第045話 情報共有

「じゃあ情報共有といきましょう!」

「おう!」

「何でそんなにテンションが高い。」


 次の日、終業式も終わってついに夏休みに入った。

 そんな日に私達はすぐに帰らず、屋上に出られるドアの前に集まった。

 本当は屋上の予定だったんだけど、流石に日差しが痛かったので屋内に入ることした。


「だって人気のないところに集まって情報共有ってそれっぽくない!?」

「な!テンション上がるよな!」

「遊びじゃないんだぞ」

「…気持ちはわかるかな」

「だよね!?」


 智陽ちはるちゃんもどうやら同じ気持ちらしい。

 まー君は…多分呆れてる。

 智陽ちゃんは最初何考えてるかわからなかったけど、最近少しずつ心を開いてくれてる気がして嬉しい。

 そんな事を考えてるとまー君が「で、何か話すことがあったから集まったんだろ」と話を戻そうとする。


 そう、今日の集合は私が提案した。

 理由はもちろん昨日、梨奈りなちゃんから聞いた鈴保すずほちゃんの話。

 という話を今朝、メッセージグループでした。


 すると志郎しろう君も話があるって言ってた。

 志郎君はあの後に鈴保ちゃんを見つけて話せたとかなんとか。


「どっちからだ」

「じゃあ、私からで!」


☆☆☆


「つまり…砂山さやまさんは怪我によって、中学3年間頑張ってた陸上の最後の大会に出れなくなった。そこから陸上をはじめとした、何もかもが嫌になってしまった。それが原因で昔の友達と上手くいかず喧嘩してたと」

「のようだな」


 私と志郎君はそれぞれ聞いた話を話し終えた。

 そして智陽ちゃんがそれを短く纏めてくれた。


 梨奈ちゃんの話を聞いたときから、鈴保ちゃんの力になりたいと思ってた。

 そして今、志郎君が聞いた話を聞いて、私はさらに力になりたいって強く思った。

 でも…どうしてあげたらいいんだろ…。

 私だけでも考えても答えは出ない気がしたので、私は思い切って口にしてみる。


「ねぇ…私達、鈴保ちゃんのために何か出来ないかな?」

「俺も同じこと考えてた。何かしてやれねぇかな…まぁ調子に乗るなって言われたんだけどさ…」


 志郎君も同じことを考えてたらしい。

 そして志郎君と「う〜ん…」という声がハモる。

 しかし、まー君は厳しかった。


「別に何もしなくて良いだろ。それは砂山が自分で解決する問題だ」

「まー君、澱みや堕ち星が関わらないと冷たくない!?」

「…不必要に他人の問題に首を突っ込む必要はないだろ。他のことに手を出して、本来するべきことが疎かになったら本末転倒だ。俺達は俺達がやるべきことをやれば良い」


 言ってることは間違いではないと思うんだけど…何というかこう…冷たい。

 でも間違ってるわけではないと思うから反論がしにくい。

 悩んでいると先にまー君が口を開いた。


「だがまぁ…蠍座の目的がわからない以上、昨日の2人には護衛をつけるべきだろう。志郎、砂山を頼めるか?」

「おう!任せてくれ!」

「じゃあ、私は梨奈ちゃんだね?」

「あぁ。じゃあ任せるぞ」


 そう言い切ったまー君は階段を降りていく。

 …待って?巨大蠍が何なのか聞いてないよね?


 私は慌てて「あの巨大蠍って結局何なの!?」と叫んで降りていくまー君を呼び止める。

 まー君は「言ってなかったか?」と踊り場から答える。

 「いや、聞いてないんだけど!」と私が叫ぶと、また階段を上って戻ってきてくれた。


「あれは星座概念体だ」

「星座…」

「概念体?」

「…つまり堕ち星とは違う…ってこと?」


 志郎君、智陽ちゃん、私の順番で言葉にして言われたことを考える。

 でも考えてもわからないからまー君の説明を待つ。


「堕ち星は人間が星座の力で怪物になるが、星座概念体は星座の力単体でああいう形になる。理由はわからないが」

「じゃあどうやって倒すの?」

「普通に攻撃して、エネルギー切れ起こさせれば良い。あれは星力の塊みたいなものだからな」

「つまり、由衣以外でも倒し切れるってことか?」

「あぁ。俺も何度か概念体は倒しているからそこは保証できる」


 そのとき、どこからか悲鳴が聞こえた。

 聞こえた感じから校舎内ではないと判断したらしいまー君は屋上へ飛び出す。

 私達も後を追う。


 私達は屋上の手すりから身を乗り出して、下を覗く。

 すると昨日の蠍座の概念体が暴れているのが目に入った。


「あれ!昨日の!」

「噂をすると…ってやつか?」


 まー君の方を見ると、ちょうど手すりを飛び越えていた。

 思わず私は「何してるの!?」と叫ぶけど、まー君は地上に向かって落ちていく。


 そしてまー君は私達の心配なんて気にせず、着地した。


 何あれ、どうなってるの?生身だよ?星鎧生成してないよ?


 混乱していると、まー君は星鎧を生成して蠍座に向かっていく。

 もしかして、おかしいのは私?

 普通はできるの?なんかもうわからなくなってきた…。


 そんな私は志郎君の「俺達も行くぞ!」という声で我に返る。


 しかし、そんな志郎君も手すりを飛び越える準備をしてる。

 やっぱりそれで行くの!?


「いや、普通無理だから。私達は階段で行くよ」


 その声で振り返ると、智陽ちゃんは既に校舎内への扉を開けていた。

 そうだよね。普通無理だよね。

 私は謎に安心しながら駆け足で校舎内に戻った。


☆☆☆


 1階に降りて外に出ると、まー君はもちろん既に蠍座と戦っていた。

 なので私達も急いでいつもの手順で星鎧を生成して加勢しようとする。


 そのとき、また沢山の澱みが湧き出した。


「昨日もこうだったよな!?」

「…ってことは!?」


 次の瞬間、金属がぶつかるような音が響く。


「また邪魔しに来たのか」

「悪いね、山羊座君。でも俺は俺の仕事をしに来てるだけなんだよね。まぁつまり…お互いがお互いの邪魔してるんだよね!」


 そして、まー君とからす座の戦いが始まる。

 まー君を手伝いたいけど、蠍座も何とかしないといけない。

 それにまず私達は澱みに囲まれている。

 

「とりあえず澱みから行くぞ!」

「だね!」


 私達は澱みとの戦闘を始める。

 近い澱みから殴って蹴って、攻撃を避けて攻撃して、消滅させていく。


 澱みの数を半分ほど減らしたとき、また悲鳴が響いた。


 悲鳴が聞こえた方を見ると、梨奈ちゃんが蠍座に襲われ尻餅をついている。

 まー君はからす座と戦ってるし、私達はまだ澱みが残ってる。

 …でも、このままじゃ駄目だよね。

 私は覚悟を決めて志郎君に叫ぶ。


「志郎君!行って!」

「…おう!」


 志郎君は少し迷いながらも、武器を生成しながら蠍座の方へ走っていく。


 私よりも志郎君の方が足速いはずだし、距離が近い戦いも得意のはずだもん。

 私は牡羊座の能力を使うならどうしても距離が必要だし。

 それにまだそこそこいるけど、澱みだけなんだから私1人でも大丈夫だし。

 それよりも梨奈ちゃんを助けないと。


 しかし、志郎君はさらに増えた澱みに行く手を阻まれる。


 そして、蠍座の尻尾は無情にも梨奈ちゃんに振り下ろされた。

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