第008話 私の本音
何も見えない。何も感じない。
私は…何してたんだっけ。
今日は…遠足だった。楽しかった。
帰るまでは普通だった。
帰るときに…泥人形が現れた。
みんなと一緒にバスまで逃げようとして、私は…。
そう。乗らなかった。
先生に適当に言い訳して乗らなかった。
なんて言ったっけ。思い出せないや。
そこから…まー君が心配で茂みに隠れて…。
さらに怪物が現れて…。
まー君が勝ったと思ったらピンチになって…。
助けなきゃと思ってたら…そうだ。
今は私が捕まってピンチなんだ。
私…このまま死ぬのかな。
結局、まー君とちゃんと話せなかったな…。
もしかして、まー君はこうなると思ってたから話してくれなかったのかな。
そうだとしたら、私最低だ。
まー君の忠告を聞かないで死にそうになってるんだから。
謝っても許してくれないだろうなぁ。
「さぁ!君の本音、聞かせてみろ」
私の本音…なんだろ。
やっぱり、まー君とちゃんと話したかったな。
…じゃあ、諦めてる場合じゃなくない!?
そう思った瞬間、私は左手が凄く熱いことに気がつく。
そしていつの間にか何かを握っていたことにも。
いつから熱かったのか、いつからそれを握っていたのかはわからない。
でもそれに気がついた瞬間、頭の中の靄が晴れていく感じがした。
そうだよ。私はこのまま死ぬわけにはいかない!
だってまー君が話してくれるまで待つって決めたんだから!
「私の…本音は…まー君とちゃんと話したい。また仲良くしたい。命がけで戦う、まー君の力になりたい。まー君の隣で!私も!戦いたい!」
私は本音を叫ぶ。
すると私の周りの黒い靄が吹き飛ぶ。
私の首を掴んでいた怪人も吹き飛ばされる。
私は自分の足で地面に立つ。
今、何をすればいいかは何故かわかった。
私は前に歩き出す。
そして、まー君に近づく。
「これ、借りるね」
そう言って私は彼のお腹に巻かれている深い青色をした箱のような、ベルトのようなものを外し自分のお腹につける。
そして怪人の方を向き私の思いを叫ぶ。
「ありがと。私が本当は何がしたいのか気が付かせてくれて。でも、私とまー君をこんな目に合わせたあなたを私は許せない!今度は私が相手をする!」
左手だけじゃなくて身体中が熱い。
でもエネルギーに満ち溢れてる気がする。
私はいつの間にか左手で握っていたそれをベルトのようなものに入れる。
すると「上側のボタンを押せ!星鎧生装だ!」とまー君が叫んでいるのが聞こえる。
私はその言葉のとおりにボタンを押す。
「星鎧、生装!」
今度は全身に激しい痛みを感じる。
痛すぎる。
立ってられないくらい痛いけど、私は気合を入れてなんとか立ち続ける。
するとベルトようなものの中心から何かが飛び出す。
なんだっけこれ。見覚えはある気がする。
考えていると私は全身光りに包まれる。
前にまー君が鎧を纏うのを見てたし怖くはなかった。
私の全身は鎧に包まれて、光が晴れる。
身体はまだ痛い。
でも、ここで私があれを倒さないといけない。
そう思って痛みを我慢する。
「驚いた。山羊座に嫌がらせをしようと思ったのに、まさか敵が増えるなんて。これはとんだ失敗だ。今日はここまでにしておくよ」
そう言って怪人は去っていった。
私は追いかけようとする。
だけどついに痛みに耐えれなくなって力が抜けて、膝から地面に崩れ落ちる。
鎧もほぼ同時に消えて、私は元の姿に戻る。
「
「ぜ、全身が…痛い……」
振り返ると、まー君が隣りにいた。
しかし、彼も限界みたいで私の横に倒れるように座った。
「まー君こそ大丈夫なの?」
「なんとかな。少し休んだからなんとか動けるまでには回復できた」
「そっか」
気まずい。何を話せばいいのかな。
結局わからない。
私はさっき考えていたことを思い出す。
「まー君」
「なんだ」
「えっと…その…ごめん。まー君は今日みたいなこと起きないように、私に関わるなって言ってくれてたんだよね。なのに私、全然わかってなくて…。本当にごめん」
彼からの返事はない。
…え、怒ってる?怖いんだけど。
私はこれ以上なんて言えばいいかわからなくて黙り込む。
少ししてから、ようやく彼は口を開いた。
「謝るのは…俺の方だ。お前の気持ちを考えず、俺が楽な方に逃げてた。お前の性格だと、先に全部話しておいたほうが良かったと今更気づいた。…悪かったな」
まー君が謝ってくれるなんて思ってもなかった。
「仲良くしようよ!」と文句は言ってたけど、まー君が何も教えてくれないことには何も考えてなかった。
私は驚いて返事に困る。
でもまー君の言葉は続く。
「だから…お互い様だ。それにお前がいたから、俺は助かったんだ」
怖かったし、痛かったけど彼にそう言ってもらえるなら頑張ってよかったと思えた。
「じゃあ…これからは…?」
「あ〜…。その、なんだ。もしよければ、これからも友達でいてほしい」
「…あったりまえじゃん!というかいまさら!私達は、今も昔もこれから先もずーーーーっと友達だよ!」
私はその言葉を待ってたのかもしれない。
嬉しくなって思わず彼をペシペシ叩く。
「おい、痛いって。やめろ」
「あ、ごめん!嬉しくってつい…」
顔を見合わせる。私はなぜか笑いだしてしまう。
そんな私を見て彼はつぶやくように言った。
「やっぱりお前、眩しいわ」
「ねぇ、それどういう意味〜!?」
気がつくと彼も少し笑っていた。
戦いが終わった駐車場には、2人の高校生の笑い声だけが響いていた。
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