第114話 ズレている

 空気の膨張による爆風が廃墟横の駐車場に吹き荒れる。

 その爆風を土壁で防ぐ。


 爆風が吹き止むとほぼ同時に俺は身体から力が抜けて、膝をついてしまう。

 どうやら星鎧も消滅したらしい。


 最近はこの街に来た時よりは星力切れにならないため、少し張り切って魔術を撃ちすぎてしまったかもしれない。

 そこに見通しが悪く、姿が見えないペルセウス座がかけてきた。


「いやぁ…凄いね、真聡君。あんな範囲攻撃ができるなんて驚いたよ。流石にあれは避けれないよ」


 どうやらちゃんと当たったようだ。

 あの範囲攻撃を避けられたと言われたら完全にお手上げだ。

 俺は安心して深く息を吐く。


 舞い上がっていた砂埃と、溜まっていた魔力や星力が散っていて見通しが良くなっていく。

 すると、先程迄ペルセウス座がいた位置にプレートの姿のペルセウス座が浮かんでいた。

 後ろから由衣の声が聞こえる。


「姿が!」

「流石に6連戦はよくなかった。星力を使い切ってしまったらしい。今日はもう人型には戻れないかもね…」

「というかさ、真聡だけ規模が違うのズルくない?私達はちまちま近接で戦ってるのにさ。あんな広範囲の攻撃で一撃って…」


 鈴保がそんな文句を俺に投げてくる。

 …そう言われてもな。

 俺がたまたま魔術が使えるからこそ、こんな戦い方ができる。

 別に山羊座の特殊能力自体は強いわけではない。


 そんなことを考えていると、ペルセウス座が俺達の近くまで戻ってきていた。

 模擬戦も終わったので、とりあえず俺はちゃんと座る。


「まぁまぁ。そもそも俺に勝たないとダメとは言ってないから」

「そう言えば…言われてない」

「…ほんとだ!勝ちとは言われたけど勝てとは言われてない!」


 確かに日和と由衣の言うとおりだ。

 …まぁ「全力で」と言われたので全力を出した結果だ。

 今の自分の限界も見えたのでそこは気にしないことにする。


「さて、模擬戦をして見えた僕なりの意見を言わせてもらうね。

 まず初めに、実は僕は実力以外にも君達の中に見たいものがあったんだ。

 その点から今の君達を3つに分ける。1つ目は志郎君、由衣さん、日和さん。2つ目は鈴保さん。そして3つ目の佑希君と真聡君。

 1つ目の3人の方はまだ実力とか経験もまだまだ。だけど僕が見たいものは十分にあった。特に志郎君は1番良かったよ。最後の一撃は想いも星力も乗ってて、とても良かったよ」

「ほ、ほんとすか…!?」

「嘘を言う必要なんてないからね。もちろん、他の3人も良かったよ。これからも努力し続けるときっともっと強くなれる」


 その言葉を聞いた志郎は立ち上がり、喜びの声を上げながら両手を上に挙げた。

 今は由衣とハイタッチをしている。

 褒められたのがそんなに嬉しかったのか……どんだけ落ち込んでたんだ。

 ペルセウス座はそんな喜んでる3人を置いて話を続ける。


「次に鈴保さん。基本的には先の3人と一緒なんだけど…君からは少しだけ迷いを感じたんだよね。

 別に迷うなってことではないよ。でも、迷いは戦うときに邪魔になることが多い。だから解決できる問題は解決しておいた方が良いと思う」

「わかり…ました」


 そう答えながら鈴保は左手をぐっと握る。

 そんな鈴保に由衣と志郎が「悩みがあるなら聞くよ?」と声をかける。

 しかし、断られている。


 そんな4人を置いてペルセウス座が俺のすぐ近くでまで飛んできた。

 それを見た佑希も近くまで来た。

 そして少し声量を落として話し始める。


「最後の君達2人。2人は先の4人よりも頭1つ抜けて強い。今まで苦しんで、努力をして戦ってきたのがよく伝わってきたよ。

 でも、僕が見たいものが少し足りない…というか少しズレているように感じたんだよね」

「それはどういう意味ですか。俺達に何が足りないんですか」


 俺よりも早く、鬼気迫る声で佑希が質問した。

 まただ。

 時々感じる佑希の中の何か。


 佑希は堕ち星を倒すことに異常に執着している。


 それがズレとでもいうのだろうか。



 だが、俺も俺の中の何がズレているのかは気になる。

 そのため、言葉を発さずペルセウス座の言葉を待つ。


 十数秒の静寂の後、ペルセウス座は言葉を発した。


 「…答えは、君達が自分で考えた方が良いだろう。試練は自分の力で乗り越えるからこそ、成長できる。

 だから、僕ができるのはヒントを伝えることだけだ。本当にこのままでいいのか、とね。もちろんどうするのかは君達の自由だ」


 …何が言いたいんだ、ペルセウス座は。


 そう考えているとき「2人はどうだったの!?」という言葉と共に、由衣が俺の両肩に手を置いた。

 由衣の言葉に佑希が返事をする。


「4人より選ばれてからが長いから、その分の努力は感じれたって言われたよ。でも、これで満足してはいけないとも言われた」

「そっか~…2人は羽根の付いたサンダルでの急接近あの攻撃を避けれたもんね…」

「やっぱり戦ってる期間が長い人ほど強いよね…」


 由衣の言葉はどんどん力弱くなっていた。

 そしていつの間にかいた日和の言葉もいつもよりテンションが低い気がする。


 こいつらも、自分の実力不足を感じているんだろうか。

 …ペルセウス座の強さはかなり桁外れだからそこまで気にする必要は無いと思う。

 と言ってもきっと由衣から反論が飛んでくるのが目に見えたのでそっと胸の中にしまう。


「ほら、話し終わってるからさっさと聞いてみなさいよ」

「言われなくても自分で聞くって。というか何で急かされなきゃなんないんだよ」


 鈴保と志郎がそんなやり取りをしながら合流してきた。その後ろには智陽もいる。


「ペルセウスさん。俺に流星群を教えてください!お願いします!」


 そう言いながら志郎は頭を下げた。

 ペルセウス座は少し戸惑いながらも聞き返す。


「流星群って…あの流星群?」

「流星群のようなの攻撃を、以前にしぶんぎ座が使ってきたんです。そして、しぶんぎ座流星群は実在します。同じく、ペルセウス座の名を冠する流星群も存在します。

 それなら、ペルセウス座の力のあなたも流星群が使えるんじゃないんですか?」


 ペルセウス座の問に智陽がそう答えた。

 どうやら智陽も同じ考えに辿り着いていたようだ。


 流星群は実在する流星群の名の星座だけが使える。


 この推論なら俺が流星群が使おうとしても使えないのにも辻褄が合うからな。

 だが、ペルセウス座から帰ってきのは予想外の言葉だった。


「いやぁ…使ったことがないからわからないんだよね…。」


 その言葉に俺を除いたメンバー6人が驚きの声を上げた。

 俺も少しは驚いたが……冷静に考えると、星座の力の成り立ちから考えると使ったことがなくても不思議ではない。

 ペルセウス座は言葉を続く。


「でも、君達がそこまで言うなら今度試してみるよ。そして使えたなら君達にも教えよう」


 その言葉に志郎は再び喜びの声を上げる。

 あと由衣も目に見えて喜んでる。

 だが推論から考えると、使えるのはこの中だと志郎と佑希だけになるが……不確定なので俺は口にしないことにした。

 そこに鈴保が口を開いた。


「…じゃあ今日は教えてもらえないってことですよね」

「流星群に関しては…そうなるね。

 でも、他のことなら教えれるよ。4人は全ての格闘攻撃に星力を纏わせた方が良い。それならできるよ」

「…私達、戦ってるときは常に星鎧を身に着けてますよ?」


 由衣のその返事にペルセウス座は困ったような声を出した。

 …神代と現代は勝手が違うから困ってるんだろうな。

 そう思って俺は口を開く。


「星鎧を纏った状態で、さらに星力を乗せて攻撃しろって話だ。俺が炎や水を手や足に纏わせて攻撃するのと似たような感じだ」

「あ、そういうこと!?…なんで最初から教えてくれなかったの?」

「最初は星鎧を生成して維持するだけでも大変だからな。次の段階に進む時が来たってことだ」


 そう俺が返すと、由衣は納得した声を上げる。

 …まぁ魔術師的には近接攻撃の際は常に魔力を纏わせるのは常識だから忘れていたってのもあるが。

 俺の説明が終わったのを見て、ペルセウス座が再び言葉を発した。


「真聡君、説明ありがとう。でもさっきも言ったけど、やっぱり僕は人の形に成れそうにない。

 だから悪いけど、真聡君や佑希君が教えてあげて欲しい。あと志郎君も最後の攻撃が出来てたから君もね。もちろん、僕も見てるから」

「わかりました」

「うっす!任せてください!…でも自信ないから佑希、常にそうするコツを教えてくれないか?」

「ゆー君、私にも~!」


 そんなやり取りをしながら佑希、志郎、由衣がまた駐車場の中心へ向かって歩いていく。その3人の後ろに鈴保と日和もついていった。

 今度は智陽も何故かついていってる。


 …さっき星力切れになるまで戦ったのに、今日できるのか?


 そんな疑問を持ったが、とりあえず俺も後を追おうと立ち上がろうとする。

 そのとき、また肩に手が置かれた。


 俺は手の主を確認する。


 それはずっと黙って模擬戦を見ていた焔さんだった。

 俺は何の用か質問する。


「いやぁ…真聡も成長したなと思ってな。昔は星鎧を生成するのでも精一杯だったのにな」

「いつの話してるんですか」

「俺にとってはつい昨日のようなもんだよ。ところであの氷と火で起こした爆発、あれちょっと手間かかってないか?」

「それは思ってるんですけどね。いい方法が浮かばなくって」

「氷魔術って水分や魔力を凍らせる他にも熱を吸収できるって聞いたことあるぞ?その吸収した熱を火魔術に使ったらいいんじゃないか?」


 俺は焔さんのアドバイスを頭の中で解釈する。

 つまり、周りの熱を吸収してそれをそのまま攻撃に転じる…俺にできるのか?

 そう思ってると焔さんが口を開いた。


「今のお前ならある程度はできると思うぞ。この…何年?数年でだいぶ強くなったからな」

「約3年です。相変わらず時間感覚無茶苦茶ですね」


 俺がそう返すと焔さんは笑ってごまかした。

 そこに由衣の声が飛んできた。


「まー君~!!何話してるの~!?教えてくれないの~!?」


 その言葉で視線を駐車場中央に向ける。

 どうやらやはり星力の使い過ぎで、星鎧は生成できないらしい。

 それでもこいつらは今できることをやるのか…。


 もう戦いには関わって欲しくない。


 だが今それを伝えると確実に喧嘩になる。


 だから伝えるのは、全ての準備ができてからだ。


 それまでは、こいつらにある程度合わせよう。


 そう思いながら俺は立ち上がる。

 そして焔さんに「呼ばれたので行きます」と言って、仲間たちの下へ歩き出す。



 こうして、突然始まった神話の英雄による実力測定が終わった。



 俺と佑希と鈴保に、課題を残して。

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