第141話 正義のヒーローみたいで
両親を亡くして、星雲市を離れて、国立魔師学院に転入してから2年の月日が経った。
中等部3年になった俺はようやく山羊座に認められ、星鎧の生成にも成功した。
魔術も基礎的なものはだいたい使えるようになった。
あの決闘事件以降も
だが、何度か衝突を繰り返すうちに俺や
☆☆☆
11月のとある休日。
日差しが温かい昼下がり。
俺と稀平は学院の敷地内にある芝生の坂に座って話していた。
「結局、
「まだ…決めてないんだよなぁ…。
結局、どれに進んだらいいかわからないし…」
そう呟いたとき、「…秘匿守衛隊になるんじゃないの」という女子生徒の声が後ろから飛んできた。
振り返るとそこには決闘の時の女子生徒、
あのときは手ひどく拒絶された。
しかし結局ほっておけないと思った俺はその日以降、女子生徒に毎日話しかけに行った。
結果、1年の2学期が始まるころには特に理由もなく集まるくらいには仲良くなっていた。
そして今日も当たり前のように俺達と並んで清子も座った。
その姿を見ながら俺は「秘匿守衛隊…か…」と呟く。
秘匿守衛隊。
神秘が薄れ、魔法魔術が衰退した現代でも役目は2つ。
1つ目はそんな現代でも神秘などが現代社会を脅かすこともある。
その神秘と戦い、現代社会を人知れず守る。
2つ目は魔術や魔法、神秘を使って世の中を乱そうとする要素の排除。
つまりは魔術、魔法、神秘の3つを秘匿する世界神秘等保護管理協会が実力を行使する際の実働部隊だ。
……本来ならこのギアと星座の力も秘匿守衛隊として使われるものだろう。
だが、俺は
そのため、秘匿守衛隊に入るのは気が引けていた。
俺は「入って大丈夫なのかな」と呟く。
それを聞いた2人は「あ~…」という微妙な返事がきた。
この学院の人間は信用できない。
だけど、この2人は信用できる。
そう思って2人には俺がこの学校に来た理由などは話していた。
だが、この話をしても解決策は浮かばない。
そう思って話題を変えることにした。
「…2人は結局どうするの?」
「俺は…一般科かな。結局一族の魔法は使えないし、使える魔術も土以外は特別なものはないしさ。協会関係の仕事に就きたいけど……いっそのこと、一般社会で就職するのもありかもしれない。
……そうすれば家から出られるし」
稀平が俺の質問にそう答えた。
そのまま「妖崎は?」と聞く。
「私も同じ…かな。あんたたちのお陰で術で指定した魔道具は喚び出せるようになった。でも結局片道だけ。これじゃあ珍しくもなんともない。
だから私も、一般社会に出てしまうのもありかも。
そもそも、神秘が薄れた時代に妖精が喚べる訳ないでしょ」
清子は何度聞いたかわからない文句を呟く。
そんな清子を見ながら、2人の言葉で気になったことを質問する。
「…そんなに協会関係の仕事に就くのって大事なのか?」
「「大事」だよ」
清子と稀平は声を合わせてそう言った。
そして、稀平が言葉を続ける。
「まぁ…魔師社会の外から来た真聡にはわからないか。
あ、嫌みとかじゃないからね?
何て言ったらいいかな……あぁ、魔師って家業なんだ。働く先が協会って広いだけでさ。
だから、家業以外の選択肢が珍しいのと一緒」
「というか、魔法師家系の私達が魔術すらろくに扱えないのに、魔術師の家系ですらないあんたが5属性も使えて魔術師として優秀で神秘保持者って皮肉な話よね」
棘がある言い方。
だけど、悪気はないということは知っている。
だから俺も稀平も気にせず会話を続ける。
…まぁ俺は置いてけぼりなんだけどさ。
「そろそろ家系ばっかり見るのやめた方が良いと思うんだよね」
「ほんとそれ。そもそも神秘が隠れてる時代なんだから、もう少し考え方変えるべき」
「でも結局はさ、優秀な人が引っ張るべきって考えは変わらないよね」
「そうじゃん。は~~…ほんと、夢も希望もないわ」
清子はそう言いながら空を見る。
そして、ポツリと呟いた。
「真聡はさ、そんな大きな力をどう使うつもりなの」
清子にも稀平にも何回か聞かれた質問。
神秘保持者は魔法師や魔術師よりも立場が上らしい。
でも何度聞かれようと、何を知ろうと俺の決意は変わらない。
「俺は、誰かを守るためにこの力を使う。誰かのために戦う」
「誰かのために戦う…ね。やっぱりいいな、真聡は。正義のヒーローみたいで」
「そうかな…?」
「普通言えないわよ、そんなこと」
「そうだね。魔法師や魔術師は自分中心で考える人が多いから。
だから秘匿守衛隊は人手不足なんだよ」
稀平の言う通り、秘匿守衛隊は人手不足らしい。
まぁそんなに重大事件なども起きないから、出番も少ないらしいけど。
「あ~あ。僕も真聡の力になれればなぁ」
「…稀平は十分、俺の力になってくれてるよ。あの日、俺に手を差し伸べてくれてなかったら、きっと俺はどこかでこの学校を辞めてたかもしれないし」
「……男同士でイチャつかないでくれる?」
「なんでそうなるの…?」
俺のツッコミで清子が笑う。
それにつられて、俺と稀平も笑う。
一通り笑った後、清子が「そろそろ行かないと」と立ち上がった。
俺は「どこに行くんだ?」と聞く。
「工房。魔道具の整備をお願いしてて、多分もう終わった時間だろうから」
「そっか。…どうする?」
「…暇だし着いて行くか?」
そんな会話をしながら俺と稀平も立ち上がる。
清子は「勝手にすれば」とだけ言って工房へ向けて先に行った。
俺も稀平と一緒に後を追いかけようとする。
すると、稀平が呟いた。
「なぁ、その力があればここにいるやつら、一掃できるかな」
その言葉に驚いて俺は振り返って稀平を見る。
稀平の目は、本気の目だった。
俺はそんな目をする稀平に、恐怖を覚えた。
「稀平…それ…本気で言ってる?」
訪れる沈黙。
聞こえるのは、他の生徒の声。
神秘は魔法や魔術をも上回る力。
神秘の力をコントロールできれば、並の魔法師や魔術師なでは敵ではない。
稀平の言う通り、本当に使いこなせれば一掃できるだろう。
だがそれは、許されることではない。
「冗談。ほら、早く清子を追いかけよう」
そう言って俺の肩を叩きながら俺を追い越していく稀平。
冗談。
その言葉を信じて、俺は稀平の背中を追いかける。
この日。
この言葉を信じてしまった事を、俺は死ぬほど後悔する。
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