第129話 絵の中
私の意識は暗闇の中。
頭がぼーっとする。
まだ寝足りない気がする。
でも、体が揺すられてる気がする。
あとなんか名前を呼ばれてる気がする。
「由衣。ちょっと由衣。目を覚ましてってば」
私はその声と共に目を開ける。
すずちゃんの顔がすぐ目の前に見える。
頭がまだぼんやりする。
でもとりあえず、返事しないと。
「すずちゃん…おはよぉ…」
「何寝ぼけてるの。…何?本当に寝てたの?状況分ってる?」
すずちゃんが呆れたような声でそう言った。
状況…?
そもそもさっきまで何してたっけ?
私は頑張ってこうなる前の記憶を思い出す。
えっと…美術館に行って…絵を見てたら受付のお姉さんが来て…。
それで…なんか体験させてくれるって言われたから着いて行った。
そして、部屋に入ると絵に吸い込まれそうになって…。
「そうじゃん!!絵に吸い込まれたんだった!!」
私寝てたわけじゃない!
通りで寝た気がしないはず!
私は慌てて起き上がる。
すずちゃんは既に避けていたので顔はぶつけなかった。
「危機感ないの…?」
「あはは…………じゃあ、ここは絵の中ってこと?」
私は辺りを見回しながら聞く。
すずちゃんは「たぶんね」と答えてくれた。
見覚えのある光景。
星雲市の今の駅前近く。
よく行くから流石に間違えない。
私は広場で目を覚ましたみたい。
そしてようやく、もう1つの異変に気が付いた。
「…ゆー君は?」
「私が気が付いたときには由衣しかいなかった。吸い込まれたときにはぐれたのか、それとも置いて行かれたのか」
「ゆー君が置いていくとは思えないから、はぐれたんだと思うけど…」
私がそう言うとすずちゃんは「じゃあ探さないとね。あとここから出る手段も」と言いながら立ち上がった。
私も立ち上がりながら「ここ、本当にあの絵の中なの?」と聞いてみる。
「…絵の中じゃなかったら、昼間の駅前広場に私達しかいないのおかしいでしょ。あとスマホも変だし」
確かにさっきから人の気配がしない。
そして私は後半の言葉に驚いて、急いでスマホを取り出す。
充電はある。
でも圏外で時計も表示されてない。
私は思わず「え…どうなってるの?」と呟く。
「私もわからないわよ。ただ、電波がないってことは本当に絵の中ってことなんでしょ」
そして「とりあえず移動するよ」と言ってすずちゃんは歩き出した。
私はその背中を追いかけて、隣に並ぶ。
すると私は今頃すずちゃんのお腹に巻かれているものに気が付いた。
「…あれ?ギア…消えてないの?」
「そう、なんか消えてない。…由衣、自分のも消えてないのに気が付いてなかったの?」
私はそう言われて自分のお腹に目を向ける。
確かにギアが巻かれている。
何で気が付かなかったんだろ…。
いや、それよりもさ。
「何で消えてないの?」
「さぁ。私がわかるわけないでしょ。こういうのは真聡に聞かないと」
「そうだよねぇ…」
その言葉を最後に会話が途切れる。
私達は無言でひたすら歩く。
私は無言が苦手。普段なら絶対話しかけてる。
でも今は異常事態。
それに喋っててゆー君の声や脱出の手がかりを逃したら大変。
だから我慢して周りを警戒しながら歩く。
私達は駅前ロータリーまで来た。
辺りを見渡すために、歩道橋に上って改札の方へ行く。
「…本当に誰もいないね」
「というか、絵の中なのに広くない?」
「確かに…」
外で見た絵は駅の下から改札を見上げる形で描かれていた。
でも私達が目を覚ましたのはその絵の外の広場。
…どうなってるの?
そのとき、何かの音が聞こえた。
「由衣、今の」
「うん。聞こえた!行こ!」
どこから聞こえたのかわからない。
でも、何かの手がかりが掴めるかもしれない。
私達はそう思って走り出した。
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