第035話 星座オタク
「やっと買えたね!」
「だな!時間までまだあるが…どうする?」
「どうしよっかぁ…」
やっとプラネタリウムのチケットが買えた。
とりあえず、俺達は受付横の出口から出る。
するとさっき受付で何かを無くしていた人が近づいてきた。
「あ!さっきの!どうしたんですか?」
「お礼がちゃんと言えてなかったので。さっきはありがとうございました」
そう言って女性は頭を下げる。
髪型はツインテールでメガネを掛けている。年齢は俺達と同じぐらいだろうか。
「いえいえ!私は届けただけで、拾ったのはこの人なんで!」
俺は由衣に腕を引っ張られながら女性の前に出る。
「いっそのこと由衣が拾ったことにしとけよ…」と内心不満に思っていたが、女性は気にせずもう一度お礼を言いながら頭を下げる。
「ところで…あなたも
「えぇ。…「も」ってことはもしかしてあなた達も?」
「はい!1年の
「俺も同じく1年の
何故自己紹介が始まっているんだ。
別に渡すものは渡したからそれだけでいいだろ。
心のなかで今の状況に文句を言っていると、由衣に肩を叩かれる。
「ほら!あとはまー君だけだよ!」
「…
「もうしたけど」
完全に聞いていなかった。
退路はないと悟った俺は渋々名乗る。
「…同じく1年の
「じゃあみんな1つ下なんだね。私は2年の
「あ…先輩だったんですね!失礼しました!」
そう言いながら由衣は頭を下げると共に俺の背中を押す。
「やめろ」
「流石に先輩にその態度は駄目だって!」
「まぁまぁ、私は上下なんてそこまで気にしないから。ところで、みんな星座が好きで見に来たの?」
俺達4人は言葉に詰まる。
好きだからというよりは戦うために必要だから来た。
おそらく全員が同じ理由だろう。
しかし、それを言うのは避けた方が良いというのもまた全員が理解していたようだ。
だが何も言わないのは失礼なことぐらいわかる。
すると由衣が口を開いた。
「好きってのもあるんですけど、私達理科の中間テストで点が悪くて…それで補習として何か調べて提出しろって言われたので、星座について調べて提出しようかなって思ったんです!」
咄嗟に出た言い訳としては悪くないと思った。
しかし、俺まで点数が悪かったような言い方をされたことは少し不満に思った。
だがまぁ、見鏡先輩は納得しているようなので良しとするか…。
その時、館内放送がかかった。
『只今より、プラネタリウム「12星座の導き」の入場を開始致します』
☆☆☆
「12星座の導き、どうだった?」
「各星座の神話がとてもわかりやすかったです!それと黄道って太陽が通る道のことなんですね!」
上映が終わり、俺たちはプラネタリウムを後にする。
由衣はすっかり見鏡先輩と仲良くなっており、今も何か話している。
相変わらず、人と仲良くなるのが早いやつだ。
そんな由衣がこちらを向き、俺達3人に話しかけてくる。
「ねぇみんな!ここの科学館、星座についての展示もあるんだって!見ていかない?」
俺達は顔を見合わせる。
返事したのは志郎だった。
「そうだな。せっかく来たんだから色々見て帰ろうぜ!」
「やった〜!というわけで望結先輩!案内よろしくお願いします!」
「わかった。それにしても星座が好きって言ってくれる後輩に出会えるなんて思ってもなかったよ。由衣ちゃん、良かったら今からでも天文部はいらない?」
「えっとぉ…誘ってもらえるのは嬉しいんですけど…」
そう言いながら由衣はこちらを見る。
その表情はなんて言ったら良いかわからないって顔だ。
俺は事実を伝える。
「別にお前、部活入ってないだろ。」
「そうなの?」
「あ、えっと…入ってはないんですけど、他に忙しいことがあって…」
「…そっか。でも、気が向いたらいつでも言ってよ。体験入部もいつでも待ってるから。
と話してると着いたよ。ここが星座関係の展示室だよ」
「すっご〜い!!」
その展示室は円形の部屋で照明が落とされており、天井には天球儀が映し出されていた。
そして床には12星座が描かれており、壁には星座の歴史について書かれている。
由衣が「では望結先輩、星座についてもっと色々と教えてください!」と言うと、見鏡先輩は嬉しそうに話し出す。
「まず星座にはね、比較的古くからある星座と比較的新しい星座があるの。
古いのはプトレマイオス48星座って名前がつけられていて、別名でトレミー48星座とも言われているわ。この星座はヨーロッパから見える星空に存在するもので構成されているの。
じゃあ、ヨーロッパ以外の星空はどうなのって話になると思うんだけど、それが今の88星座に繋がるの。
ヨーロッパ以外の星空は大航海時代になって地球上のあちこちに行けるようになってからようやく認識された。そのためヨーロッパから見えない星空にもたくさんの星座が作られたの。
そうして星空の空白を埋めるようにたくさんの星座が色んな人によって作られていった。でもあまりに増えすぎて使う星が被ったり、権力者が好き勝手に作った星座がなどたくさん出来てしまったの。
そこで1922年の国際会議で今の88星座が世界共通として制定されたの。
こうして星座は今の88個になったってわけ」
「なるほど…黄道12星座もその…プレミー?の48星座に入るんですか?」
「由衣ちゃん、混じってるわよ?トレミーもしくはプトレマイオスね。
48星座の中でも3つに分類されてて北の21星座、南の15星座、そして黄道12星座よ。」
「なるほど…その48星座についてもっと詳しく教えてもらっていいですか!」
「もちろん!こっちに一覧があるわ」
そう言って2人は歩いていく。
すると華山がボソッと呟いた。
「見鏡先輩って星座オタク」
俺はその言葉を「そうだな」と肯定する。
来たからにはとりあえず、壁のキャプションでも読むか。何かの役に立つかもしれん。
そう思ったとき、志郎が話しかけてきた。
「なぁ真聡。12星座が最強って訳じゃねぇのか?」
「いや、そうでもない。というかお前はあっちに行かなくて良いのか」
「いやぁ…俺は由衣のように初対面の先輩にガンガン絡みに行けねぇよ…」
「そうか」
「お前も大概だと思うぞ」と言いたかったが、俺はその言葉を飲み込む。
しかし、華山がまたしてもボソッと「どの口が…」と言ったのを俺は聞き逃さなかった。
幸い、志郎には聞こえてなかったようだが。
「で、違うのか?」
「あぁ。こういう
「じゃあやっぱ12星座が最強なんじゃねぇのか?」
「最後まで話を聞け。星座としての力は確かにそれで決まってくるが、俺達にはそこに色々なものが加わる。例えば、本人の力量や星座との相性だ。だから全部考慮すると最強の星座は断定できない。」
「なるほどなぁ…つまり、努力を怠るなってことだな?」
「まぁそういうことだ」
志郎の質問に答えた俺は、今度こそ壁のキャプションを読もうとする。
しかし、今度は華山が俺に質問をしてきた。
「ねぇ、12星座以外は変身できないの?」
「さぁな。星鎧が生成できた例は現在3件しかないから不明だ。」
「真聡、由衣、俺ってことか?」
「つまり…1番最初の変身者って…」
「あぁ、俺だ。あと変身じゃない」
さっきから気になってたが変身って。日曜の朝じゃないんだぞ。
俺は訂正するべきかしないかべきか迷う。
そこに「ねぇ〜!何話してんの!」と由衣が戻ってきた。
「こっちの話をしてたんだ。お前にも後で話してやる」
「そうなの?ありがとう…って!そうじゃないでしょ!せっかく望結先輩が色々教えてくれてくれてるのに!」
由衣に文句を言われていると、見鏡先輩も「まだここにいたの?」と戻ってきた。
「あぁ〜…すみません!どんな感じにまとめるかって話をしてたら盛り上がっちまって…」
「もぉ〜…」
「何をまとめても自由なんでしょ?だったら強制はしないわ。私は星座について好きになってくれたら嬉しいけどね」
「望結先輩…!あの!続きなんですけど、蛇座について教えてください!」
「もちろん。でも蛇座自体には神話はないの。それはないわけじゃなくて、蛇座が蛇遣い座の1部だったからよ。
蛇遣い座はギリシャ神話に出てくる、蛇のおかげで薬草の効果を知ったアスクレピオスって人がモチーフなの。その人は名医として腕と名を挙げていって、ついには死者を蘇らせれるようになったの。
でもそれが死の国の神であるハデスの怒りを買って、最高神であるゼウスの雷によってアスクレピオスは殺されてしまったの。
その後、医師としての腕が認められたアスクレピオスは星座として認められて星座になった。だいたいこんな感じよ」
「なんか…可哀想な星座なんすね。」
「…何で蛇遣い座と蛇座に分けられたんですか?」
「それがねぇ…わからないのよ。プトレマイオス48星座が決められたときには既に分けられていたから…」
「あれだろ。大きすぎるからだろ」
「大きすぎる?」
「アルゴ号座が1922年の国際会議のときに4つの星座に分けられている。それと同じ理由で分けられたんじゃねぇの」
「そうなの?」
「よく知ってるわね陰星君!でもそれだったらアルゴ号座もプトレマイオス48星座にあるのよ。なのに分けられてないのは不思議じゃない?」
「…それも…そうですね」
「でもアルゴ号座が分けられた話なんてよく知ってるね?本当にテストの点数悪かったの?」
「悪くなかったですよ、俺は」
そう口にした瞬間、見鏡先輩から見えない角度で由衣に腰の上たりを突かれる。
どうやら言ったら不味かったらしく、由衣はすぐにフォローを入れる。
「まー君は課題出てないんですけど、私が心配だって言ってついてきてくれたんですよ!」
一言も言ってないが?
というかお前に半分無理やり連れてこられたんだが?
言い返したいが、ここで言い返すと確実に喧嘩になる。
…黙っとくか。
「あら、仲良いのね。」
「はい!幼稚園の頃からの仲だもんね〜!」
そう言いながら由衣は俺の顔を見る。
俺は仕方なく「…そうだな」と返す。
由衣は少し嬉しそうに笑ってる。
よくわからん。
そこに1人の科学館の学芸員の男性がやってきた。
「あぁ、望結。今日も来ていたのか」
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