4節 科学館での出会い

第034話 一緒に行かない?

「今日も雨だね〜」

「そうだな」


 体育祭も終わり6月下旬となった。

 本格的に梅雨前線がやってきたのか、ここ数日の天気はずっと雨だ。


 そんな雨の中、俺たちは今日も学校に向かって歩いている。

 由衣とはいつの間にか、毎朝一緒に学校に行くようになった。

 拒否してもどうせ来るやり取りは再会したときにやったので、もう何も言うまい。


 下駄箱についた俺達は傘を閉じ、靴を履き替えて教室へ向かう。

 しかし、教室はいつもと違うところがあった。


「なんでお前が俺の席に座ってる」

「おはよう陰星いんせい君。借りてるよ」


 華山はなやま 智陽ちはるが窓際の俺の席に座ってスマホを見ている。

 俺は正直な意見をぶつける。


「いや、自分の席に座れよ」

「だって座られてるから」


 華山が指差した先を見る。

 確かに男子生徒が座ってる。

 見ない顔なので恐らく他クラスの生徒だろうか。


 だが、この席は俺の席だ。

 俺が来たからには返して欲しいのだが。

 そこに鞄を自分の席に置いた由衣ゆいがやってきた。


「智陽ちゃんおはよ〜!…何してるの?」

「席が座られてるから借りてるの」


 「いや返せよ」と言うが、華山は「もうすぐ朝礼なんだし、それまでは貸してよ」と言い立つ気配はない。

 そんな俺達を気にせず、由衣は自分が気になったことを口にする。


「ところで、智陽ちゃん。何見てるの?」

「プラネタリウムの上映スケジュール。」

「プラネタリウム行くの!?私も見ても良い?」


 そう言って由衣は華山のスマホを覗き込み、楽しそうな声で色々と質問している。

 「由衣の席に行け」と言うが、残念ながらその声は2人には届いていないらしい。


 俺は諦めて自分の机の前に周り、何となく窓の外を見る。

 数分後、由衣が話しかけてきた。


 「ねぇまー君。プラネタリウム、一緒に行かない?」


☆☆☆


 週末。

 今日も天気は雨だ。


 そんな雨の日に俺は星雲市せいうんしから数駅離れた駅で待ち合わせをしている。

 由衣は何故か俺を家まで迎えに来て、ここまで一緒に来た。

 そして今、華山 智陽が到着した。


「お待たせ」

「全然待ってないよ!」

「行くか」


 俺は傘をさし、雨が降る街に歩き出そうとする。

 しかし、由衣に肩を掴まれ止められた。


「いや、まだ揃ってないからもうちょっと待って」

「話をした時はこの3人だっただろ」

「もう1人来るんだって」

「いや聞いてないが」

「あれ?でもまぁ、まー君は知ってる人だから!問題なし!」


 何が「問題なし!」だまったく。

 残る1人…俺が知ってる人で由衣が誘うのならやはり日和か?

 いや、華山がいるから遠足で同じ班だった長沢 麻優か?


 そう考えていると、由衣が「こっち〜!」と叫んでいる。

 残る1人は予想外の人物が現れた。


「俺が最後か!遅れてすまんな!」


 現れたのは平原ひらはら 志郎しろうだった。

 …いや、華山 智陽はこいつを知らないだろ。何故こいつを呼んだんだ?


 俺が考えていると由衣が「しゅっぱ〜つ!!」と言って歩き始める。

 置いて行かれる訳にも行かないので後を追いかける。

 そこに華山が小声で話しかけてきた。


「ねぇ、聞きたかったんだけど。平原 志郎ってあの噂の…」

「同級生を一方的にボコボコにしたってやつ」

「そう。あれ本当なの?」

「いや、あれはだいぶ誇張されたやつしい」

「そうなんだ。」

「…あいつは理由なく相手を殴る人間じゃねぇよ。そこは俺が保証する」

「へぇ〜?陰星君がそこまで言うとは」

「なんだ」

「別に?」


 そこから華山は口を開かない。

 何が言いたいんだこいつ。

 だがこれは聞いても言わないやつだろう。


 諦めた俺は雨音に負けない声で、別の疑問を少し前を歩く2人に投げる。


「何で志郎を誘った」

「え、来たら駄目だったか?」

「違う。華山と志郎はほぼ初対面だろ。由衣、気まずさとか考えなかったのか」

「確かにそうだけど…でも、これからは志郎君も戦うんだから、智陽ちゃんのことも知っていた方が良いかなと思って」

「…つまり平原君が3人目?」

「3人目…そうだな。…華山さんはそのことを知ってるのか?」

「とあることから澱みや堕ち星の出現情報を伝えてくれることになった。勝二さんのときも情報を伝えてくれた」

「あぁ~!そうだったのか!あのときはありがとうな!そしてこれからよろしくな!」


 志郎が振り向いて言った言葉に華山は戸惑いながら「よろしく。あと呼び捨てでいい」と返す。

 そして志郎は再び前を向き、由衣と話し出す。

 …由衣はしっかり考えてこのメンバーにしてたんだな。


 その後、俺は華山がぼそっと言った言葉を聞き逃さなかった。


「また陽キャが増えた…」


☆☆☆


「結構並んでるなぁ〜」

「ね〜。やっぱり休みの日だからかなぁ?」

「雨が降ってるから行く場所ない人も来てるんじゃない」


 科学館に着いた俺たちはプラネタリウムの入場券を購入するために並んでいた。

 3人が話している通り、購入列はかなり並んでいる。

 数分は待つことになりそうなのが容易に想像できた。


 なんとなくチケット売り場の上のモニターを見ると、3種類の上映内容が表示されていた。


「…今から何を見るんだ」

「12星座の導きってやつ。今後の参考になるかなと思って」

「そうそう!見たら勉強になるかなって!」

「俺も由衣に言われてちょうどいいなってな」


 …こいつら、向上心が凄いな。

 由衣と志郎は雑談に戻る。

 俺と華山は会話をせず、順番が来るのを待つ。


 俺達は少しずつ前へ進む。

 その途中で俺は足元に何か落ちていることに気がついた。

 俺は拾い上げてそれが何か確認する。


「これは…」

「生徒手帳、だね。しかもうちの生徒手帳」


 落ちていたのは深い青色に星芒高校と書かれているパスケース。

 学校で生徒手帳と学生証を入れるために配布されたものだ。

 そのとき、俺たちが何か話していることに気づいた前で喋っている2人が後ろを振り向いた。


「どうした?」

「それ…生徒手帳?」

「あぁ、落ちてた」

「中見て名前とか確認したほうが良いんじゃない?」

「個人情報だろ。こういうのは、受付に渡して任せれば良いだろ。俺たちがすることじゃない」


 そう言うと由衣は「それはそうだけど…」と言ながら前を向く。

 志郎が何やらフォローしている。


 あれから列は進みもうすぐ俺たちの番になったとき、何やら受付が騒がしい。

 どうやら購入しようとしてる人が何かを無くしたようだ。

 それを聞いた由衣がこちらを向いて「もしかして…それじゃない?」と俺が持つ落とし物の生徒手帳を指差す。


「さぁな」

「さぁな。じゃないでしょ!ちょっと貸して!私が行ってくるから!」


 そう言い切るやいなや、由衣は俺の手から生徒手帳を取り、列を抜け出していった。

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