第090話 触るなっ!!!

 隕石みたいなのが降ってきてから数十秒後。

 ようやく煙が晴れていく。


 私は派手に吹き飛ばされて地面に倒れてる。

 でも星鎧は消えてないし大丈夫。立てる。まだ戦える。

 それよりすずちゃんが心配。

 私より隕石に近かったけど……


 私は立ち上がって心配しながら辺りを見回す。

 すると結構近くにすずちゃんが倒れているのが見えた。


 制服の姿で。


 私は慌てて駆け寄って声をかける。


「すずちゃん!?すずちゃん!!ねぇ!!返事してよ!!」

「そんなに叫ばなくても、聞こえてるから……死んでないし、意識もある」

「よかった……でも何で隕石に向かって槍を投げたの…?」

「……私はずっと魚座と戦ってて結構毒も飛ばしてたから、ギリギリだったの。

 それであの攻撃が来たから。明らかにあれはヤバい奴だったじゃん。

 だから2人でやられるより、限界な私が少しでも攻撃の威力を下げてから方が良いと思ったの。どうせ私はもう戦えないから。……由衣はまだいけるでしょ」

「すずちゃん……」

「大丈夫、ただの星力切れだから。もう少ししたら立てるし歩けるから。……それにしても、使い慣れてない術を何度も使うもんじゃないね」


 すずちゃんはそう言いながら立ち上がる。

 でもその足は少しだけふらついていた。

 ……きっと私を心配させないために無理してる。

 悔しさと申し訳無さで自分の手をぐっと握る。


 そのとき、地下水路内に声が響いた。


 …悔しがってる場合じゃない。まだ戦いは終わってない。

 みんなを連れて逃げなきゃ。


 私はその声を聞きながら、すずちゃんを連れてこっそりと移動を始める。


「さて、山羊座以外は鎧消えちゃったね。

 ……何か2人ほど見当たらないけど……まぁいいか。それに山羊座ももう限界でしょ。

 元々は全員ここで殺すつもりだったんだけど……仲間を増やそうかな」

「前に目をつけてた獅子座?それとも蠍?」

「ん〜〜その2人はもういいかな。何も感じない。

 僕が気になるのは……双子座。

 ねぇ、その苦しみや怒りから解放されたくない?」

「……お前らの言葉を聞くつもりはない」


 私達は私達からはへび座とからす座の堕ち星が見えるけど向こうからは見えない位置まで移動した。


 ゆー君もしろ君も制服姿で倒れている。

 まー君はまだ星鎧の姿だけど、立ち上がる気配がない。

 ……星鎧を維持するだけで精一杯なのかな。


 でもひーちゃんや他の生物部の人達は大丈夫そう。

 隅っこにいたから助かったみたい。


 一方、へび座とからす座は普通に立っている。

 そして2匹の大きな蛇も見える。


 ……私がなんとかしないと。


「そ。じゃあ……君だ」


 へび座が誰かに向けて指を差した。

 その先にいるのは……ひーちゃん。

 そして、へび座はひーちゃんに向けて歩き出す。


 それを見た私は気がつくと走り出していた。


「君も辛かったんだね。劣等感、孤独。その気持ち、よくわかるよ。

 だからその苦しみから開放してあげる。君の本音、聞かせてよ」


 へび座の手から黒い靄が出てる。


 それを見た私は4月末の遠足のときを思い出す。


 暗くて、怖くて、死にそうになったあのとき。


 あんな苦しくて怖いのを、ひーちゃんにもさせたくない。


 私は全力で走る。


 何とかへび座とひーちゃんの間に割り込めた。


 そして私は声を張り上げる。


「私の大事な大事な友達に!!!!!触るなっ!!!」


 そのまま杖を掲げる。

 すると羊が。

 いつもより大きくて立派な角を生やした半透明の羊が現れた。


 その羊はへび座の堕ち星に向かって突撃して吹き飛ばす。


 次にへび座は2体の大きな蛇を羊に向かわせる。

 2体は連携して、羊を襲う。


 でも羊は惑わされずに攻撃を避けて、確実に反撃する。

 後ろ足で蹴って1体目、頭突きをして2体目の巨大な蛇を吹き飛ばした。


 そして立派な角の羊は消滅した。

 それと同時に私は身体がとても重く感じて地面に膝をつく。

 星鎧も消滅してしまった。

 今ので力…星力を使い切っちゃったのかも。


 しかし、体勢を立て直したへび座が戻ってきた。

 全然平気そう。

 そしてへび座は怒りの声を上げた。


「……山羊座も、射手座も本当に邪魔だと思ってる。

 でもその2人以外は別に邪魔にもならないと思ってた。だけど、どうやら甘く見てた。牡羊座。君も邪魔だ。

 ……もういい。全員ここで殺す」


 私は重たい身体に気合を入れて何とかへび座を見る。

 へび座は既に何かを持った手を突き出している。


「エリダヌス座」


 そう唱えたと同時に、へび座の周りから黒く濁った水が周りに流れ出す。


 逃げなきゃ。


 みんなを


 ひーちゃんを守らなきゃ。


 頭ではわかってるんだけど、身体が動かなかった。


 数十秒後、私達は黒い濁流に飲み込まれた。

 私の意識もその濁流のような暗闇に落ちていった。





 その濁流の中で私は大きな魚に食べられる夢を見た。

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