第023話 複製

真聡まさとめ…。なんで俺のことを話してないんだ…」


 そう言いながら赤髪の人は冷蔵庫を開けてる。

 ここは…この人の家なのかな?


 結局、私は中に入ってしまった。

 私とまー君の名前を知ってるってことは…星座騎士なのかな?


 でも…他に戦える人はいない的なことをまー君は言ってた…よね?


「あぁ、好きなところ座っていいからね。そして、飲み物は…ないから出せないね。まったく…あいつ、生活が酷いな…」

「あ、えっと…ありがとうございます。飲み物はなくても大丈夫です」


 私はお礼を言いながらソファーに座る。

 赤髪の人はどこからか椅子を持ってきて私の向かいに座る。

 気になることだらけの私は口を開く。


「えっと…質問していい…ですか?」

「いいよ」

「ここは…?」

「まさか…何も聞かされずにここに来たの!?」

「はい…」


 私がそう答えると赤髪の人は大笑い。

 「いや笑い事じゃないんですけど!」と私は言うけど、気にせず笑ってる。


 一通り笑った後、赤髪の人はようやく私の質問に答えてくれた。


「いやぁ、笑ってごめんよ。ここはな、真聡が家として使ってる場所なんだ。

 まさか、あいつそんなことすら伝えてないとはな。逆に何を伝えてるんだ?」

「…え、ここがまー君の家なんですか!?」


 小学生まで住んでた家はもう違う人が住んでるから、今はどうしてるのか気になってたけど…。

 まさかビルのフロアを家にしてるなんて…。

 って驚いてる場合じゃないよね。もっと大事なことを聞かないと。


「それと…お名前を聞いても…いいですか?」

「そうか!君は今、名前も知らない人に家にあげられてる状態か!すまない、すまない。

 私は…鳳凰ほうおう ほむらだ。好きなように呼んでくれ」


 鳳凰 焔さんはまた笑いながら答えてくれた。

 名前が…凄く強そう。というかキラキラネーム過ぎない?

 でも、人の名前についてはあまり突っ込まないほうがいいよね。


「えっと…焔さん?」

「おう」

「まー君とは…どういう…?」

「そうだなぁ…上司というか、師匠というか、保護者代わりというか…」


 そのまま焔さんは黙ってしまう。

 結構複雑な関係なのかな…?

 しかし、私が口を開くよりも先に焔さんが口を開いた。


「おぉ、そうだ。君も星座に選ばれてるんだから、君の上司にもなるな!」

「つまり…星座騎士のリーダー…ってことですか?」

「まぁ、そんなところだな」

「でも、まー君が戦えるのは俺1人的なことを…」

「あぁ〜…。まぁそれも間違ってはないな。俺は普段戦わないからな」


 凄く名前強そうなのに…って言おうとしたけど流石に口には出さない。失礼だろうし。

 …そういえば、肝心の私を呼び出した人は?


「まー君は…今どこに?」

「あぁ、いつもの場所だ。…そこは教えてもらってるか?」

「研究所…の跡地ですか?」

「それは聞いてるんだな。ここに来るとき連絡したんだろ?ならもうすぐ返ってくるだ…お、噂をすれば」


 タイミングよく扉が開く。

 そして、まー君が入ってくる。連休中の特訓のときに着ていたジャージ姿だ。

 でも何やら両手には黒いケースを持ってる。


「悪いな。遅くなって」

「それよりもお前なぁ。俺のことをなぜ伝えてなかった?

 この子、びっくりして最初帰ろうとしていたんだからな」

「…あれ。言ってなかったか」

「ここも焔さんのことも聞いてないんだけど!?」


 まー君からの返事はない。

 「なんか言って欲しいんだけど!」と言っても返事はない。

 奥の棚で何かをしている。


 少しするとこっちに戻ってきて、黒いケースをテーブルの上に置く。

 そしてもう一度離れて、今度は椅子を取ってきて座った。


「なんで私を呼んだの?」

「それを渡すためだ。開けてみろ」


 まー君は黒いケースを指さしている。

 これの中身を渡すために呼んだ…ってこと?


 とりあえず私は開けてみる。

 ケースの中には見慣れてきた深い青色の長方形の物が入っていた。


「これって…ギア?」


 そう、ギア。

 まー君が普段持っていて、私も何回か借りたギアが入ってた。

 でも1つしかないんだよね…?


「え、これって…?」

「これはReplication Constellation Armor Generate Gearだ。」

「……なんて?」

「…レプリギア。俺が使ってるギアの複製だ。これからは1つじゃ足りないだろ」

「レプリギア……複製……これ私の!?」

「さっきからそう言ってるだろ…」

「まー君は言葉足らずなの!」

「そうだぞ。しっかり新人には説明しておけ」


 焔さんが口を挟んだらまー君は黙ってしまった。

 この反応はきっとまだ私に言ってない事が…たぶんあるよね。

 でも前に待つと言ったから、無理やり聞くとまた喧嘩になるよね…。

 …よし、今は気にしないことにしよう!


「これ、今使ってみてもいい?」

「あぁ、使ってみてくれ」


 許可も取ったので私は立ち上がる。

 …でもここでやっていいのかな?


「…ここでして大丈夫?」

「星鎧を生成するぐらい問題ない。だがそっちでやってくれ」


 まー君の指は少しスペースがある場所をさしてる。

 流石にソファの前ではマズいよね。

 私は言われたところに移動してギアを付けて、慣れてきた手順を取る。


「星鎧生装!」


 その言葉と同時にボタンを押す。

 すると、ギアの中心部から牡羊座が飛び出す。

 そして私は光りに包まれて紺色と赤色の鎧が生成された。

 とりあえず星鎧は生成できた。


「どうだ?何か俺が使ってる方と違いはあるか?」

「う〜ん……あ!身体が全然痛くないよ!」

「あぁ、言ってたな。そっちだと大丈夫なのか」


 まー君から言葉の続きが来ない。

 考え事をしてるのかな?

 とりあえず私は軽く体を動かしてみる。


 うん、身体の痛み以外に違いは特に感じない。

 一通り確認したし、もう星鎧は解いていいかな?


 そう考えているとまー君が口を開いた。


由衣ゆいはどっちが使いたい?」

「どっちって?」

「俺が使ってる方かお前が使ってるやつのどっちがいいかだ」

「うーん…。こっちかなぁ…?だってまー君のは身体痛いもん」

「…そうか」

「こっちが駄目な理由でもあるの?」

「あぁ…複製の方はまだ完成したばかりで安全かどうかわからない」

「え!?そうなの!?…じゃあ、そっちは?」

「実はこっちもわからない」

「え」


 私は驚きのあまり言葉を失う。

 嘘でしょ!?じゃあ、安全かどうかもわからないものを使って私達は戦ってたってこと!?

 …なんか今更怖くなってきた。

 でもなんでわからないのかは気になる。


「わからないって…どういうこと?」

「言葉の通りだ。何かわからない術がかけれているんだ」


 私はまー君の言葉が理解できなくて首をかしげる。

 そんな私を見てまー君は「あ~…」と困ったような声を出す。

 数秒してから、まー君はもう一度説明をしてくれる。


「「何が発動条件でどういう効果を持っているかがわからない術が複数かけられている」ということしかわからない…と言えばわかるか?」

「つまり…わからないってことがわかってるってこと?」

「まぁ、そういうことだな」

「こっちにもその術がかかってるの?」

「いや、殆どない。できるだけそういう術は避けてもらったからな。複製がわからないのはただの実験回数不足だ。俺がさっきそれを使ってみた感じでは大丈夫だとは思うが…」

「あぁ、だから何か変だと思ったらすぐに伝えてくれ」

「わかった!でもまー君も気をつけてね」


 私がそう返すと「…あぁ。」とだけ返事が返ってきた。


 でも、目が合わない。


 …何を考えているんだろ?


 そう思っていると焔さんが口を開いた。


「仲良く話してるとこ悪いんだけどさ。呼び寄せ魔術の登録はしなくていいのか?」

「あ」

「はい?」


 呼び寄せ…魔術?


☆☆☆


「でも堕ち星を元に戻せてほっとしました…」

「選ばれて早々大変だったんだな…。というか真聡、堕ち星が出てたなら連絡しろよ」

「スマホ持ってない人にどうやって連絡取るんですか。焔さんが現代の機器は苦手って言ってスマホ持ってないから連絡取れないんですよ」

「おっと…俺が悪かったな…」

「由衣。これでいいはずだ。やってみてくれ」

「は〜い!」


 私はソファから立ち上がって、さっきの場所に移動して両手をお腹の上にかざす。

 するとテーブルの上にあるギアが消えて私のお腹に巻かれた状態で現れる。

 これで問題ないよね。


 呼び寄せの術とはまー君がいつもギアを呼び出すときに使っている術らしい。

 それを私と複製のギアの間で結んでくれた。

 確かに…持ち歩くのは…邪魔だもんね…。


「ちゃんと来たよ!」

「あぁ、これでいいだろう」

「お疲れさん」

「どうも」

「ありがと!」

「ん。もう外も暗いし帰れ」


 そう言われて私は窓の外を見る。

 もう外は真っ暗で時計を見ると20時になりそうだった。


「うっそ!いつの間に!」


 私は慌ててスマホを見る。

 一応家には遅くなるって伝えてたから大丈夫だと思うけど…。

 メッセージを見るとお母さんから1つお願いごとが書かれていた。

 まずは帰る準備しないと。

 ソファに戻って準備をしながらまー君に話しかける。


「先に連絡してたから大丈夫なんだけど、1つお願いされてた。」

「おつかいか?気をつけて帰れよ」

「う〜…ん?」


 おつかい…ではないんだよね。

 準備が終わった私はまー君の手首を掴む。


「なんで俺の手首を掴む」

「お母さんがまー君と一緒なら連れてきて、晩ごはん一緒にって!今日は早めに言っておいたから最初から人数に入ってるよ!」

「あ?」


 まー君はなんとも言えない顔をしている。

 小学生の頃からまー君はまー君の両親が夜遅くなる日は家によく来てた。

 だからお父さんもお母さんもまー君がいるのが普通みたいなところがある。

 馴染みすぎてもう1人の子供同然みたいな感じらしい。


 だから、まー君の両親がいなくて一人暮らししてるって聞いてからより一層気にしてるみたい。

 まー君はまだ悩んでる。

 すると焔さんが口を開いた。


「そういや、由衣の家に結界は張ったのか?」

「あ」

「ん?」

「お前なぁ…。ついでに張ってこい」


 焔さんが呆れた声でそう言った。

 私は会話に着いて行けなくてまたもや混乱中。


 私が質問するよりも先にまー君が口を開いた。


 …ため息をつきながら。


「わかった。お邪魔させてもらう。だから手を離せ」

「やった!……私の家に結界?」

「星座に選ばれた以上、逆に襲われる可能性もあるからな。家に結界は必要だろう。ここも色々張ってあるしな」

「そうなの?」


 私がキョロキョロしているとまー君はいつの間にか移動していて、今度は別の棚で探しものをしているようだった。

 私はまー君に近づいて肩を叩く。 


「なんだ」

「何探してるの?」

「結界の要となるものだ。いくつかあるはずなんだが…あった」

「…石?」

「特別な石だ。これを使えば簡易的な結界ができる」

「なるほど…。他に探しものはもうないの?」

「もうないが…着替えるから出て待ってろ」


 どうやら今のジャージ姿は嫌らしい。

 …そういや高校のジャージではないけど、どこのだろう?


 とりあえず出ろって言われたから出ないと。

 しかし、私はもう1つ聞くことを思い出して足を止める。


「ギアはどうしたらいい?」

「持って帰っても、置いていっても。どっちでもいい」

「じゃあ…預かってもらっててもいい?」

「わかった。その方が何あったときの調整とかもしやすいしな」

「じゃあお願いします!」


 私はそう言い残して外に出る。


 これで私もようやくまー君と並んで戦えるようになった。

 これからはもっと気合い入れないとね!

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