第131話 開かない扉
俺達4人は丸岡刑事が運転する車に乗せてもらって、彩光 風色美術館までやってきた。
その途中、丸岡刑事から美術館館長である彩光 風色の話を聞かせてもらった。
要約すると
「今日、彩光 風色はたまたま学芸員の一色 綾乃という女性の顔を見に来た。
すると美術館の扉は開いているのに中には一色 綾乃どころか誰もいない。
不審に思い、監視カメラを見たところ「一色 綾乃と女性2人と男性1人がこの部屋に入る姿」が映っていた」
とのことらしい。
由衣達には連絡が付いていない。
俺はその2つの事実に不安を覚えながら、車を降りる。
そして丸岡刑事に続いて美術館の中へ入る。
すると1人の警察官と高齢の女性、彩光 風色本人が出迎えてくれた。
俺達と丸岡刑事は2人の案内で2階に向かう。
途中、別の警察官がやってきて日和、智陽、志郎を監視カメラの映像の確認に連れて行った。
そして、俺は開かない扉の前にやってきた。
数人の警察官と他の学芸員らしき人がいる。
「これが開かない扉ねぇ…」
「この部屋は使ってないはずなんですけどねぇ。建付けが悪いはずでもないですし…」
丸岡刑事の呟きにそう答える彩光 風色。
しかし、残念ながら俺にも普通の扉に見える。
だが妙な気持ち悪さがある。
俺は許可を取って扉に近づく。
木製の扉。
パッと見て違和感はない。
俺はドアノブに手をかけて、とりあえず開けようとする。
扉を引く。
だが開かない。
しかし、これは物理的によるものじゃない。
魔術によって、開くことが阻害されている。
…色々と面倒なことになってきたかもしれない。
だが、今はこの扉を開くのが先だ。
俺はどうやって開けるかを考えながら、ドアノブから手を放す。
「やっぱ開かねぇか?俺代わるぞ?」
「力づくで開くわけないでしょ。だから真聡が呼ばれたんだから」
「もしかしたら開くかもしれないだろ」
その声で振り向くと日和達が後ろにいた。
どうやら確認が終わったらしい。
聞かなくてもわかっている答えを聞く前に、俺は志郎へ言葉を返す。
「智陽の言う通りだ。これはただの力づくで開けれるものじゃない」
「え、じゃあマジで堕ち星が関わってるのか?」
「そこまでは分からん。で、由衣達はこの中か?」
「うん。消えた3人は由衣達で間違いない。顔もしっかり映ってた」
日和が少し心配そうに残念な結果を教えてくれた。
そうなると早くこの扉を開けないとな。
…あまりやりたくないけど、強引に行くか。
ただ最低でも鍵部分が、最悪の場合扉ごと駄目にする可能性がある。
俺は館長である彩光さんに確認を取る。
「扉自体は開けれると思います。ただ、この扉を壊してしまうことになるかもしれません。それでもいいですか?」
「えぇ、ここは作品が入ってない倉庫ですので。でも…本当に開くんですか?」
「…何とかします。みなさん、離れていてください」
俺がそう言うと彩光さんと警察官は後ろに下がっていった。
俺は今度はドアそのものに触れてみる。
そして軽く星力を流してみる。
結果としては弾かれた。
やはり扉そのものに防御魔術の類が張られている。
通りで傷1つもつかないわけだ。
これだと、扉そのものを攻撃したって仕方がない。
そうなると…
俺はもう一度ドアノブを握る。
そしてドアノブから星力を流してみる。
手に静電気のような軽い痛みを感じた。
どうやらまた弾かれたらしい。
だがこれは、拒否されて弾かれた感覚だ。
弾かれるまでに一瞬だが間があった。
これなら行ける。
俺は左手でドアノブを握り、回そうとする。
同時に星力を流し始めて言葉を紡ぐ。
「我、星の力を分け与えられし者也。故に我、神秘を宿す者也。その神秘において命じる。汝が閉ざせしものを解放せよ」
手に伝わってくる傷みが激しくなってくる。
だが俺は気にせず、星力を流し続ける。
すると少しずつドアノブが回り始めた。
俺は右手も加えて、両手でドアノブを回す。
もちろん星力を流し込みながら。
格闘し始めて数十秒ほど経っただろうか。
ドアノブが回り切った手ごたえを感じる。
俺は扉を押す。
すると扉は何事もなく開いた。
俺はトラップを警戒して、ドアを蹴り飛ばす。
扉は勢いよく開いた。
勝手に締まる気配はない。
どうやら開かないようにされていただけのようだ。
後ろから称賛の声や拍手が聞こえるが、俺は気にせず次に移る。
「智陽はそのまま警察の方たちと待機、日和と志郎は来てくれ」
「ようやく出番か!」
「…どうやって開けたの?」
「そうそう。話す前に次行こうとするのやめてよ」
どうやら日和と智陽はそっちが気になるらしい。
話してる暇も惜しいが…口うるさく言われる方が厄介だ。
俺は諦めて後ろを向いて3人に軽く説明を始める。
「扉が開かないように仕掛けがされていた。だが、特定の人間は開けれるようにもされていたらしい。
俺はその仕掛けの隙に星力を流し込んで仕掛けを無理やり突破した。これでいいか?」
「…やっぱ力づくじゃね?」
「…お前らにはその仕掛けがわからないだろ」
魔術の話はしてないからな。
だが、言わない方が良い。
もし本当に魔術師と戦うならこいつらは巻き込めない。
そう思いながら俺は日和と志郎に話の続きをする。
「俺が先に入る。安全が確認できたら指示を出すから入ってきてくれ」
そう言って俺は部屋に足を踏み入れる。
部屋はそこそこ広い。
だが、左側と奥の壁にあるカーテンが閉め切られていて薄暗い。
部屋の中にあるのは中央にある画架に置かれた色鮮やかだが、妙な気配のする絵画だけ。
そしてこの部屋、澱みが濃い。
しかし、魔術師の部屋とかではなさそうだ。
…まぁもしそうならもっと強固な守りがされてるはずか。
罠もなさそうなので俺は志郎と日和に「入ってきても大丈夫だ」と伝える。
「暗いな…」
「というか由衣達は?」
部屋に入ってきた2人がそう呟いた。
そう。肝心の由衣達がいない。
だが3人がそう簡単に負けるとは思えない。
佑希もいたしな。
そう思いながら日和の言葉に返事を返す。
「いないな。どこに消えたのか…」
俺は入口から1番近いカーテンと窓を確認する。
特に罠的なものはない。
窓は大きさは俺より少し小さいぐらいだろうか。
だが、扉と同じ「特定の人物しか開けられない仕掛け」がされている。
そうなると、窓から脱出した可能性はない。
とりあえず、1つカーテンを開けてみる。
本当にどこに消えたんだ…?
そしてカーテンを開けてから気が付いたが、床に何か刺した跡がある。
あれは何だ?
「なぁ…あの絵、何だ?」
ほぼ同時に志郎がそう言いながら絵に近づいていく。
しまった。
こういう状況でも正体不明なものに近づくのは由衣だけじゃなかった。
いや、1番目立つものを後回しにした俺が悪いか。
そもそも入っていいとしか言わなかったのが悪いか。
そんなことを考えながら「どう見ても危険だろ!近づくな!」と叫ぶ。
志郎は「え?」と言わんばかりの顔で振り向く。
次の瞬間、絵が。
画架が動き出した。
画架は黒いオーラを放ちながら人型に成る。
「志郎戻って来い!」
俺がそう叫ぶも、画架の腕が振り下ろされる。
しかし、志郎はその一撃を右側に転がって避けた。
俺は「草木よ!縛れ!」と言葉を紡ぎながら床に左手で触れる。
すると画架の足元から蔓が生えてきて、腕や足に絡みついて動きを縛る。
「嘘だろ!?いきなり堕ち星!?」
「え…何座?」
「画架座だ!全員避難させろ!」
混乱する日和と志郎に指示を飛ばす。
そして、俺は時間を稼ぐために草木魔術の維持に集中する。
画架座。
星座としての歴史は浅い星座。
そのため、星座としての力も知名度も高くないはずだが…。
こいつに由衣達はやられたのか?
だが派手に戦った感じはしない。
見た目は全身真っ黒だが、身体が木で出来ている感じがある。
そしてさっきの絵は身体の中央にある。
あの絵はそれほど大事なのか?
そんな推察を立てたとき、蔓が引き千切られた。
流石に生身の簡易詠唱だと堕ち星相手だとこんなもんか。
とりあえず星鎧を生成しなければ。
それに屋内では戦いづらい。
そう考えながらもギアを呼び出そうとする。
しかし、それよりも早く画架座の腕が飛んでくる。
顔を狙ったのような軌道。
俺はそれを避けて右の拳で反撃する。
だが反対の腕で止められた。
俺はすぐに右腕を戻して、今度は右足で蹴りを叩き込む。
しかし、それも止められてしまった。
やはり生身で堕ち星の相手はキツい。
そう思いながら足を戻す。
そして後ろに下がって距離を取る。
それよりも早く、画架座の足が飛んでくる。
星鎧を生成する隙どころか、ギアすらまだ喚べてない。
避けれる距離感でもない。
俺は仕方なく無詠唱耐衝撃魔術で攻撃を受ける体勢を取る。
画架座の足は綺麗にお腹の前で構えた俺の両腕を捉えた。
俺はそのまま蹴り上げられて、窓に激突する。
窓は怪物に蹴り飛ばされた男子高校生が激突した衝撃に耐えきれず、割れた。
俺の身体は美術館の外へ放り出される。
…いや、窓には防御魔術は使われてなかったのかよ!?
そんな驚きと共に俺の身体は2階から落下する。
というか、このままだと俺は地面に叩きつけられる。
それは困る。
俺は急いで左手を地面に向けながら言葉を紡ぐ。
「風よ。吹き荒れ、我が身体を押し上げろ!」
すると左手から地面に向かって風が吹き荒れる。
俺はその風の威力を調整しながら地面に降り立つ。
どうやら1階から見えていた庭園に落ちたようだ。
そして、さっき俺が落ちた窓を見上げる。
壊れた窓の前の堕ち星が立ってこちらを見ている。
「…建物は壊したくなかったんだがな」
そんな呟きが思わず口から零れた。
だが自分の判断ミスだ。今さら言ったって仕方ない。
俺はそう自分を言い聞かせながらギアを喚び出す。
堕ち星はそのまま窓枠を乗り越えて飛び降りてきた。
俺はプレートを生成してギアに挿し込み、いつもの手順を取って構える。
「星鎧生装」
その言葉と共にギア上部のボタンを押す。
するとギアの中心部から山羊座が飛び出し、俺の身体を光が包み込む。
その光の中で俺は生成された星鎧で身を包む。
そして、光は晴れる。
邸宅街にある美術館の日本庭園で、神秘の力が激突する。
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