3節 獅子

第024話 良い人

 流石に5月下旬になると昼間の日差しは少し痛い。

 そんな日差しの下が降り注ぐ屋上で私は仲良し幼馴染3人組でお昼ご飯を食べてる。

 するとまー君が質問してきた。


「なんでお前たちは定期的に来るんだよ」

「え、駄目?」

「理由を聞いてるんだ」

「私は由衣ゆいが呼びに来るから。私は別に教室で1人で食べるからいいって言うだけどね」

「由衣は」

「え?私?だってせっかく昔の仲良しグループのうち3人が同じ学校にいるんだから、一緒に食べたいじゃん?」


 そう言うとまー君とひーちゃんは揃ってため息をついた。


「え、何!?私何か間違ったこと言った!?」

「由衣は本当に私達大好きだよね」

「うん!もちろん!」

「そこ、元気よく返事するところじゃないぞ」

「え?」


 2人はまたやれやれって感じの顔をしている。

 え、私なんか間違ってる!?

 困っている私は放置されて、次はひーちゃんが質問した。


「そういえば真聡まさと。あんなに意地張ってたのになんで口を利くことにしたの?」

「…悪いかよ」

「いや、理由を聞いてないなって」

「理由……あぁ、由衣だな」

「え?私?いやぁ…それほどでもないよぉ…」

「褒めてない。お前のしつk…諦めの悪さに諦めたんだよ」

「え」


 なんかショックなんだけど。言い方酷くない?

 私は文句を言いたいんだけど、まー君は私を気にせず話を続ける。


「ほら、由衣は決めたら一直線でノンストップだろ」

「そうだね。まぁ、そこが由衣の良いところでもあるんだけど」

「…褒めてごまかそうとしてる?」

「だから諦めたんだよ。これは話して巻き込んだ方が良いってな。」

「無視しないで!?」

「でも事実だろ」

「それは…」


 私は目をそらす。

 どうしよう。否定できない。

 否定したいんだけど…できない…!

 1人で困っている私を置いて、2人の話題は思い出話になってた。

 

「そういや日和ひよりは由衣が木登りして降りれなくなったこと覚えてるか?」

「あ〜…あったね。4人とも止めたのに、由衣は登って降りれなくなって全員で怒られたやつでしょ?」

「あれは酷かったよな。特に俺達は止めたのに全員で先生に怒られることになったところが」

「そ、そのことはごめんってぇ!恥ずかしいからやめてよぉ!」


 私がそう言うと2人は笑い出した。

 悪かったのは私だけど、反省してるし恥ずかしいからやめて欲しい。

 私が「笑わないでよ〜!」と2人に不満を口にしてると、屋上の扉が開いた。


 1人の男子生徒が入ってきて、キョロキョロしてる。

 誰か探しているのかな?

 でもここには私達3人しかいない。


 私が2人に「知り合い?」と聞くと、2人とも「知らない」と答えた。

 じゃあ、そのうち去っていくよね。


 そう思っていたらその生徒はこちらに向かって歩いてきた。


 「お前が入学初日に同級生を泣かせた陰星いんせい 真聡まさとか?」

 「…人に名前を聞くより先に自分が名乗ったらどうだ」


 その噂まだ残ってたんだ…こっちの話も恥ずかしいからやめて欲しいな…。

 じゃなくて、誰?


 まー君は一気にいつもの感じに戻っちゃった。

 何も起こらないと良いんだけど…。


 そう思っていると、男子生徒はハキハキと答え始めた。


「確かにそうだよな。俺の名前は平原ひらはら 志郎しろう!で、お前が陰星 真聡だな?」

「…そうだ」

「じゃあ、最近噂の怪物と戦っているのもお前なのか?」


 屋上が静まり返る。

 平原 志郎。どこかで聞いたことがある気が…する?


 というかなんでバレてるの!?

 でもここで変に反応すると認めることになるから私は口を開かない。

 私の代わりに口を開いたのはもちろんまー君。


「そっちは人違いだ。そもそも俺だと決めつける理由でもあるのか」


 やっぱりまずはごまかすんだね……。

 でも理由は私も気になる。

 すると平原君はまたハキハキと答え始めた。


「俺は見たんだよ!あれは…テスト週間の初日だったか?下駄箱を出た所で陰星、お前がなんか…黒い鎧?を着て戦ってる姿を!」

「見間違えじゃないのか」

「まぁ…確かに顔とかちゃんと見たわけじゃないが、あれはお前だった。俺にはわかる。あと、そっちの元気そうな女子もいたよな!」

「私!?」


 やっぱりあのとき色んな人に見られてた…!?

 あのときは確かタムセンと話をしてて、教室を飛び出してそのまま戦って…まー君、認識阻害使ってたっけ?

 また私が1人で考えているとまー君が口を開いた。


「お前、怪物と戦ってる奴を見つけて何をしたいんだ?」

「それは認めるってことか!?」

「俺達がどうであれ、言いがかりをつけたんだ。なぜそいつを探しているかの理由を聞く権利ぐらい俺にはあるだろ」

「それも…そうだな。長くなるけどいいか?」

「構わん」


 平原君は屋上の柵に背中を預けると、語り始めた。


「まず俺の家は空手道場なんだよ。俺ももちろん空手をやってる」

「あ〜〜〜〜〜!!!!」

「大声を出すな、静かにしてろ」

「あ、ごめん。…じゃなくて!平原君ってもしかしてあの噂の…?」

「噂?」

「中学生の頃、同級生をボコボコにした人が1年にいるって話?」

「やっぱその噂広まってるのか……」

「やっぱり、本当なの…?」

「いや…あれは誇張された話だ。じゃあ、その話もするか…

 あれは中学生のときだ、俺はイジメの現場に遭遇してな。止めようと思ったんだ。

 そしたら虐めてる奴らが殴りかかってくるから、軽く受け流して軽く反撃したら逃げていってな。

 そのときはこれで終わったと思ったんだよ。


 そしたら翌日、俺がいじめた連中にいきなり殴りかかってボコボコにしたってことになっててな。広まってる噂はそいつらが広めたものだ。

 あとから知ったんだけど、そのイジメてた連中の親はそこそこ……力?がある親だったらしくてな。

 結果として俺は人を助けたはずが悪者になったってわけ」

「……大変…だったんだね」

「ま、今はもう気にしてない。過ぎたことだし。白い目で見られるのは少し困るけどな!」


 平原君は大きな声で笑う。

 全然気にしてなさそうな感じだけど、きっと辛いと思う。

 私でもわかる。


「…平原君は全然悪くないのに。というか、良い人なのに噂だけで白い目で見られるのは…おかしいよ」


 私は思ったことを口にする。

 すると少しの間のあとまた平原君はまた笑った。


 今度は清々しい笑いだった。


 しばらくして彼は口を開いた。


「良い人ねぇ…良くない噂があるやつにそう言い切るなんて、お前も大概だな!」

「そ、そんなことないよ〜!」

「そこで盛り上がるな。まだ肝心の怪物についての話を聞いてないぞ」

「そうだったな。本題がまだだったな。え〜…そうそう。

 その後は親父に怒られたんだよ。「拳を振るうときは相手を見て、考えてから振れ」ってな。でも、一方的に殴られてるのをほっとくのはどうかと思うだよなぁ。

 んでまぁ、その後は一応卒業できた。

 そんで…あれいつだっけ?3月…いや4月だったか?まぁ、それくらいからこの街に怪物が出るようになっただろ?

 その怪物に俺も出会ったんだよ。そんときは周りの人を逃がしながら一応戦ってみたんだよ。

 でもまぁ、攻撃しても全然効かないんだよな。そしたら鎧を着たやつが現れて、怪物をすげ〜勢いで倒してしまったんだよな。

 んで、俺は思ったんだよ。「俺もあんな風に怪物と戦えるようになりてぇ!」って。だから俺は今、怪物と戦ってるやつと探してるってわけ」


 なるほど…。

 平原君は悪い人じゃなさそうだし、空手もやってるから今でも十分強いと思う。

 だからもし一緒に戦ってくれるなら心強いと思うんだけど…。

 などと考えていると、私より先にまー君が口を開いた。


「お前は何のために怪物とは戦いたいんだ」

「俺が怪物と戦えるようになれば、誰かを助けられるだろ?」


 答えがもう正義のヒーローじゃない?

 もう一緒に戦ってもらうおうよ。

 うん、私からもまー君に頼もう。

 そう思ったとき、まー君は予想外な言葉を口にした。


「気に入らねぇな」

「「「え」」」


 私と平原君だけじゃなく、ひーちゃんまでも驚く声が重なった。

 まー君は言葉を続ける。


「俺が戦えれば、誰かを助けられる。そんな簡単な話じゃないんだよ。

 この力はな、使い方を間違えれば人なんて簡単に殺せる。そいつの意思関係なく周りを破壊するんだよ。

 あれができるようになりたいから習い事を習うとか、そんなもんじゃないんだよ。

 …不愉快だ。2度と俺に顔を見せるな」


 そう言い残すと、まー君は屋上から立ち去ってしまった。

 あんなにも声を荒げた理由は今の私達にはわからなかった。



 残された私達の空気は重かった。



 一番最初に口を開いたのはひーちゃん。ため息と共にどうするかを口にした。


「…とりあえず、私は追いかけるね」

「う、うん。お願いします」


 そうして、ひーちゃんもまー君を追いかけて屋上から立ち去った。

 屋上に残ったのは私と平原君。


 …いや、気まずいよ?

 流石の私もこの空気は気まずいよ?

 でも、平原君は気まずさを感じていないみたいだった。


「まさか怒られるとはな…何が悪かったんだ…?」

「う〜ん……わたしもわかんない。でも、ごめんね」

「なんでお前が…あれ?俺、君の名前聞いてないよな?」

「あ…私は白上 由衣。よろ…しく?」

「おう、よろしくな」


 そして再び訪れる沈黙。

 きっと、まー君を説得しない限り平原君は一緒に戦えないよね…。


 しかし、私は別の方法を思いついた。

 まー君に怒られる気しかしないけど…でも「思い立ったがなんとやら」だよね。

 それに、私も今のままじゃ駄目だと思うし。

 だったらさっそく相談しないと!


「ね、ねぇ…平原君?お願いがあるんだけど…」

「おう。なんだ?」

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