第071話 敵か味方か
日直の号令で椅子から立ち、礼をする。
そしてタムセンの「気をつけて帰れよ〜」という声を聞きながら生徒たちが教室を後にしていく。
今日も平和に6時間授業が終了した。
こぎつね座との戦いから約1週間が経った。
終わってからは夏休みと変わらず、澱みとの戦いの日々だ。
…たまに向っても何もいない時があるが。
堕ち星と成っていた森住 晶はまだ目を覚まさないらしい。
超常事件捜査班の調べによると2カ月ほど堕ち星と成っていた。協会にも澱みに侵食された人間の情報はほとんどないらしい。
つまり、森住 晶はいつ目を覚ますかわからない。
やはり協会に連絡して協会運営の病院に転院して貰うべきか。
そんな事を考えていると誰かが俺の隣に来た。
「まー君?どうしたの?」
「…別に。少し考えてことをしていただけだ」
「あんまり無理するなよ〜?」
「というか真聡君、今日朝から顔色悪くない?」
「いつもに増してクマが酷い」
「やっぱりそうだよね!?ここ1週間ぐらい前より酷いと思ってたんだけど…」
同じクラスの由衣、佑希、智陽、そして何故か長沢 麻優が俺の席に集まっていた。
俺の席に集まったくせに俺を抜いて盛り上がるな。他所でやれ。
…というかなぜ長沢までいるんだ。
俺の顔色の話。
恐らくシンプルな寝不足だろう。
こぎつね座の堕ち星の幻覚は全員が受けていが、全員特に影響はなかった。
しかし、俺はあの日以来悪い夢を見ることが増えた。
あの幻覚のような夢や天秤の堕ち星と戦った日の夢など内容は様々だが、いい夢ではないことは間違いない。
そのため、眠れないときや目が覚める時が以前より増えた。
「真聡君、ちゃんと寝てる?寝た方が良いよ?」
「…ほっとけ。というかなぜお前までいる」
「今日は用事ないからたまには真聡君達と話したいなぁ〜って」
「そういえば1学期に行った遠足の班のメンバーがこの4人だったんだよな?」
「そうそう!ゆー君が4月から戻ってきていたら5人で行けたのにね〜」
「確かにな…お前も女子ばっかりだったら気まずかっただろ?」
佑希が冗談交じりに言いながら俺の肩に手を置く。
俺は「別に。というか置くな」と返しながらその手を払う。
実際、あの頃はそれどころでは無かった。
面倒に感じてきた俺は先に帰ろうと鞄に手を伸ばす。
その手を智陽が阻んだ。
「澱み出たって。長沢さんいるけど、どうする」
「俺は先に行く。お前らは…適当に来い。」
俺は鞄を取り、急ぎ足で教室を飛び出した。
☆☆☆
澱みが出た場所は駅前の商業施設街だった。
由衣達は結局俺について来た。
長沢になんて言って出てきたのやら。
そして志郎や鈴保もすぐに合流し、珍しく最初から5人揃っていた。
そのため澱みの数はそこそこいたが、そこまで時間はかからなかった。
「これで……終わり!!!」
そう言いながら由衣が澱みを杖で殴り飛ばす。
殴られた澱みは溶けるように消滅していった。
辺りを見回すが、澱みは見当たらない。
しかし、俺が口を開くよりも先に由衣が口を開いた。
「戦闘…終了?」
「澱み見当たらないし終わりでいいんじゃない?」
「だな!お疲れぇ〜!」
「お疲れ〜!」
「お疲れ」
何故か言葉が盗られた。
志郎と由衣と佑希がグータッチをしている。
そして鈴保が巻き込まれている。
…楽しそうだなこいつら。
とりあえず星鎧を解こうとギアに手をかける。
そのとき、異様な空気と共に不気味な音が鳴り響く。
俺は改めて戦闘態勢を取る。
辺りを見回すとまた澱みが湧き出していた。
数は30体はいるだろうか。
「嘘!?また!?」
「最近このパターン増えたよな…」
「本当に面倒」
「真聡。どうする」
「やるしかないだろ」
全員、それぞれ武器を再生成して構える。
澱みは少しずつ迫ってくる。
全員踏み出し、戦闘再開
しようとした瞬間、別の場所から魔力、いや星力を感じた。
場所は…上だ。
見上げると無数の矢がここに向けて既に落下を始めている。
しかし、全員を守れるほど距離は近くない。
俺は仕方なく「上だ!避けろ!」と叫びながら、上空に無詠唱風魔術で対抗する。
この矢は鈴保が蠍座概念体に刺されたときと同じ矢だ。
俺は行方不明のレプリギアの持ち主がこの矢を撃ったものだと考えていた。
しかし、そのレプリギアの持ち主は佑希だった。
そして佑希が選ばれた星座は双子座だった。戦い方は剣と星力で生成したカードを投げる。
そもそもここにいる。
つまり、この矢を撃っているものは別にいる。
考えればすぐに分かることだ。
しかし、こぎつね座の堕ち星との戦い。そして焔さんへの文句ですっかり忘れていた。
誰の仕業か、敵か味方かを突き止めねば。
現状は味方とは思えないが。
矢の雨が止まった。澱みは消滅している。
次の攻撃が来る気配はない。
しかし、今日はどこから撃ってるか確認できない。
ここは駅前の商業施設街。地上から屋上が見えない建物ばかり。
そのため屋上から撃っている場合は地上からでは見えない。
だが、今日でその正体を知っておきたい。
そう思った俺は追尾魔弾を上空に向けて撃ちまくる。
十数発は撃った。
次に佑希に向かって叫ぶ。
「佑希!煙幕出せるか!?」
「出せるが…お前…」
「とりあえず出来る限り広範囲に出してくれ!あと全員集まれ!」
「無茶言うなぁ…!」
そう言いながらも佑希は星力で作ったカードをばら撒き、煙を発生させる。
自分でも無茶ぶりだとは思うが…出来るんだな…煙幕…
数十秒後、煙幕が戦いの場を覆い隠す。
そして全員集まったので、煙の中で作戦会議を始める。
「何か考えがあるの?」
「直接捕まえる」
「うわぁ単純…」
「何でこっちを見るんだよ!?」
「それ以外ないだろ。悪いが4人全員で囮を頼むぞ」
「囮!?じゃあ私達ずっとあの矢から逃げ回るの!?」
「俺達は遠距離攻撃手段がないから仕方ないだろ」
「言い争ってる場合じゃないぞ。2回目が来てる」
佑希のその言葉で意識を外に向ける。
確かに上空からさっきと同じような星力を感じる。
俺は「全員散開!」と指示を出しながら煙の外へ向けて走り出す。
「我が身体。我が存在。何人たりとも視る事、識る事、聴く事、認識する事叶わず」
言葉を紡ぎながらギアをプレートから抜き取り、星鎧を消滅させる。
攻撃が来ている以上、星鎧を解くのは危険だ。
しかし、星鎧を纏ったままでは認識阻害魔術の効果は薄くなる。
理由は星鎧の星力が強すぎるからだ。
認識阻害魔術の1番効果が高くなるのは、生身で魔力使用と放出を極限まで絞った状態だ。
だが結局遠距離の撃ち合いだと俺が不利なのは確実だ。
そのため、バレないうちに間合いに入りたい。
走り出して数十秒で煙幕を抜けた。
次に俺は極限まで星力による身体能力強化を抑えながら、建物の外壁を跳び移って屋上を目指す。
屋上に登ってあたりを見回す。
すると、少し離れたビルに弓を持っている男が目に入る。
星力も感じる。
あいつだ。
俺はさらに星力使用と放出を極限まで抑えて、男に近づく。
あと建物1つまで来た。
そのとき、男が突然こちらに向けて矢を放った。
俺は咄嗟に避ける。
偶然にしては的確に俺を狙いすぎている。
そう考えた次の瞬間、2射目が来る。
もう一度避ける。
しかし、その避けた先を狙って既に3射目が放たれている。
だが俺も当たるわけにもいかない。
一瞬だけ足に全力で星力を回し、身体能力を強化して3射目に射抜かれる前にその場を離脱する。
そして伏せてパラペットに身を隠す。
完全には身を隠せてはいないが、一息はつけるはずだ。
さて…なぜバレた?
疑問が浮かんだが、答えは簡単だ。
認識阻害魔術は便利だが万能ではない。
この魔術は魔力によって相手の認識狂わせる。
そのため相手が魔術師、それも手練れであればあるほど効果は薄くなる。
つまり、相手は手練れだ。
であればどうするべきか。
結論を出す前に4射目が放たれた気配を感じた。
俺は横に転がり、頭が射抜かれるのを回避する。
すると矢が先程まで俺の頭があった場所を通過する。
精度が良すぎる。
これでは作戦を立てる暇もない。だが結論は難しいものではない。
ここまで来たなら全力でこちらの間合いに入るだけだ。
俺はもう一度転がって仰向けになり、追尾魔弾を放つ。
そして立ち上がり、建物を跳び移り距離を詰める。
着地点を狙って矢が飛んでくる。
俺は無詠唱で身体能力強化を使い、何とか避ける。
しかし、またもや着地点を狙い矢が放たれている。
やはりこちらが不利だ。
このままでは近づく前にあの矢に貫かれる。
ならば。
「風よ!我が身を空へと押し上げろ!」
そう紡ぐと共に地面を踏み込む。
すると足元から上へと風が吹き上がる。
俺の身体はその風に乗り、高く舞う。
しかし、それは相手にとっては絶好のチャンスだ。
相手は空中で方向転換のできない俺を狙い矢を撃ち込んでくる。
だが俺も考えなしな訳では無い。
俺は相手に向けて左手を突き出し、言葉を紡ぐ。
「風よ!吹き荒べ!」
すると左手を中心に風が吹き、向かって来る矢を散り散りに飛ばしていく。
その矢は空中で霧散する。
…消えるということはただの矢ではなく魔力などで生成しているのだろうか。
ついに俺は相手と同じ建物の屋上に着地した。
俺は言葉を紡ぎながら一気に距離を詰める。
「電流よ!我が左手に宿れ!」
ついに俺は間合いに入った。
しかし、相手もまた無策ではなかった。
相手は矢を番え、弓を俺の目の前に構えていた。
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