第089話 空も走れ!

 時間は平原 志郎が白上 由衣と分かれたところまで遡る。


☆☆☆


 しろ君が壁際に追い詰められているまー君を助けに行くために走って行った。

 私だってまー君を助けに行きたいとは思った。

 でもきっとしろ君が私を止めたのにはしろ君の考えがあると思う。

 だから私はしろ君にまー君をお願いすることにした。


 2人で行くことも考えた。

 でもすずちゃんやゆー君に1人で概念体を任せるのも嫌だった。

 だから早く概念体を倒して、みんなでまー君を助けにいかないと。


 私は少し焦りながら、しろ君が壁まで吹き飛ばした蟹座に駆け寄る。


 遠くから見えてなかったから、もしかしたらとは思ってた。

 やっぱりさっきまでの巨大蟹の姿はない。

 代わりにさっき巨大蟹がぶつかったところの下に、プレートが落ちていた。


 私はそのプレートを拾い上げる。

 ……でも見てもこの並びが蟹座なのか自信がない。

 とりあえず私は星鎧の一部を一瞬だけ消滅させて、蟹座のプレートを制服のスカートのポケットに仕舞う。


 次に私はすずちゃんの方を見る。

 もちろん魚座と戦ってる。

 ……毒を飛ばしてるのかな、あれ。

 今はとりあえず行かないと。

 そう思って私は走り出す。


 魚座の概念体が口から水を吐き出す。

 すずちゃんはその水の弾を避けて、毒の弾を撃ち返してる。

 しかし、その毒の弾も避けられる。


 2匹の大きい魚が尻尾をくくりつけられてるのに、動きぴったりなんだけど!

 あれじゃあ攻撃当てられないじゃん!

 そんな事を思いながら、とりあえずすずちゃんと合流する。


「助けに来たよ」

「正直助かる。……でも由衣、何とか出来そう?」


 私はその指摘に思わず呻き声が出た。

 確かに来たのはいいけど、何とかできる方法が思いつかない……どうしよう……。

 悩んでいるとすずちゃんが口を開いた。


「魚座の概念体。飛び回るから毒飛ばしても当たらないし、飛んで近づいても逃げられるんだよね。…………由衣の羊って空中走れないの?」


 私はその質問にすぐに答えられなかった。

 だってやったことないからわかんないから。

 そして質問に答える前に水の弾が飛んでくる。

 とりあえずそれを避ける。

 すずちゃんと離れちゃったので私は大声で返事をする。


「わかんない!やったことないから!」

「そう!じゃあ他の方法考えないとね!」


 そこに今度は2匹の大きな魚による体当りが来る。私達はそれを避ける。

 避けて避けて避ける。


 飛んでるから直接攻撃できない。

 降りてきても攻撃する隙がない。

 そしてやっと近寄っても飛んで逃げられるんでしょ?

 ……蟹座より大変じゃない?


 やっぱり、私の羊を沢山出して……頑張って当てて降りてきてもらうしか……ないよね。

 やったことないから出来るかわからない。

 でも私もこれしか思いつかない。

 それにやって出来なかったんじゃなくて、やってないからわからない。

 だったらやるだけやってみるしかない!

 私は攻撃を避けながらすずちゃんに叫ぶ!


「さっきの話!やるだけやってみる!」

「わかった!じゃあお願い!」


 そう言うとすずちゃんは魚座の攻撃を避けて反撃した。

 私は距離をとって深呼吸をして集中する。

 目を閉じて、私が作った半透明の羊が空中を走る姿を想像する。


 大丈夫、できる、いける!


 私は目を開けて言葉を紡ぐ。


「羊が1匹、羊が2匹。眠れよ眠れ。空も走れ!羊の群れ!」


 そう唱えるといつものように羊が現れた。今回は5匹。

 5匹の羊達は魚座に向かって走り出す。


 走ってくる羊を見た魚座はすずちゃんから離れて、空へと逃げる。

 すると羊達もそれが当たり前かのように、空中を走って追いかけていく。

 上手く行った!


 2匹の巨大魚と5匹の透明な羊による空中追いかけっこが始まった。

 巨大魚は羊を消そうと水の弾を飛ばすけど、羊達は上手に避ける。

 その光景が数十秒続いた後、1匹が魚座の行く方に先回りをした。

 柱を使って上手に隠れてバレてないみたい。


 そして、先回り羊が魚座に体当りをする。

 その攻撃は不意を突かれた魚座に綺麗に決まり、少し動きが鈍った。

 その隙を逃さず、後ろから来ていた4匹の羊も次々に体当りして消滅していく。


 5匹分の体当りを受けた魚座はふらふらと地面に落ちてくる。

 それを見たすずちゃんは、既に魚座に向かっていった。

 そして思いっきり槍で魚座を突いた。

 渾身の一突きってやつ。


 その一撃で魚座は壁まで吹き飛んで、煙が舞った。

 ……何かいつもの羊を呼び出す時よりも疲れた気がする。

 でも今はそんな事言ってられないよね。

 私はすずちゃんに駆け寄る。


「上手く行ったね!」

「うん。でも今までで1番疲れた……」

「私も〜……とりあえずプレート回収しに行ってくるね」


 今度は吹き飛んだ魚座に駆け寄る。

 やっぱり、蟹座と同じでプレートが落ちてる。

 拾い上げると、後ろからすずちゃんが「無事に回収できてよかった」と言った。

 私は返事をしながら振り返る。

 そして、もう一度星鎧を一瞬だけ消滅させて制服のスカートのポケットにしまう。


「……まー君とゆー君助けにいかないと」

「だね。……どうする」


 すずちゃんがそう言ったとき地下貯水路に轟音が響く。

 この音は……上から!?

 見上げると……何あれ。隕石?のようなものが地下貯水路に降ってきている。

 それはもちろん、私達に向けても。

 私は咄嗟に全身を星力で守る。


 一方、すずちゃんは私の方をちらっと見た。

 そして降ってくる隕石に向けて槍を構えたあと、槍を投げた!

 ……何で!?

 そう思った直後、私は衝撃で吹き飛ばされる。


 そして辺りは凄い煙に包まれた。

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