第116話 家族旅行

「だから!あんたのそういうところがうざいって言ってんの!」


 まー君の後ろに隠れているすずちゃんが男の人に向かってそう叫んだ。

 男の人はさっきすずちゃんのことを「娘」って言ってたから、多分すずちゃんのお父さんなんだと思う。


 …何でこうなってるの?

 私がそう思ってる間にも親子喧嘩は続いてます。


「う、うざい…パパに向かってその言葉はないだろ!」

「だからそれがうざいの!」

「すずほちゃん!何でパパにそんなこと言うの!」

「あぁもう!姉ちゃんやめろって!父さんも母さんも落ち着いてくれって!」


 すずちゃんのお父さんの後ろから、女性と男の子がやってきた。

 お母さんと弟かな?

 …すずちゃん、弟いたんだ。


 だけど弟さんの言葉も虚しく、すずちゃんはお父さんとお母さんと言い合いは続いてる。


 そしてすずちゃんに盾代わりにされて、間に挟まれているまー君が凄い顔してる…

 そこにちーちゃんが提案をした。


「あの…とりあえず、場所を変えませんか?ここ、学校の前なので」


☆☆☆


 確かに学校の前で家族喧嘩してるとまた噂になっちゃう。

 というわけで、 私達はとりあえず学校の前から駅近くの広場まで移動してきた。

 すずちゃんとすずちゃんのお父さんとお母さん、それぞれの話を聞きながら。


 そして現在。

 私、まー君、ちーちゃんは座ってまた始まったすずちゃんの家族喧嘩を見てます。


 どうやらすずちゃんはとにかくお父さんとお母さんが嫌みたい。

 …理由は話してくれなかったけど。


 一方、お父さんとお母さんはすずちゃんが反抗的なのに困ってるそう。

 あと、時々すずちゃんが怪我して帰ってくることを気にしてるらしい。

 それをお父さんはすずちゃんに家族が知らない彼氏ができて、その彼氏の暴力で怪我してると思ったらしい。


 そして今日、すずちゃんの家族は初めてすずちゃんの友達とあった。

 不幸なことに、今日はまー君以外男の子はいなかった。

 だからまー君だと思われたんだね…。


 あと、すずちゃんはどうやら家族に星座騎士として澱みや堕ち星と戦ってるのを言ってなかったらしい。

 それを聞いたまー君は「自分で言うって言ってよな」と言ってた。

 だからたぶん、まー君も知らなかったみたい。


 あとすずちゃんの家は明日からの3連休に今日から2泊3日で関西に家族旅行の予定なんだって。

 でもすずちゃんがずっと行かないって言ってるから今日は学校まで迎えに来た。

 そしてさっきのやり取り…ということらしい。


 まぁ…とりあえず、まー君への誤解が解けて安心。


 …まだ星座騎士のことは話せてないけど。

 でもすずちゃんは…。


「だから、私は行かないから」


 こんな調子。

 そしてすずちゃんのお父さんとお母さんが、何とかしてすずちゃんを連れて行こうとしてる。

 さっきからずっとこんな感じ。

 

 私は関西家族旅行、羨ましいけどなぁ…。

 本場のたこ焼きとかお好み焼きとか美味しいもの食べてみたいし、京都にも行ってみたいなぁ…。


「父さんも母さんも、もういいだろ。姉ちゃんだって3連休の間ぐらい1人でも大丈夫だって。もう俺達そこまで子供じゃないんだから」

「駄目よ!せっかくの家族旅行なんだからすずほちゃんも一緒に!4人で行かないと!」

「そうだぞ藍斗あいと。パパは家族4人が幸せに、楽しく仲良く暮らすために毎日頑張って働いてるんだ。だから、4人で行ってこその家族旅行なんだ」

「私のため思うなら置いて行っててば!」


 すずちゃんの弟さん…藍斗あいと君だけが喧嘩を止めようと頑張ってる。

 それでもすずちゃん達の言い合いは止まらない。

 何ていうか…ちょっと藍斗君が可哀想。


「とにかく、絶対私は行かないから」


 ついにすずちゃんはそう言い残して走って行ってしまった。


 一方、すずちゃんのお父さんは追いかけようとするけれど、藍斗君に止められた。

 すずちゃんが見えなくなってから、藍斗君はお父さんから離れて呟く。


「今の姉ちゃん追いかけたって何にも変わんないだろ」

「…パパの何が悪いんだ」

「パパとても頑張ってるわ!

 …すずほちゃんの反抗期はいつ終わるのかしら」


 そんなすずちゃんのお父さんの手をお母さんが握った。

 …うちのお父さんとお母さんよりも仲いいね、すずちゃんの家は。



「なぁ…帰っていいか?」

「私も流石に同意見。鈴保はどっか行っちゃったし」


 ずっと黙って一緒に座ってたまー君とちーちゃんがそう呟いた。

 確かに私達はすずちゃんと遊びに行くってところから巻き込まれたけど…このまま放っておくのは…嫌だ。

 ここまで聞いてしまったし、何とかしてあげたい。


 悩んでても仕方ないから、とりあえず2人に言ってみることにした。


「私は…何とかしたい。すずちゃんがどう思ってるかわからないけど、見ないふりは…嫌だ。

 だってすずちゃんは私達の友達で、仲間なんだよ?」


 そう言い切ってから、まー君とちーちゃんの顔を見る。

 ちーちゃんは…呆れてる?

 そしてまー君は…何とも言えない顔をしてる。

 …何考えてるんだろ?


 そのとき、まー君が急にきょろきょろし始めた。


「どうしたの?」

「…智陽を頼む」


 質問した私にそう言い残して、藍斗君達の方へ走っていった。

 星鎧を纏わずに杖を生成して。


 そして藍斗君達の元に着いたと同時に後ろ、私達の方へと振り向く。

 そして上に向けて光…星力弾を放った。


「何してるのあいつ」

「どこにも澱みはいないのにね」


 ちーちゃんとそんな会話をした次の瞬間、上から私達とまー君の間に何かが落ちてきて砂埃が舞う。

 私は咄嗟にちーちゃんの前に出る。


 十数秒後、落下してきた影響で生まれた砂埃が晴れた。



 そこには、うろこのような皮膚と尻尾がある異形の怪物が。



 堕ち星がいた。

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