第112話 分身
「ヒリヒリするから嫌だ~~!!」
「じっとしてってば」
「ほっておくと大変なことになるぞ~?」
「それはぁ……」
「隙あり」
「ナイス日和。じゃあ私が反対側を」
由衣は後ろから無言で近付いてきた日和に手首を握られた。
その後すぐに反対側の手首を智陽にも捕まれた。
そして由衣は「うひ~~!!」という悲鳴を上げながら、焔さんに擦り傷の消毒をされる。
俺はその光景を座りながら眺めている。
模擬戦した後なのに元気だな、由衣も日和も。
志郎の模擬戦から数十分後。
その後は鈴保、由衣の順番で行い、先程日和も終わった。
由衣は日和の模擬戦中、ずっと消毒から逃げ回っていた。そのため日和の方が先に傷の消毒された。
結局、まだ誰もペルセウス座に一撃を入れれず、星力切れまで追い込まれた。
ちなみに今のところ志郎が一番いい戦いをしていた。
肝心の本人はよほど悔しかったのか、終わってからほとんど無言だが。
そこに、休憩を取っていたペルセウス座が戻ってきた。
どうやら長時間概念体を維持するのはキツいようだ。
そうなると、今まで戦ってきた概念体はどうなんだという話になるが…それはおれが聞きたい。
「さて、真聡君と佑希君。どっちが先にやる?」
別に順番などはどうでもいいんだが…。
ペルセウス座の問いそう思いながら、俺は同じく座っている佑希の方を見る。
すると佑希と目が合った。
数秒視線が合った後、佑希が立ち上がった。
そして「俺からお願いします」と言って歩いて行った。
…気を遣わせたな、たぶん。
佑希はそのまま、俺達側の定位置となりつつある位置まで歩いていく。
そしてペルセウス座と向かい合い、いつもの手順で紺色と黄色の星鎧を身に纏った。
そして、模擬戦5戦目が幕を開ける。
先に動いたのはやはり佑希。
素直に距離を詰めて剣を振るう。
ペルセウス座はその攻撃を盾で防ぐ。
金属音と共に弾かれる一撃。
しかし、佑希は怯まず剣を振るう。角度や狙う位置を変えながら。
だがペルセウス座はどの剣撃も防ぐ。
剣と盾がぶつかる金属音が廃墟の駐車場に響く。
何度か響いた後、佑希が後ろに下がって距離を取った。
やはりペルセウス座を正面から力比べで突破するのは無理そうだ。
そこに「じゃあ次はこっちから」とペルセウス座が距離を詰めたきた。
もう既に佑希の目の前にいる。
神話にもある羽の付いたサンダルの能力だろう。
内容は…素早く動けるとかだろうか。
いや、これだとシンプルすぎるか?
だが今まで戦ってきたどの相手よりも早い。
先に模擬戦を行った4人全員、これを突破できていない。
そして、佑希にペルセウス座のシールドバッシュが迫る。
しかし佑希は自分に盾が当たる直前、左手で生成したカードを叩きつけた。
その瞬間、佑希とペルセウス座は煙に包まれる。
そして煙から佑希がバックステップで煙から飛び出してきた。
追撃は来ない。
どうやらあのサンダルによる初撃は対処できたようだ。
佑希はそのまま煙の中にカードを投げ込む。
煙の中で爆発が起きた。
投げたのは爆発するカードのようだ。
それに続いて、佑希はカードを投げた場所から少し右側にずれた場所から煙の中に突入する。
再び鳴り響く金属音。
同時に煙が晴れる。
状況としては先程と同じようにペルセウス座が盾で佑希の攻撃を防いでいた。
佑希は再び後ろに下がって距離を取る。
やはり不意打ちはペルセウス座に通用しないらしい。
佑希はペルセウス座の様子を窺っている。
「なるほどね…。じゃあ次、行ってみようか」
その言葉と同時にペルセウス座の姿が消えた。
どうやら姿が消える兜を使ったらしい。
…容赦ないな。
どこから攻撃が来るかわからない状況。
佑希は剣を構えながら、辺りを見回している。
次の瞬間、鈍い音と共に佑希が左方向に吹き飛んだ。
恐らくペルセウス座の攻撃を受けたのだろう。
だが吹き飛ぶ直前、佑希は右を向こうとしていた。
どうやら直前には気づけたらしいが、対応が間に合わなかったらしい。
佑希は既に立ち上がり先程と同じように警戒している。
そして、今度は上にカードを投げた。
嫌な予感がした俺は座っているメンバーに「目を閉じろ」と声をかける。
次の瞬間、目を閉じていても眩しいと思うほどの光を感じる。
その次に金属と何かがぶつかったような鈍い音が響いた。
目を開けると、佑希の蹴りをペルセウス座が受け止めていた。
透明になっているペルセウス座の居場所をフラッシュのカードで特定したんだろう。
強い光だと透明になっていても影ができるんだろうか。
俺がそう考えているうちに佑希はまた距離を取った。
この不意打ちもどうやら失敗したようだ。
…マジでどうやって突破するんだよ。
「なるほどね…佑希君は実力はあるみたいだね。だったら…これはどう対処する?」
様子を窺っている佑希にペルセウス座はそう言い放つ。
そして剣と盾を消滅させて、袋を生成した。
その中から出てきたのは、髪の毛が蛇の女性の生首。
それを見た瞬間、智陽が驚きの声を上げた。
「メデゥーサの首!?」
「それって…あれか?さっき言ってたペルセウスが倒した見た物を石にするってやつか?」
「そう。…本当にペルセウスじゃん」
志郎が智陽に確認するかのように尋ねた。
…まぁ神話とかは普通の人間には馴染みがないか。
次に、「…ゆー君大丈夫だよね?」と隣に座ってる由衣が不安そうに呟いた。
俺はそれに「加減はしてくれるだろ」と返す。
だが、内心俺も不安だった。
メデゥーサの首は受けるだけで石化するはずだからな。
俺達がそんな会話をしている間にも、メデゥーサの石化光線が佑希を襲う。
透明の光線を佑希は走り、カードを投げて何とか直撃を避けている。
今は何とかなっているが…これは攻撃する暇がないだろ。
数十秒続いた後、いきなり石化光線が止まった。
そしてペルセウス座が再び口を開いた。
「佑希君、まだ奥の手を隠してるよね?使ったら?それ」
その発言に俺達高校生6人は驚きの声を上げた。
佑希の戦闘スタイルは武器は剣、そしてカードは光、煙、爆破の3種類。ここまでに出た物しか知らない。
だがよく考えると双子座らしい能力は1つもない。
どんな能力を隠してるんだ…佑希は。
そう思いながら佑希を見る。
数秒の沈黙の後、佑希は言葉を発した。
「…あまり出したくないですけど、確かに出さないとダメそうですね」
佑希は左手を右から左に振り、ペルセウス座に向けてカードを投げる。
しかし、メデゥーサの石化光線に撃ち落とされて1枚残らず爆発した。
佑希は今度は左手を上から振り下ろしてカードを投げた。
だがまたしても、カードは石化光線を受けてペルセウス座に命中する前に爆発した。
さっきから2回の爆破カードを投げた。
しかし、何も変化がないように見える。
佑希の奥の手とはなんだ?
そう思ったとき、ペルセウス座を通り越して背後に着弾していたカードが膨らんだのが視界の隅に入った。
そのカードは見る見るうちに大きくなり人型と成った。
その人型は紺色と黄色の鎧を纏い、手には剣を持っている。
地面に刺さっていたカードは、双子座の星座騎士と同じ姿に成った。
その星座騎士はペルセウス座の背後から斬りかかる。
しかし、ペルセウス座は右に動いてその一撃を避けた。
そこに移動地点を読んでいたかのように佑希が斬りかかる。
ペルセウス座はメデゥーサの首を消滅させて、再び盾を生成してその一撃を防いだ。
そこから佑希ともう1人の星座騎士の連撃がペルセウス座を襲う。
だがペルセウス座は剣と盾を駆使して、その連撃を受け続ける。
佑希のもう1体の星座騎士…推定「分身」との連携は隙がないように見える。
俺があれをやられたら受けきれない自身しかない。
それをペルセウス座は志郎の時から同じ様子で対処している。
…神秘そのもの、どれだけ強いんだよ。
そう思いながら、佑希とのペルセウス座の攻防を見守る。
硬直した状況は、ペルセウス座の一手によって突然に終わりを迎えた。
ペルセウス座が佑希と分身の攻撃を剣と盾で受けてから払い上げた。
佑希達の重心が後ろに傾く。
その一瞬の隙にペルセウス座が回転切りを佑希達の胴体に叩き込んだ。
分身は消滅し、佑希は吹き飛ぶ。
そして地面を転がる。
星鎧は消滅した。
ここまでの戦績。
星座騎士5人、誰1人としてペルセウス座本体に攻撃を当てれず終了。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます