第128話 厄介ごと
あれからしばらく、4人で雑談をしていた。
今は日和と智陽が日和の買った雑誌の話で盛り上がっている。
俺はそんな2人をぼんやりと眺める。
すると、会話に入れない志郎が俺に話しかけてきた。
「そういやさぁ。相談したいことがあるんだけど聞いてくれるか?」
「なんだ」
「いやぁ…流星群が上手くできなくってさぁ…」
流星群。
星力を流星のように撃ちだす技。
ペルセウス座との模擬戦以降、メンバーは定期的に使うための特訓をしている。
だが使えるのは流星群が存在する星座だけだろう。
つまり、山羊座の俺は使えない。
…この話は前にしたはずなんだがな。
そう思いながら俺は「使えない俺に聞いてどうする」と返す。
「でもよ!ペルセウス座の他には真聡しか聞く相手いねぇんだよ!な!」
「…当てにならなくても文句言うなよ」
「言わねぇって!…で、どうすればいいと思う?」
丸投げかよ。何が聞きたいかもう少し考えてから聞いてくれ。
そう思いながら俺は志郎に質問する。
「何で困ってるんだ」
「ん~~~あ、ほら。からす座やペルセウス座が流星群を撃つときはさ、周りに…星力?を集めてから撃ってただろ?俺、あれがまずできないんだよなぁ…」
確かにからす座が使ってたしぶんぎ座流星群や見せてもらったペルセウス座流星群は周囲に魔力や星力の塊を展開していた。
そもそも、周囲に魔力の塊を展開するのは確か高等部で素質がある魔術師だけが学ぶ難しい技術のはずだ。
それを適正もわからない、数カ月前まで一般人だった人間がいきなり使えるわけがない。
神秘保持者と成ろうともそういう問題点は魔術師と同じはずだ。
じゃあどうすればいいか。
まずは…志郎の適正や得意なことは何だ?
俺は1つの打開策が浮かんだため口を開く。
「志郎はガントレットから斬撃を飛ばせたよな」
「できるけど…それは流星群に関係あるか?」
「さぁな。だが、星力を飛ばすことはできるんだ。そっちから考えたらどうだ?」
「そっちから……どうしたらいいんだ…?」
思わずため息が出そうになる。
…まぁそうだよな。
これは魔術の基礎などをすっ飛ばして戦わせてる俺が悪い。
だが、知りすぎたら戻れなくなる。
俺は仕方なく、必要そうな情報だけを選んで口にする。
「周囲に星力を展開できなくても、飛ばすことはできるんだろ。だったらその方向でやってみたらどうだ」
「それで…流星群になるのか?」
「それはわからん。そもそも俺は使えないと言っただろ」
「あっ…まぁとにかく参考にしてやってみるわ!ありがとな!」
そう言って志郎は俺の背中を叩く。
「叩くな」と言おうとしたとき、テーブルの上のスマホに着信が入って震え始めた。
あの画面はメッセージアプリではなく電話だ。
俺は志郎の手を払らってスマホに手を伸ばす。
予想通り、電話の相手は「丸岡刑事」と出ていた。
厄介ごとの予感がする。
俺はメンバーに「電話に出る」と言ってから部屋の外に出る。
そして受話ボタンを押す。
「お待たせしました。陰星です」
『丸岡だ。悪いな休みの日に』
「いえ。事件ですか?」
『まぁ…事件と言えば事件だな。
とある施設で従業員が客と物置に入ってから出てこない。そして物置の扉が開かないって通報があってだな。警察官が行ったところ本当に扉が開かないらしい。
扉を壊そうとも、扉には傷もつかないそうだ』
…何で扉が開かないだけで俺にまで連絡が来るんだ。
だが、傷がつかないのは変だ。
俺がそんな疑問を抱いているとスマホから『何か気になることがあったか?』と丸岡刑事の声がする。
俺は聞かれたので素直に聞いてみる。
「扉が開かないだけで何で俺にまで連絡が来るんですか」
『怪物事件が続いている以上、警察としても警戒しないといけないからな。少しでも変な事件なら
それに傷が1つもつかないのは変だと思わないか?
今回は従業以外にも客の巻き込まれてるらしくて人数が多い。だから連絡したんだ』
確かに現場に行ってみる価値はあるかもしれない。
そう思って俺は現場はどこか尋ねる。
『現場は星雲市の邸宅街にある小さな美術館だ。名前は…』
星雲市邸宅街にある小さな美術館。
その言葉に聞き覚えしかない俺は丸岡刑事よりも早く、美術館の名前を口にしていた。
「彩光 風色美術館」
『そうだ…行ったことがあるのか?』
「…今日、3人の友人がそこに行ってるんです」
『まさか…』
「今日は連絡を取ってないので可能性としてはあります。急いで現場に向かいます」
『俺も今から現場に向かうから乗せて行こう』
「…わかりました。準備して警察署に行きます」
『おう。待ってるぞ』
俺は電話を切って急いで部屋に戻る。
すると3人が「誰から?」「何だったの?」と口々に聞いてくる。
俺は「ちょっと用事が出来たから出てくる」と答える。
そして、念のためいくつかプレートを持っていこうと棚を見たとき、重要なことに気が付いた。
俺は自分が気づいていないことに驚き、足が止まる。
丸岡刑事の話を聞いたときはまだ「由衣達は関係ない。どこかで楽しく休日を過ごしているだろう」と思っていた。
だがこうなった以上、その可能性は限りなく低くなった。
確実に由衣達は厄介ごとに巻き込まれている。
いきなり動きが止まった俺に「今度はどうしたの?」と日和が聞いてくる。
俺は思わず、その原因を口にした。
「レプリギアがない。…ちょうど3人分」
そう。棚からはレプリギアが3つなくなっていた。
置いてある順番的に由衣、鈴保、佑希の分だろう。
日和は棚を見て同意の言葉を発する。
「待って。何が起きてるの?」
「そうだぞ。説明してくれないとわかんねぇぞ」
後ろから智陽と志郎の言葉が飛んでくる。
連れて行く気はなかったが…状況は変わった。
俺は仕方なくかいつまんで説明する。
「由衣達が行った美術館で従業員とお客さんが部屋から出てこない」
「んでその部屋の扉が開かない…まさか立て籠もりか!?」
「でも要求とか何も出てないならそうとは限らないんじゃない?」
日和と志郎が俺の説明を復唱する。
そして志郎の疑問に智陽が指摘をした。
「で、3人のレプリギアが無くなってると…何で気が付かなかったの?」
「お前だって鈴保に説明した時にいたから、レプリギアの転送見てるだろ。あれ結構気が付かないものだぞ」
「でも真聡、午前中は1人でいたんでしょ?それなら気が付きそうなものだけど」
智陽が鋭く切り込んでくる。
俺は渋々、何をしていたか口にする。
「課題をしていて気が付かなかった」
「どれだけ集中してたの…?」
智陽が凄く呆れた声でそう呟いた。
…途中集中できず、以前に由衣から送られてきた「お気に入りのAusのカバーリスト」を聞いていた時だったんだろうか。
……もっと気を引き締めないといけない。
人の命を預かっているんだ、俺は。
そう思っていると、日和がスマホを出しながら口を開いた。
「とりあえず、3人に連絡取らないと」
「だな!俺は鈴保にしてみるわ」
「私は由衣に」
「佑希は俺がする。智陽は堕ち星や澱みの出現情報を念のため探ってくれ。
それと、現場まで丸岡刑事に車に乗せてもらうことになってる。だからとりあえずここ出るぞ。荷物は最低限にしろよ」
俺は今いるメンバーにそう指示を出して、部屋を出る準備をする。
こうして、休日の平和な時間は幕を下ろした。
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