第113話 桁が違う
ペルセウス座は普通に、余裕に戦ってるように見える。
しかし、流石にさっきの佑希との模擬戦は魔力や星力を使いすぎたらしい。
最後となった俺との模擬戦を前に少し長めの休憩となり、今はプレートに戻って沈黙している。
概念体でも疲れとかあるんだろうか。
それともやはり神秘が薄い現代では魔力不足に陥りやすいのだろうか。
そんなことを考えながら、俺は研究所跡の壁際に座ってペルセウス座の回復を待っている。
すると由衣が話しかけてきた。
「ねぇまー君。私達、星鎧を纏って戦ってるのに何で怪我するの?」
「それ私も気になってた」
由衣の隣に座っている日和も会話に参加してきた。
俺は2人の疑問に答える。
「服の上からでも怪我をすることがあるだろ。あれと似たようなものだ。星鎧は確かに俺達の身体を守るものだが、万能ってわけではない。受ける攻撃が強力だと普通に怪我するし、最悪死ぬぞ」
すると2人は納得と驚きが混じった返事をしてきた。
会話が終わった俺は佑希の方に視線を移す。
ちょうど佑希は鈴保に話しかけられていた。
「で、佑希。さっきの奥の手、あれ何?」
「あれは分身。まだ不完全で星力効率も良くないからこっそり特訓しててさ。実戦では使ってなかったんだ」
「でも1回目の地下貯水路で、1人でへびの概念体と戦ってたときに使ってなかった?」
「…見てたんだ」
「まぁね。チラッと視界に入ったぐらいだけど」
あのときから使えてたのか…。
いや、隠してただけでもっと前から使えていたのかもしれない。
そんな推測をしながら俺は確認のために佑希に質問をする。
「あれが双子座の特殊能力か」
「…まぁそんなところ。でも戦術としてカウントはしないで欲しいかな。まだ使いこなせてないから」
そう返されたとき、ちょうど手当てが終わったらしい。
佑希は焔さんお礼を言いながら立ち上がって軽く体を動かしている。
さっきの戦闘を見た感じ、既に十分な気がするが…。
自分と同じように動く分身を作るだけで難しいんだ。自分とは違う動きをする分身なんて高度な技、まだ何かあるんだろう。
そう考えていると、再び人型に成ったペルセウス座が「待たせたね、真聡君。模擬戦を始めようか」と言葉をかけてきた。
俺はそれに「よろしくお願いします」と返しながら、立ち上がる。
そして定位置となった駐車場の地点にギアを喚び出しながら向かう。
位置についた俺はペルセウス座の方を向き、いつもの手順でプレートを差し込んでギアを起動させる。
俺の身体を光が包み込み、星鎧を身に纏う。
そして、光は晴れる。
俺は初めに右手で杖を生成して、杖の頭をペルセウス座に向ける。
そして5発、無詠唱の星力弾を放つ。
しかし、ペルセウス座は剣と盾を使ってあっさりと弾き飛ばしてしまった。
だが予想通りだ。5回も同じような流れを見ていたから予想もつく。
俺は怯まず次の手を打つために杖先を地面につけ、短く言葉を紡ぐ。
「草木よ、叩き落とせ!」
そう唱えるとペルセウス座の周囲から蔓が生え、手元を狙って伸びていく。
狙いは剣と盾を叩き落として、両手をフリーにすること。
だが残念ながら蔓はあっさりと切られた。
ペルセウス座はそのまま回転切りを行う。
蔓は根元から切られ、消滅した。
所詮、俺の草木魔術は星力を使った模倣品。強度はない。
だがこうも簡単に対処されると少しへこむ。流石は会話のできる概念体と言ったところか。
いや、今はそう言ってる場合ではない。
次の手を打つため、思考を巡らせる。
しかし、ペルセウス座の方が早かった。
「さて、じゃあ行くよ」と言葉を発した次の瞬間。
もう既に元の位置にペルセウス座はもういない。
だが5回も見た技に対策を立ててないわけがない。
まず俺はバックステップで後ろに下がりながら、短く言葉を紡ぐ。
「土よ。我を八方から守る壁と成れ!」
唱え終わると同時に着地し、杖先をもう一度地面につける。
すると俺の周り、八方に高さ2m程の土壁が生成される。
第一段階は達成だ。
だがきっとこれくらいで止められない。
俺は次に無詠唱で身体能力魔術を使い、土壁を蹴って空へ舞う。
俺の身体は地上から5m程の高さまで飛んでから、落下を始める。
戦場を見下ろすとペルセウス座が土壁の1つを破壊しようとしていた。
だが壊す前に俺が上に飛んだことに気づいたようだ。
俺は落ちながら短く言葉を紡ぐ。
「火よ、全てを焼き溶かせ!」
地上に向けている杖の頭から炎が溢れ出す。
その炎はペルセウス座の目の前にある土壁に直撃し、溶けた土が周囲に流れる。
しかし、ペルセウス座は土が溶け始めた瞬間に後ろに下がっていたため当たらなかった。
土魔術も草木魔術と同じで星力での再現品だ。
そのため、本物の土よりも低い温度でマグマのような状態にすることも可能だ。
これなら当たるかと思ったんだが…避けられた。
そう考えながら俺は土壁が消滅した戦場に着地する。
俺が体勢を立て直して再び構えると同時にペルセウス座が語り掛けてきた。
「なるほど…面白い戦い方だね。じゃあ…これはどうする?」
その言葉を残してペルセウス座の姿が消えた。
佑希がフラッシュのカードで突破した姿が消える兜。
どこから来る?どう突破する?
そう考えていると、左後ろに気配を感じた。
俺は反射的に全身を星力で守りながら振り向く。
そして杖で攻撃を受ける構えを取った直後。
両手、そして全身に凄まじい衝撃を感じる。
同時に俺の身体は吹き飛び、地面を転がる。
5人の戦いを見て覚悟はしていた。だが実際受けてみると予想以上だ。
受けたのは恐らくシールドバッシュ。
ペルセウス座も本気ではないはずだ。
それなのにこの威力。
流石は神話の英雄由来の星座、桁が違う。
4人が手も足も出ないはずだ。
…だが、俺はこんなところで止まるわけにはいかない。
そう思いながら俺はとりあえず立ち上がり、神経を集中させる。
だが足音は聞こえない。
恐らく足音が立たないように歩いている。
そうなるとじっくり考えてる暇はない。
気づいたときには攻撃を受ける直前はもうごめんだ。
現在地はさっき吹き飛ばされたため、駐車場の端に移動していた。
座ってる仲間の位置は大体正面。
…あそこまで届かない威力まで絞るか。
そう思って俺はまた短く言葉を紡ぐ。
「電流よ。空気中に流れ、隠れし者の居場所を炙り出せ!」
そう唱えると同時に杖の頭を自分の身体の前側、大体180度を左から右へ振ってから杖先を地面につける。
すると俺を中心に半円を象った電気が空気中に流れ、広がっていく。
そして電流の下に目を凝らす。
電流が通り過ぎるのはほぼ一瞬。
だが俺は駐車場中央、俺から見て斜め右前辺りを電流が通った際に、少しだけ地面が暗くなったのは見逃さなかった。
恐らく、ペルセウス座が電気を飛んで避けた際にできた陰だろう。
居場所を推測した俺は杖を消滅させて、地面を蹴る。
まずは一応フェイントのために左斜め前に着地する。
そこからさらに右斜め前方向。先程暗くなった位置の右辺りをめがけて再び地面を蹴る。
着地と同時に攻撃に入るために着地直前に言葉を紡ぐ。
「水よ。我が右腕に宿りて、全てを押し流せ!」
イメージするのは振りぬいた右腕を起点に正面を水流が押し流す光景。
それならペルセウス座が多少移動していても当たるはず。
そして着地して、右腕を振りぬく。
拳が当たった感触はない。
だがイメージ通りに右腕を起点に水流は発生した。
俺は流れていく水に目を凝らす。
すると水は俺の正面、5mほど奥で不自然な流れ方をした。
俺はもう一度距離を詰めて今度はそこに蹴りを叩き込む。
何かにあたった感触。
だがこれは恐らく手だ。
そう判断した俺は掴まれる前に距離を取る。
するとペルセウス座が姿を現しながら、言葉を投げかけてきた。
「なるほどね。段階を踏んで場所を絞って攻撃を当てる。真聡君も実力はなかなかみたいだね」
「ありがとうございます」
「ところで…真聡君は他の星座の力を使わないの?」
「…他の5人は使えないのに俺だけが使ったらズルいじゃないですか」
「確かにそれはそうかもね。…真面目だね、真聡君は」
「…どうも」
「そんな真面目な君、これはどうする?」
そう言いながらペルセウス座は再び袋を生成し、その中からメデゥーサの首を取り出した。
そして石化光線が飛んでくる。
俺はその色のない光線を右に避ける。
色はないが濃い神秘の力のため、少しだけ光線が景色を歪ませている。
そのため集中すれば、目視で避けれないことはない。
だが、それは疲れる。
だからこそ、俺は策を立ててある。
とりあえず、俺は次の光線が飛んでくる前に走り出す。
そんな俺の行動を読むように光線が飛んでくる。
俺はそれを避け、ときには氷魔術を撃ち返してペルセウス座の周りを走る。
光線とぶつかった氷魔術は石のような、氷のような塊となって地面に落下する。
だがこれだけじゃ足りないと思い、俺は氷魔術を撃てる限り撃ちまくる。
駐車場には石化光線と氷魔術がぶつかってできた塊と氷魔術だけで作られた氷の塊が増えていく。
そして戦場は徐々に温度が下がっていく。
なおも俺は走りながら石化光線を避けている。
すると観戦している仲間たちが寒がっているのが一瞬だけ視界に入った。
それを見てそろそろ仕掛けるべきだと思い、俺は走りながらも杖を生成して短く言葉を紡ぐ。
「氷よ、全てを凍てつかせろ!」
唱え終わる当時に杖の頭をペルセウス座に向ける。
杖先から冷気が放たれる。
ペルセウス座はメデゥーサの首を消滅させて、盾を生成して防ぐ。
しかし、先程水魔術を受けて濡れていたのと、周りの温度が低いために少しずつだが凍っていく。
だがきっと長くは動きは止めれない。
俺は氷魔術を発動し続けながら、少しずつ移動する。
十数秒後、ペルセウス座が膝のあたりまで凍り付いた。
それを確認した俺は急いで地面を蹴る。
そして言葉を紡ぐ。
「火よ。人類の文明の象徴たる火よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、我が前に立ちはだかる試練を焼き払い給え!」
唱え終わると同時に壁際に座っている仲間達の前に着地した。
そして、杖の頭をペルセウス座に向けて炎を放つ。
炎は一直線にペルセウス座へと向かう。
同時に俺がずっと氷魔術で冷やていた戦場の空気が暖められる。
急激に温度が上がったため、空気の膨張による爆発が発生する。
そして
炎が
爆発が
爆風が
ペルセウス座を飲み込んだ。
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