第149話 大っ嫌い

 なんとか天秤座の堕ち星との戦いから逃げれた俺達7人は、真聡の家まで逃げた。

 ……真聡を運んでて思ったんだけど、思ったより軽かった。


 そして「ボロボロな真聡を病院に連れて行かなくていいのか」と悩んでいるところに、焔さんとさっきの女子がやってきた。


 あの矢の援護もあって、2人は逃げれたらしい。

 どうやら智陽ちはる矢持やもちに連絡して、射手座の力を持つ射守いもりを呼んでいたらしい。


 戻ってきた焔さんは「真聡をベッドに寝かせろ。由衣は真聡の左手を握って『真聡が落ち着いて、ゆっくり休めること』を願うといい」と言った。


 それから何分経ったかわからねぇ。


 でもとりあえず、真聡は大丈夫…だと思う。

 眠ってるのか気を失ってるのかはわからねぇけど。


 だけど、これからどうするんだ。

 どうなるんだ。


 そんなことを考えていると、真聡の左手を握っている由衣ゆいが口を開いた。


「まー君…これで本当に助かるんですか?」

「俺の考えがあっていればね」


 その言葉にほむらさんが返事をした。


 そして真聡の部屋に、また気まずい空気が戻ってきた。



 帰ってもいいんだけど……こんな状況で帰れるわけがなかった。

 あと、部屋の空気が最悪だ。



 あの真聡が、ボロボロにやられた。



 俺達は、その事実をまだ受け止められてなかった。 


 けどそれより…


「何も話してくれないし、誰も聞かないから私が聞くけど。

 焔さん、戦えたんですか。それとあなた、誰?」


 焔さんと女子を見ながらそう指摘したのは鈴保すずほだった。


 「まぁ…なぁ」と焔さんが頭をかきながら気まずそうに答えた。



 焔さんは続いて何か言おうとする。

 しかし、それよりも早く名前を知らない女子が口を開いた。


「いや、それはこっちのセリフなんだけど。誰なのあなた達。

 学院の名簿にも神秘保持者のリストにも名前無かったわよね?」

「学院…?神秘保持者…?」


 女子の言葉に由衣が体の向きを少し変えて聞き返した。


「あぁ…そういうこと。だから判断が遅かったのね」

「何それ、どういう意味?」


 女子の何もわからない返事に鈴保が噛みついた。


「すずちゃんやめて」


 鈴保を由衣が止めた。

 そして、落ち着いた口調で、質問を続ける。


「あなたは、誰なんですか。まー君とどういう関係なんですか。学院や神秘保持者って……何ですか」


 そう聞かれた女子はため息をついた。

 そして口を開いた。


「本当に、何も知らないんだ。

 ……私は」

「余計なことを、喋るな」


 女子の言葉に、ふり絞ったような声が重なった。

 俺達はその声の主の方を一斉に向く。



「まー君!?大丈夫!?」



 陰星いんせい 真聡まさとが、目を覚ましていた。



 真聡は力を振り絞って上半身を起こす。

 由衣が手伝っている。


 でも由衣はやっと落ち着けたのか、いつもの声になっていた。

 とりあえずこれで安心だな。




 とは、いかなかった。


「…今日で、ヒーローごっこは終わりだ」


 真聡が返事代わりのように冷たく言い放った言葉で、部屋は静まり返った。



 その沈黙を破ったのは、由衣だった。


「え…どういう…意味?」

「そのままの…意味だ」


 真聡はそう言いながら由衣の手を払いのけてベッドから降りて、立ち上がる。



 けどその足は、ふらふらだった。



「駄目だよ!寝てないと!」


 そう叫ぶ由衣の言葉を気にせず、真聡はふらふらと歩いていく。


 棚にたどり着いた真聡はギアとプレートを1枚、手に取った。


「お前らは、普通の高校生に戻れ」



 そう言いながら真聡はギアを腹にあてて身に着け、プレートを差し込んだ。

 そして、時計の3時の場所から左手を一周させた。


 いつもと手順が違う。


「星座の神秘を宿す鎧 生成」


 そう言ってから、ギア上部のボタンを押した。



 でも、ギアからは星座は飛び出さない。



 その代わりに白い電流みたいなのが真聡の全身を走る。



 真聡は苦しむ声を上げながら、膝をついた。



 由衣が「まー君!?」と叫びながら、真聡を支える。


 そして真聡を床に座らせて、由衣自身も正面に座った。


「ねぇ…さっきの、どういう意味なの?」

「…そのままの意味だ。お前らはもう、戦うな」

「……私達そんなに役に立たない?私達これでも頑張って」

「ひーちゃん!」


 真聡の言葉に反論する日和をまた、由衣が止めた。


 由衣は優しい口調で、真聡に問いかける。


「……まー君が何を考えてるか、私にはわからない。

 でも私は、怖くてもまー君と一緒に戦うって決めたから。

 それに、今までみんなと力を合わせて戦ってきたじゃん。

 だからさ」

「それが邪魔だって、言ってるんだよ!」


 真聡の叫びが部屋に響いた。



 その叫びは必死さがあった。



 俺達6人はその叫びに、何も言えなかった。



 そして静かな部屋に、また真聡の言葉が響く。



「こんなことなら、お前たちに会いたいなんて、思わなきゃ良かった」



 悔しそうにそう呟いた真聡に日和が詰め寄って「ちょっと、それ本気で言ってるの!?」と聞く。


 真聡は静かに「……あぁ」とだけ言った。


 それを聞いた日和が真聡のブレザー制服の襟を掴みながら「由衣がどれだけ!」と叫ぶ。


 怒りをあらわにする日和を、由衣が「ひーちゃん!やめて」と止めに入る。

 今回は肩を掴んで。


 そして日和の手から解放された真聡に由衣が言葉を投げかける。


「……まー君がいきなりいなくなって、家も気が付いたら「買い手募集」って張り紙があってさ。私はもう2度と、まー君に会えないんだと思ってた。

 さっちゃんとゆー君が引っ越すときはお別れできたのに、まー君はいきなり居なくなったから、余計に寂しかった。

 でも、高校に入ってまー君がいきなり戻ってきて、驚いたけど本当に嬉しかった。

 最初に突き放されたときは悲しかったけど。でもそれから色々さ、プラネタリウムとか星鎖祭りとか行ったり、体育祭や文化祭があったりさ。

 ゆー君も戻ってきて、しろ君やすずちゃんちーちゃん、新しい友達もできて。今年1年、私は本当に楽しかったの。

 ……それでも、まー君は「私達に会いたくなかった」って言うの?」


 由衣の声は、少し泣声だった。




 それでも、真聡の返事は「あぁ。」と冷たく短いものだった。




「……もう知らない。まー君なんて、大っ嫌い」




 由衣はそう吐き捨てて、部屋から走って出ていたた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る