第150話 見たくねぇ

 「……もう知らない。まー君なんて、大っ嫌い」


 由衣ゆいはそう吐き捨てて、部屋から走って出ていった。



 その背中に日和ひよりが「ちょっと由衣!」と叫ぶ。



 しかし、由衣は戻ってこない。



 閉まったま扉は開く気配もない。



 日和は真聡まさとの方に向きを変える。

 そして「最っ低」と吐き捨て、由衣を追いかけて出ていった。



 2人が去った後、佑希ゆうきがため息をついた。


「とりあえず、俺が2人を説得するから。真聡、必ず謝れよ」


 そう言って佑希すらも出ていった。




 そして真聡、俺、鈴保すずほ智陽ちはる、それにほむらさん、そしてよくわからない女子が部屋に残った。



 この状況…マズいよな…。

 いや、それ以前に俺が嫌だ。


 そう考えていると、今度は鈴保が真聡に掴みかかった。


「あんた本当に何考えてるの!?あんなこと言われたら由衣や日和がどう思うかなんてわかるでしょ!?」

「というかこんなにボロボロにやられてるのに、また1人で戦うつもりなの?」


 智陽も一緒に真聡を責め始める。

 しかし真聡は何も言わず、抵抗もしない。


 とりあえず俺は「ちょっと2人とも落ち着けって」と言いながら鈴保の腕を掴む。


 鈴保は俺を睨みながらも、真聡から手を離した。


「むしろ何であんたはそんな冷静でいられる訳?」

「今回は完全に真聡が悪いから庇う必要ないでしょ」

「いやまぁ…そうかもしれなねぇけどさ…」


 俺にはそうは思えなかった。



 いや、確かに言い方は悪かった。



 でも真聡が本気で由衣達に再開しなければ良かったなんて思う訳がない。



 そんな確信があった。



 けど違ってたら恥ずい。


 なので言うかどうか悩んでいると、真聡が先に口を開いた。


「……お前らも出て行けよ。ヒーローごっこは終わりだって言っただろ」

「まだそんなこと言う?」

「ほんと真聡、いい加減にして。そうやって隠して、逃げようとするのやめて。

 あの子は誰?焔さんは戦えなかったんじゃないの?

 あんたは、何を隠しているの?」


 真聡の言葉に智陽が噛みついて、鈴保は疑問をぶつけた。


 しかし、真聡は「余計なことは知らなくていい」とまた同じような言葉しか言わない。


 智陽と鈴保はその言葉にまた噛みつく。

 これじゃあ何も進まない。


 俺は覚悟を決めて、一か八かの賭けに出ることにした。


「なぁ、真聡。お前は何を焦ってるんだ?なんでそんなに全部1人でやろうとするんだよ。

 お前は…何にビビってるんだ?」


 俺は真聡の前にしゃがんで、目を合わせながらそう聞いてみた。



 俺には真聡が何で1人で突っ走って、全部1人で抱え込むのかわからない。

 俺達はさておき、何で幼馴染の由衣や日和、佑希までも突き放すのかもわからない。


 でも、それが本心でないことはなんとなくわかる。


 だってよ。

 由衣に引っ張られて遊んでいるときの真聡は、いつもより楽しそうに見える。


 それ以外の時は、どこか焦っているように見えるのに。



 そして今の真聡は、何かに怯えているように見える。



 ……理由は分からねぇけど。


「俺が……ビビってる……」

「…あぁ。俺には、何かに怯えてるように見える。

 なぁ、話してくれよ。俺達は、笑いも馬鹿にもしない。俺達…仲間だろ?」

「俺に仲間なんて……必要ない」



 ……話になんねぇな、これ。

 これ……今何を話しても意味ねぇかなぁ…。


 そう考えた俺は、さらなる賭けに出ることにした。


「……わかった、帰るわ。今日は」


 俺の言葉を聞いた鈴保と智陽が声を揃えて「は!?」と叫んだが、俺は気にせず言葉を続ける。


「で、また明日来るわ。由衣も日和も連れて全員で」

「お前…俺の言葉の意味わかってないだろ」

「全部わかってるとは思ってねぇよ。

 ……でもよ、これでいいのかよ。

 真聡は、由衣に「大っ嫌い」って言われたままでいいのかよ」


 真聡からの返事はない。

 下を向いて表情が見えない。


 とりあえず、言った通り帰るか。


 窓の外を見るともうすぐ日が沈みそうだった。

 由衣も探さないといけない。


 そう思いながら、焔さんの方を向く。


「という訳で、俺達帰ります。真聡のこと頼みます」

「あ~任せろ任せろ。

 …お前らもしっかり休めよ」


 焔さんの言葉に「うっす!」と返事をする。

 あと名前は知らないけど、助けてもらったしお礼言わないとな。


 そう思った俺は「…あんたも助けてくれてありがとな」と女子に向けて言う。



 けど、ガン無視されて違う方向を向かれた。

 ……やっぱめっちゃ感じ悪いな。


 でもそれに突っかかっても意味ないので、俺は帰る準備を始める。


 すると鈴保に「え、本気で帰るの?」と突っ込まれた。

 俺は小声で「帰るしかねぇだろ。このまま話しても何も進まねぇって」と返す。


 鈴保はため息をつきながら帰る準備を始めた。

 智陽も無言で帰る準備をしてる。



 各自、鞄と上着を持ったので「んじゃあ今日は帰ります」と言って真聡の部屋を後にする。


 ビルの階段を降り始めたとき、智陽が口を開いた。


「で、志郎にしては珍しく凄く知的で冷静だったけど、どうしたの」

「……もしかして智陽は俺のこと馬鹿で落ち着きがないと思ってる?」


 そう聞くと「「思ってる」」と鈴保まで声を重ねて肯定してきた。


 俺は「鈴保もかよ…」と少し落ち込みながら階段を降りる。


 智陽は続いて言葉を投げてくる。


「で、なんであんなに冷静だったの。

 というか何で真聡庇った訳?」

「だってよ、いくら真聡が悪いとは言えど、お前らが2人して責めるから止めるしか…ねぇなって」


 俺がそう言うと、2人の口から何とも言えない声が出た。

 俺はそれを気にせず言葉を続ける。


「あとさ、真聡が本当に由衣達と会いたくなかったって思うか?」

「「あ~……」」


 また2人の声が重なった。

 多分、思い当たることがあるんだろうな。


「でも真聡が蒔いた種でしょ。志郎がそこまでして間に入る必要ある?」

「そうそう。あいつ隠し事多いんだし、少しぐらい痛い目見た方が良いって」


 鈴保が怖いことを言ってる。


「まぁ……大事なこと黙ってるのは良くねぇよ。

 だから、これは俺の勝手なおせっかいだ。

 俺は、真聡と由衣が喧嘩してるところを見たくねぇんだ」


 2人はまた声を重ねて「あ~…」と納得のような返事をした。


 いや、喧嘩するだけだったらまだいいんだけどさ。


 …今の真聡なら1人であの天秤座の堕ち星に戦いに行く。

 今回は助けれたし、目も覚ました。


 でも、次はないかもしれない。


 ……それは駄目だろ。


 ちょうどビルを出たとき、鈴保が「とりあえず。由衣見つけないとね」と言って来た。


 俺はその言葉に「だな」と返しながらスマホを確認する。

 でも残念ながら。


「連絡は…来てねぇな」

「見つかってないのかな。由衣の家は…こっち」


 智陽の案内でとりあえず由衣の家を目指す。


 暗くなってきたとはいえ、まだ夕方。

 人通りはそこそこあるから人の声もたまに聞こえる。



 そして曲がり角を曲がった時。



「あれ、由衣に日和…に佑希まで」

「ちーちゃん…にしろ君にすずちゃん…何で?」



 先に出ていった3人と鉢合わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る