第072話 仲間がいれば
商業施設街のとある建物の屋上で2人の男が睨み合っている。
1人は弓を引き絞り、相手の眉間をいつでも射抜ける状態。
もう1人は相手に向けて左手を伸ばしている。その左手は電気を帯びており「バチバチ」という音が辺りに響いている。
先に口を開いたのは弓の男だった。
「俺の勝ちだ」
「それはどうかな」
「やはり弱者か。この状況をわかってないのか?俺はいつでもお前の頭を射抜ける。俺の勝ちだ」
「その言葉をそのまま返す。俺の左手には電気が溜まっている。この電気は俺が死んでも辺り一帯を焼き尽くす。近くにいる女性も巻き込んでな。」
「やっぱり…気づいてたんですね」
そう言いながら女が物陰から現れる。
弓の男もそうだが、俺たちと同年代に見える。
男は目線と矢先を俺から逸らさずに女に文句を言う。
「何故出てきた。邪魔だ」
「もうやめよ。それに私達の負けだし」
「何を言ってる。」
「気づいてないわけじゃないでしょ?私達は…囲まれている」
「そうだぞ。俺達は1人じゃねぇ」
男女を挟んで反対側に橙の鎧の星座騎士がガントレットを装備して、戦闘態勢に入っている。
それとほぼ同時に男女中心に円を描くように3人の星座騎士が姿を現れた。全員武器を構えている。
男女は完全に囲まれている。
俺は「この状況でもまだ自分が勝ったと言えるか?」と問いかける。
すると弓の男の舌打ちが聞こえた。
だがここまで追い詰めた。ここでこの2人の素性を知っておきたい。
俺は続けても男女に質問をしようとする。
しかし、それよりも早く鈴保が口を開いた。
「…待って?
「…何で私達の名前を知ってるの?」
「私、砂山 鈴保」
そう言いながら鈴保は星鎧を消滅させる。
何故こいつらは何の躊躇いもなく星鎧を解くんだ…
危機感とか無いのか…?
俺がそんな事を考えていると男の方、射守が「誰だ」とバッサリ切り捨てる。
それに女、矢持がツッコむ。
「いや、中学一緒だったでしょ。それに高校も同じだし」
「知らん。そもそも興味がない」
こいつ冷たすぎるだろ。
同じ中学を卒業した相手を忘れるか?一緒にいる矢持と呼ばれたやつは覚えているのに。
そう考えていると何故か頭が痛くなってきたので考えるのをやめる。
「鈴保ちゃんも怪物退治してるの?」
「まぁね」
「それなら…私達と目的は一緒だと思うし協力できるんじゃない?ねぇ聖也」
気がつくと女性2人が話を進めている。
まぁ、もともと素性を知るつもりで仕掛けた。
それにさっきまでの攻撃からみるに、射守 聖也はかなりの手練れだ。もし手を組めるなら上々だ。
おそらく相手もそうだろう。
しかし、射守 聖也から帰ってきた言葉は俺の予想とは真反対のものだった。
「…仲間がいないと戦えない弱いやつと手を組む必要はない。」
「は?」
「お前…どういう意味だよ」
「そのままの意味だ。それとも、言葉の意味がわからないほど馬鹿なのか?」
「お前!!」
「やめろ」
射守の言葉に怒る志郎を止める。
確かに腹が立つやつだ。去年までの3年間の中等部でもよくこれで喧嘩になった。
あの頃はこのまま喧嘩になり魔術の打ち合いが始まった。
しかし、ここはあの学校ではない。
俺は落ち着いて考えをまとめる。
やはり腹は立つ。
だがこの男が言うことは一理ある。
他人と群れているときは強くなったつもりでいるが、1人だと何も出来ないやつは実際にいる。
俺だってそうかもしれない。俺1人では堕ち星を元の人間に戻すことすらできない。
もっと言うと仲間の助けがなければ俺はどこかで死んでいたかもしれない。
確かに俺は弱い。
だが俺はわかっているはずだ。
この男が言っていることは正しくもあるが、間違いでもあると。
俺は反論を口にする。
「…確かに群れるやつは弱いかもしれない。だが一概にそうとも言えないだろ。1人だけではできないことだってある。…1人では届かないものでも、仲間がいれば手が届くこともある」
「…言い訳か。やはり弱いやつが群れているだけか。」
「お前マジでさっきから!」
「しろ君ストップ!!」
射守の発言にまたもや志郎が怒りを露わにする。
しかしそれを隣にいる由衣が止めに入る。
…こっちは任せていいだろう。
俺はもう1度反論する。
「…そうかもな。だが1人でいることが正解であり、強い証であるとも限らない」
「言い訳か。見苦しい。話にならん。」
射守はそう言い残して包囲網を由衣がいた場所から抜け出し、立ち去っていった。
すると今度は矢持が口を開いた。
「すみません。悪い人じゃないんですけど、昔からあんな性格で…でも皆さんの行動を見てる限り、多分私達とは敵ではないと思います。聖也には私からもう一度話をしてみます。せめて次からは攻撃に巻き込まないように言っておきますので、今日はこれで失礼します」
そう言い残すと矢持は射守の後を追って行った。
どうやらこの建物は屋上に出る扉の鍵が閉まってないらしい。
結局2人とも去っていった。
まぁ、顔と名前がわかっただけでも良しとするか。
そう思いながら俺が認識阻害魔術を解くと、鈴保以外も星鎧を解いた。
最初に口を開いたのは志郎だった。
「なぁ真聡。行かせて良かったのかよ。俺達なら勝てるだろ」
「誰のせいで包囲網に穴を開けることになったと思ってるの?」
「でもあれは腹立つだろ!」
「志郎、鈴保。やめろ。…志郎、何故そこまで射守に腹を立てる」
「そうだよ!しろ君、前にまー君に色々言われたときは怒らなかったじゃん」
「いやぁ…何かよ。あいつの言葉はなんか腹が立つんだよな…理由はわからねぇけど…。あとみんなと居るから弱いってのは気に入らねぇんだよなぁ」
「それは凄くわかる……ところでまー君。さっきの言葉は…私達のこと、認めてくれてるってことでいいの?」
俺は由衣から目を逸らす。
なんと言えば良いかわからない。
ただ言えるのは「認める認めない」と「巻き込みたくない」は別問題だ。
しかし、ここでそれを口にすると確実に由衣達に全てを話す必要が出てくる。それは避けたい。
そう考えていると由衣が近づいてきて「どうなの〜?」と俺をつつき始める。志郎も一緒になって。
正直言って少し鬱陶しい。言わなければ良かったかという後悔が頭をよぎる。
この場から逃げたい。
そう思ったとき、助け…ではないが助けが現れた。
「…何してるの?」
「あ!ちーちゃん!」
「なかなか帰ってこないから心配で探しに来た。ところで、さっき男女とすれ違ったけど…誰あれ」
「あの男がこの前から矢を撃ってきたやつだ。女性の方は…」
そこで俺は言葉に詰まる。
結局矢持は一体射守の何だったんだ?フォローをしていったが…
考えていると由衣も「…確かに何だったんだろね、矢持 満琉ちゃん」と言いながら首を傾げている。
恐らくここにいる全員が不思議に思っているだろう。
「なんか男の方どこかで見たことある気がするんだけど…」
「射守 聖也。弓道の全国大会に出るくらいの天才」
「え…今のがあの射守 聖也?」
「ちーちゃん知ってるの?」
「新入生代表挨拶だったでしょ」
「あぁ…そう言えばそうだっけ」
「あれ射守だったんだ…通りで見たことある気が…」
「…俺それ以外でもみたことある気がするんだけどな」
「俺はないぞ」
「えぇ〜〜……わかんなくなってきた……」
由衣の頭にはてなマークが浮かんでいるのが見える気がする。
だが俺もそう言われるとどこかで会ったことがある気がする。
しかし、今そんな不確かなことを考える必要はないだろう。
とりあえず…ここから移動した方がいいだろう。
俺はまだ射守 聖也をどこで見たかを考えている仲間たちに「帰るぞ」と言い、さっき男女が消えた方へ向け歩き出す。
すると何やら笑いながら由衣を先頭に皆が追いかけてくる。
さっきのまで言い合いをしていたのが嘘のようだ。
そんな楽しそうな仲間たちとは対照的に、俺の心にはまた泥のような重さがあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます