第133話 逃げてばっか

 時間は真聡と画架座の堕ち星の戦闘が始まった直後まで遡る。


☆☆☆


 画架座の拳を払って、俺は返しの拳を叩き込む。


 当たりはした。

 しかし、反対側の腕で受けられた。


 そして後ろに下がる画架座。

 追撃はしてこないのか…。


 そう思ったとき。


 後ろから斬撃が飛んできた。

 俺の横を通り、画架座に向けて飛んでいく。

 その斬撃を画架座は避ける。


 そこに水弾が飛んでいく。


 流石に避けれなかったらしい。

 水弾は画架座の胴体に命中した。


 …今、絵の中に吸い込まれなかったか?

 そう考えたとき、今度は後ろから苦情が飛んできた。


「だから!何で1人で始めるんだよ!」

「避難誘導は必要だろ。そもそも、誰のせいでいきなり戦闘が始まったと思ってる」


 俺が反論すると、苦情を飛ばしてきた志郎が横に並びながら呻き声を上げた。

 同時に日和も合流してきた。

 2人とも既に星鎧を身に纏い、それぞれの武器を手に持っている。


 いつもよりも真剣な声で日和が疑問を投げてきた。


「…それより、由衣達はあの堕ち星に倒されたってことなの」

「…いや、それを違うと思う」

「じゃあ3人はどこに消えたの!?」


 「俺だってわからねぇよ!」という反論が口から出そうになる。

 しかし、それよりも早く志郎が「今は言い争ってる場合じゃねぇって!来るぞ!」と叫んだ。


 俺達は迫ってくる画架座の攻撃を分かれて避ける。

 そして俺は指示を飛ばす。


「とりあえず、こいつを無力化するのが先だ。俺と志郎が前に、日和は後ろから援護」


 そう言い切って、俺は画架座との距離を詰める。

 そしてパンチの予備動作に入る。


 しかし、俺が拳を振るうよりも早く、画架座は後ろに下がった。


 下がった画架座を志郎が追撃する。

 だが、画架座はその追撃すら避けた。


 そして日和の水弾は腕で弾き飛ばした。


「何だよあいつ!襲ってきたと思ったら逃げてばっかじゃねぇか!」

「というか、由衣がいないと倒せないでしょ」


 志郎の文句に続いて、日和の指摘が飛んでくる。

 俺は日和に言葉を返す。


「…いや、こいつはいきなり堕ち星に成った。概念体の可能性が高い。概念体ならば、由衣がいなくても無力化できる」

「んだけどこっちの攻撃全く当てられねぇじゃん!どうすんだよ!」


 …志郎の意見はもっともだ。

 襲ってくるわりにはこちらの攻撃を悉く避ける。


 考えていると、また画架座が攻撃を仕掛けてきた。

 志郎が「また来たし!」と叫びながら応戦する。


 このままだと埒が明かない。

 俺は何か使えるものがないか庭園を見渡す。

 すると池が目に入った。


 ……これならいけるか?

 1つ策を思いついた俺は指示を飛ばす。


「志郎、日和。画架座を池に誘導してくれ」

「…どうするつもり?」

「池の水ごと画架座を凍らせる。それしか思いつかん」

「ならやるしかねぇな」


 志郎と日和が画架座の誘導に入る。

 俺は杖を生成しながら、美術館の屋根の上に移動する。


 屋外の庭園とはいえ、あまり建築物を破壊はしたくない。

 だが、今回ばかりは仕方ない。場所が狭すぎる。


 そう思いながら、俺は杖頭を池に向けて言葉を紡ぎ始める。


「氷よ。世界に永遠を与える氷よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、澱みに塗れ堕ちた星と成りし画家の座に」


 全てを言い切らず、氷魔術を発動する直前で止める。

 白色の魔法陣が杖頭に展開される。


 あとは志郎と日和が画架座を池の中に落としたら撃つだけだ。

 池まではあと少し。


 画架座は志郎の打撃から逃げる。

 そして逃げた先を日和の水弾で池の方向へ誘導する。


 画架座がバックジャンプした。

 着地先は…この距離だと池の中だ。


 今だ。


「永遠なる眠りを与え給え」


 俺が最後の言葉を紡ぐと、杖頭から池に向かって氷魔術が放たれる。

 画架座が着水するのとほぼ同時に着弾し、凍てつく。



 はずだった。



 画架座は空中で身体を捻り、落下するタイミングがずれた。


 氷魔術は池の水だけを凍てつかせる。


 そして画架座は凍った水面を蹴り、池から離脱した。

 画架座は土の上に着地して、氷魔術が掠った部分を気にしているようだ。


「…何だ今の!?」

「何が起きたの…?」


 志郎と日和が驚きの声が聞こえてくる。

 いや俺だって何が起きたのかわかってない。

 身体を捻った時に星力を放出して、タイミングをずらしたのか?


 とにかく、次の策を練らないといけない。

 今のが避けられた以上、不意打ち0距離でもない限り避けられるんじゃないのか?


 画架座はまだ動いていない。

 どう攻めたらいいんだ。

 そう思ったとき。



 突然、画架座が苦しみだした。身体中央の絵を抑えるように。



 数秒も経たないうちに、両手の隙間から光が漏れだす。



 そして、光と共に何かが飛び出した。



 それは2人の人影。

 


 その片方は、白上 由衣だった。

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