10節 親心、子心

第115話 うちの可愛い娘

「さて、ホームルーム始めるぞ~全員座ってくれ~」


 タムセンのその言葉で自分の席から離れていた生徒達がダラダラと戻っていく。

 全員が座ったのを確認してから、タムセンが連絡事項を伝え始める。


「え~…まず初めに一応言うが、明日から3連休だが羽目を外しすぎるなよ~」


 そんな言葉を俺は「俺達は小学生か」という感想を抱いた。

 恐らく御堂教頭が言わせてるんだろう。

 生徒指導が厳しいあの教頭だ。間違いない。


 11月上旬。明日から3連休だ。

 まぁ特に学生らしい予定はないが。

 強いて言うなら…暇なメンバーがまた流星群の特訓に来るかもしれない。


 結局、ペルセウス座は流星群が使えた。本人…本プレート?が知らなかっただけで。

 そのため、志郎を中心に俺以外のメンバーはペルセウス座が人型に成れるときに指導を受けている。

 …使えるのは実際に流星群が存在する、獅子座の志郎と双子座の佑希だけだと思うが。


 それと並行して「星鎧を纏いながら星力を上乗せしての近接攻撃」、「生身の近接攻撃に星力を纏わせる」、「生身でも武器を生成する」の3種類の特訓も行っている。


 だがあれから堕ち星は現れず、澱みもさらに減ってきている。

 それなのにお前達が特訓をしてどうするんだよ。


「連絡事項は全部だ。日直~」


 どうやらホームルームが終わるらしい。

 俺は考えるのをやめて、日直の号令に合わせて立ち、礼をする。


 そしてタムセンの「気を付けて帰れよ~」という言葉を聞きながら生徒が教室から出ていく。

 さて、俺はどうするか……とりあえず一度帰るか。

 そう考えているとき、いつものあいつが俺の席にやってきた。


「まー君!今日はどうする?」

「…どうせ由衣は自分がしたいことするだろ」

「え……機嫌悪い?」

「そんなことはない」


 事実を言っただけだが、由衣に機嫌が悪いように受け取られた。何故だ。

 そこに智陽が「何漫才してるの」と言いながらやってきた。

 俺と由衣の否定の声が重なる。

 

「それより!ちーちゃんはこの後どうするの?」

「2人がどうするかで決めようかなって」

「だったら、今いるメンバーでどこか遊びに行こうよ」


 俺達3人はその声がする方を向く。

 俺が声の主を確認するよりも先に、由衣が声の主に質問をする。


「すずちゃん!!…部活は?」

「今日は連休中に記録会に行く人だけ。私は出ないから休み」


 違うクラスの砂山 鈴保が後ろにいた。

 陸上部に復帰して以降、部活に行ってはいるが大会や記録会にはそこまで出ないことにしているらしい。

 それで怒られないのかと疑問には思う。

 だが俺が口を出すことでもないので何も言わないことにした。


 鈴保の提案に由衣が凄く喜んでいる。


「でも、すずちゃんから誘ってくるなんて珍しいね?」

「…別に。そんなことないでしょ。とりあえず行こ」


 そう言って鈴保は教室の出口まで戻っていった。

 その背中を由衣が追いかけていく。それに続いて智陽も。

 俺もとりあえず3人を追いかける。


 4人で下駄箱へ向かって校内を歩く。

 すると前を歩いている鈴保が口を開いた。


「佑希はなんか用事があるんだっけ」

「そうそう。ゆー君、3連休はこの街にいないって言ってた。多分お母さんと双子の妹のさっちゃんとは別で暮らしてるから、連休の3日間に会いに行ったんだと思う」

「ホームルーム終わったらすぐ帰ってたもんね」

「そう。日和は?」

「部活だって~。…しろ君は?」

「あいつ、今日は空手らしい」

「そっか~。じゃあここにいる4人だけだね。…どこ行く?」


 そんな女子3人の会話を聞きながら歩く。


 そして下駄箱に着いた俺達は靴に履き替えて、校舎の外に出る。

 どうやらとりあえずの行き先は決まったらしい。


「じゃあとりあえず、駅前まで行こっか!」

「賛成」

「わかった」


 面倒だ。帰りたい。

 帰って1人静かに蟹座の力を使う特訓をしたい。


 しかし、ここで俺だけ帰ると確実に文句を言われる。主に由衣から。その方が面倒だ。

 なので俺は仕方なく付き合うことにした。

 それより気になるのが…


「何で鈴保と由衣は俺の後ろ歩いてるんだ」

「…別に何でもいいでしょ。早く行って」

「そうそう。そんな細かいこと気にしてると嫌われるよ」

「ね!別にいいじゃんそんなこと!ほら、まー君前進!」


 下駄箱に着く前は鈴保と由衣が前を歩いていたのに、出ると俺以外の3人が後ろにいる。

 気になってツッコんだらこのざまだ。

 …こいつら時々俺にあたりが強くないか?


 だが反論するとまた3対1なのはわかってる。

 俺は諦めて校門に向けて歩き出す。


 後ろの3人の楽しそうな会話を少しだけ聞きながら、校門を通り抜ける。


 学校から直接駅前に行くにはどの道が一番早いだろうか。

 そう考えながら歩いていると、辺りに大声が響いた。

 何と言ったかは聞き取れなかったが。


 俺は何事かと思い、辺りを見回す。


「えっ、何!?」

「…今鈴保の名前呼ばれなかった?」

「いいから。早く行こう」


 智陽はどうやら聞き取れたらしい。

 だがやけに焦っている鈴保が俺と由衣の腕を引っ張る。

 何で焦ってるんだこいつ。


 そんなやり取りをしていると「鈴保!なんで逃げるんだ!」と言いながら男がやってきた。

 見た感じの年齢は40前後。これといった特徴もなく魔力や澱みは感じられない。


 その男を見た瞬間、鈴保は俺の後ろに隠れる。

 …どういう関係だ?

 そしてその男は俺を頭から足の先まで見た後、口を再び開いた。


「なるほど…君がうちの可愛い娘を殴ってる男か…!うちの可愛い娘をお前なんかにやらないぞ!」


 どんな言いがかりだよ。

 何で俺が鈴保を殴r…


「「「娘!?」」」


 俺、由衣、智陽の驚きの声が重なった。


 すると鈴保がため息をつきながら、俺の後ろから言葉を投げた。


「だから!あんたのそういうところがうざいって言ってんの!」




 どうやら、俺達は砂山家の親子喧嘩に巻き込まれたようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る