取って、お母さんの手を振り払った。


「そういう過保護すぎるところが嫌いなの!!私がやりたい事何でもかんでもダメダメダメダメ言って!!女の子なんだから可愛くしなさいって言って!

 私は!あんた達の人形じゃない!!」


 そう叫んだすずちゃんの頬には涙が流れていた。



☆☆☆


 あれからだいたい…2時間後ぐらい?

 私は今、ちーちゃんと一緒にすずちゃんの家のすずちゃんの部屋でまー君とすずちゃんが戻ってくるのを待っています。


 あの後、堕ち星が逃げたことを確認して警察に電話したまー君が戻ってきた。

 堕ち星に成った人はすずちゃんのお父さんの同僚らしい、という情報と一緒に。

 そして「鈴保さんを引き込んだのは俺です。そのため、責任は俺にあります」と言った。


 そして私達は、警察と話した後に星座騎士や澱みや堕ち星について説明するのもあって、すずちゃんの家にお邪魔することになった。

 でも、私とちーちゃんは参加しなくていいと言われて…今です。


 というか思ったんだけど……すずちゃんもお嬢様だよ!?

 だってとっても家が大きいんだよ!私の家よりも全然広いよ!

 いや、私の家だって狭いわけじゃないよ?

 でもすずちゃんの家…邸宅街にあるんだもん。絶対お嬢様だよ。


 あと部屋に置いてあるぬいぐるみが気になる。可愛い。

 すずちゃんからそんな話聞いたことないけど…好きなのかな?

 あ、あのキャラクターもある。私もあれ好きなんだよね。だって可愛いもん。

 気になるし、あとで聞いてみよっと。

 

 そんなことを考えていると、ちーちゃんが口を開いた


「…遅くない?30分は経ったよ?」

「確かに結構待ってるよね…。すずちゃん…大丈夫かな」

「鈴保もだけど、真聡も心配」

「…まー君も最近様子が変だもんね」


 まー君は最近変。

 文化祭の後ぐらいから何か私達と距離取ってるし、澱みが出たことを私達に隠してたし。

 4月ほどじゃないけど…でもやっぱり気になる。


 そのとき、下の叫び声が聞こえた。

 そして階段を上ってくる足音が聞こえる。


 私達がいるすずちゃんの部屋は2階、すずちゃん達がいるリビングは1階。

 …終わったのかな?


 そして勢いよく扉が開く。


「帰って!!!」


 戻ってきたすずちゃんは凄く怒っていた。

 私達はそのまま部屋から追い出されそうになる。

 何があったか聞こうとするけれど、すずちゃんは「うるさい!!!帰って!!!」としか言わない。


 そこにまー君が戻ってきた。


「さっきも言っただろ。由衣と智陽は俺が結界を張りに戻ってくるまでは居てもらうと」

「うるさい!!ついてこないでよ!!

 …あんたにはわからないでしょ。親にやりたい事反対されて、制限されて、親の考えや趣味を押し付けられる気持ちが!!


 親がいない、あんたには!!!」


 その瞬間、空気が凍り付いた。

 私でも分かった。


 すずちゃんが何でそんなに怒ってるのかは私にはわからない。

 もしかしたら、まー君がすずちゃんに嫌なことを言ったのかもしれない。



 でもすずちゃんは今、を言った。


 私はまー君の味方をしたかった。

 でも、すずちゃんの敵にもなりたくなかった。

 どうしたらいいかわからなくて言葉が出ない。


 悩んでいるうちに、まー君が先に口を開いた。


「…そうだな。親がもういない俺にはお前の気持ちはわからない。

 …だがな。親がいなくなったら、お節介も2度と焼いてもらえない。自分の想いだって、2度と届くことはない。

 …それだけは、忘れるな」

「うるさい!!!ほっといってよ!!!」


 そう言って、すずちゃんは私とちーちゃんを部屋から追い出して扉を閉めてしまった。


 何もできなかった私は呆然とする。


「…俺は一度結界を張るための物を取ってくる。

 …もし堕ち星が出たら、時間稼ぎを頼む。すぐに戻ってくる」


 まー君もそう言って階段を下りて行った。

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