第132話 元の世界に
絵の中に吸い込まれた私達の前に堕ち星が現れた。
その黒い身体の真ん中に私達を吸い込んだ絵がある。
「な…何で堕ち星がここにいるの!?」
「というか何であの絵がここにあるわけ!?」
驚きのあまり、私とすずちゃんはそれぞれ疑問を口にする。
「やっぱり堕ち星が出たか……!」
ゆー君が怒ってる声でそう呟きながら、星鎧を生成する手順を取り始めた。
でも私は、服の裾が掴まれていること気が付いた。
振り向くとそこには、一色 綾乃さんがいた。
目の前に堕ち星がいる。
でも、一色さんはここにいる。
やっぱり、一色さんは堕ち星じゃなかった。
じゃあ、あの堕ち星は?
だけど直接聞いたって、一色さんはわからないかもしれない。
何かがぶつかる音がする。
その方向を見ると、既にゆー君が堕ち星と戦ってる。
そうだよ。私も戦わないと。
でも、一色さんを放ってはおけない。
それにここから出る方法はわかってない。
困った私の口から「私…どうするべき…?」と言葉が漏れた。
それを聞いたすずちゃんが「何1人で悩んでるの」と聞いてくれた。
私は短く考えてたことを伝える。
「だったら、私が佑希と一緒に堕ち星を抑えとくから。由衣は一色さんから話を聞いてから来て」
「え…いいの?」
「人の話を聞くのは由衣が1番向いてるでしょ。それに、あの堕ち星と戦ってもここから出れるかはわからないし。
でも、堕ち星を元の人間に戻すのは由衣の力が必要なのは忘れないでよ」
「じゃあ待ってるから」とすずちゃんは最後に言ってから、星鎧を生成する手順を取り始めた。
私は「ありがとう。すぐ行くから」と言葉を返す。
そして私は一色さんと向き合って、言葉を選びながら質問する。
「一色さんは、あの怪物について何か知ってますか?」
「何も…わかりません……なんで私の絵の中に怪物が…」
一色さんは途切れ途切れにそう言ってくれた。
多分パニックになってるんだと思う。
パニックになってるってことは…本当に何も知らなかったのかな。
私はもう1つの疑問を聞いてみる。
「最初に私達のことを邪魔者って言いましたよね?」
「そ…それは…」
「あ!怒っても責めてもいません!ただ…誰かに聞いたのかなって…」
「さっきお話しした
「邪魔する人…」
堕ち星が出てきたのに一色さんは私達のことも堕ち星のことも知らないみたい。
つまり、一色さんにこうする方法を教えた人は私達のことを知ってたってこと?
でも…へび座もからす座も倒したよね?
…じゃあいったい誰が?
考えてもわからない。
今はここから出ることを考えなきゃ。
私は考えるのをやめて、次の質問を口にする。
「ここから出る方法を知りませんか?」
「…わかりません。自分が吸い込まれるなんて思ってもいませんでしたので…」
それは…そうだよね…。
私は悩みながらも戦場に目を向ける。
車1つない車道で、堕ち星と2人の星座騎士が戦っている。
…一色さんから何も聞けないなら、私も戦いに行かないと。
「…でもなんであの怪物の身体に私の絵が埋まってるんだろう」
一色さんが呟くようにそう言った。
私もそれは気になってた。
何でここに、そして堕ち星の身体にあの絵があるんだろう?
あの絵は元の世界のあの部屋にあって、私達はあの絵に吸い込まれてこの世界に来た。
…え、本当に何で堕ち星の身体に埋め込まれてるの?
私は疑問を持ちながらゆー君達の戦闘を見る。
状況は変わってない。
お互いがお互いの攻撃を受けて、避けている。
でも、なんか変な感じがする。
すずちゃんの槍での突きを堕ち星は腕で受ける。
そこにゆー君が剣で斬りかかる。
堕ち星はそれを後ろに下がって避けた。
なんか…いつもの堕ち星よりも逃げてばっかりじゃない?
そのとき、胴体の絵から水が飛び出してきた。
その水は宙を舞い、落下して地面を濡らした。
隣にいる一色さんが「…今の水…何?」と呟いた。
私もわからない。
でも、堕ち星の攻撃じゃないことは分かった。
それに…何かあの水…見覚えが…
「…ひーちゃんの攻撃?」
今の水はひーちゃんの武器の銃から発射される水弾に似ていた。
そして、私達はあの絵に吸い込まれてこの世界に来た。
もしかして……堕ち星の身体にある絵に飛び込めば、ここから出れる!?
私は一色さんに「出る方法、見つかったかもしれません。私、ちょっと行ってきます」と言って立ち上がる。
プレートを生成してギアに挿し込んで、いつもの手順を取って星鎧を身に纏う。
歩道の柵を乗り越えて、車道に出る。
そして杖を生成して、3匹の羊を突撃させる。
羊はゆー君とすずちゃんの間をすり抜けて堕ち星に向かっていく。
1匹目は腕で叩き潰され、2匹目は足で蹴られて消滅した。
だけど、3匹目は後ろに回り込んでいた。
堕ち星の背中に半透明の羊が激突した。
堕ち星はその衝撃で前へ押される。
そこに、ゆー君とすずちゃんが武器で攻撃する。
しかし、その攻撃を堕ち星は両腕で受け止めた。
そして押し合いもせずに堕ち星は後ろに下がった。
私はその隙に2人に合流する。
「何かわかった?」とすずちゃんが質問してくる。
私は「絶対って言い切れないけど」と言ってから、私の考えを口にする。
「さっきの水さ、私はひーちゃんの武器から発射されたやつだと思うの。
もしそうならさ、こっちからあの絵を触れば元の世界に戻れるんじゃない?」
「あの絵が入口なら、何で私達が気が付いたときにはあの堕ち星が側にいなかったわけ?」
「それは…」
すずちゃんからの返事に私は言葉を詰まらせる。
ほぼ同時に、堕ち星が襲って来た。
私達が構えるより先に、ゆー君が前に出ていた。
ゆー君は堕ち星の拳を受け流して、足を払う。
堕ち星は体勢を崩した。
しかし、片足と片手を使って飛び跳ねて距離を取られた。
残されたゆー君がため息交じりに呟く。
「それ以前に、堕ち星の動きが止められないとあの絵に入ることもできないぞ」
「それはそう。由衣の羊も私の毒も効いてないみたいだからね」
すずちゃんの言う通り。
堕ち星は私の羊に背中から激突されたのに、全然平気そうに動いていた。
…それってつまりさ。
「あの堕ち星って…偽物なんじゃないの?」
「あんなに頑丈な幻ってある?」
「……いや、ありえない話じゃない。元の世界に本体がいる…いや、俺達は堕ち星の中にいる…のかもな」
「嘘!?」
「…マジ?」
「結局、あいつの動きを止めないと話が始まらない。来るぞ」
また堕ち星が近づいて攻撃を仕掛けてきた。
今回はゆー君が事前に言ってくれたので、私達はそれぞれその場を離れる。
でも…どうやって動きを止めよう?
距離を空けて、堕ち星の動きを見ながらそう考える。
そこにゆー君の「目を閉じろ!」という叫びが聞こえた。
私は慌てて目を閉じる。
すぐに目を閉じていても眩しいほどの明るさを感じた。
ゆー君がフラッシュのカードを使ったんだと思う。
こんなに眩しいと流石にあの堕ち星でも動きが止まるはず。
流石ゆー君、頭がいい!
心の中で感動した直後、何かがぶつかった音がした。
もう眩しくないので目を開けると、ゆー君と堕ち星が戦っていた。
まさか、今のも効いてないの!?
私は混乱しながらも、戦うためにゆー君のところへ向かう。
杖を振りかぶって、堕ち星を叩く。
でもまた、受け止められて距離を取られた。
そしてまた、襲い掛かってくる。
今度はすずちゃんが攻撃を受ける。
もちろん私達も加勢に入る。
私達ができることはほとんどやった。
それなのに、この堕ち星を倒す方法が全然わからない。
堕ち星の攻撃に対処しながらそう考えていると、ゆー君が口を開いた。
「…1つだけ方法がある」
「あるの!?」
「あぁ、俺があいつの動きを何とか止める。由衣と鈴保はその隙に絵に触れてくれ。戻れるならそのまま元の世界に戻れ」
でもそれって、ゆー君はこの世界から帰れないってことだよね。
そう思ってると、今度はすずちゃんが口を開いた。
「それ、あんたは犠牲になるってことでしょ」
「そんなつもりはない」
「そう。でも、私も残るから」
すずちゃんが堕ち星を蹴りながらそう言った。
私は慌てて確認する。
「でもそれって、2人がこの世界から帰れないってことになるよね!?」
「そうかもな。でもさっきの水が日和の攻撃なら、少なくとも向こうに日和がいるはずだ。向こうで本体を倒したら帰れる可能性はある」
「そうね。それにもし由衣が帰れたのなら、私達も隙を見て試してみるから」
すずちゃんがそう言い切ったとき、また堕ち星が襲って来た。
私達はまた別れて攻撃を避ける。
ゆー君が「俺と鈴保でこいつを取り押さえる。準備はいいな」と確認してきた。
でも……。
「待って!一色さんを連れて帰らないと!」
「放っておけ。俺達をここに吸い込んだ本人だぞ」
「それでも…一色さんだって騙されてたんだよ?」
「それでも本人がやった罪は消えない」
「あ~も~!!由衣の好きにさせたらいいでしょ!由衣!一緒に試すなら急いで!」
すずちゃんはそう言って堕ち星とまた戦い始める。
私はすずちゃんにお礼の言葉を叫ぶ。
そして、歩道の柵に隠れている一色さんの元へ走る。
「一色さん!元の世界に戻りましょ!」
「由衣さん!?で…でも…私は…由衣さん達を…学生さんたちを…」
「悪いと思ってるなら、余計に戻りましょ!あの怪物を倒して、この世界を消す。それに協力してくれることが、一色さんにできることです!」
私は柵を掴んで、一色さんの目を見る。
…星鎧で顔が隠れているから、一色さんからは私の目は見えないと思うけど。
「…わかりました。お願いします」
「うん!戻りましょ!」
私はゆー君とすずちゃんに叫んで、合図を送る。
そして、柵を超えて車道を歩く。
「2人が怪物を押さえつけてくれるので、その隙に絵に触ります。予想が正しければ元の世界に戻れるはずです」
「は…はい…」
作戦を伝えた私は「走ります!」と言って走りだす。
ただ、私は星力と星鎧で普通の人より速く走れるから一色さんに合わせて。
元の姿に戻ってもいいんだけど……もし、失敗して堕ち星が暴れたら一色さんを守らないといけない。
だから、あえて星鎧はこのまま。
ゆー君とすずちゃんが堕ち星の腕を掴んで押し倒した。
「由衣!」
「うん!一色さん!一緒に!」
「はい!」
そして私達は地面に押し付けられた堕ち星の身体の真ん中にある一色さんの絵に触れる。
その瞬間、私達の身体は強い力に引っ張られて絵の中に引きずり込まれた。
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