第057話 条件

「事情はわかった。智陽、もう1度協力者として澱みや堕ち星の情報提供を頼むぞ」

「だから何でそう…え?」

「ちゃんと聞いてから反論しなよ」


 由衣が何か言っているが、面倒なので鈴保に任せよう。

 肝心の智陽は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。


「…そんなに驚くことか?」

「怒ったから終わりにされたと思ってた。」

「真聡…本当に怒ってないの?」


 智陽と鈴保はどうやら俺が起こっていると思っていたらしい。

 なるほどな…そういうことか。

 少し誤解されているようなので、俺は自分の発言の真意を説明する。


「別に俺は怒ってたから協力を終わりにしたわけじゃない。智陽が迷ってるように見えたから、どうするか聞いたんだ」

「…私達、いらない心配をしてたってこと?」

「何それ…こんな事する必要あった?」

「…智陽は戦えないだろ。戦えないやつが、無理に怖い思いをする必要はない。

 この先危険なことだってある。それでも関わり続けるかどうかを考えて欲しかっただけだ」

「何だよそれ…全部最初から言ってくれよ…」


 文句が聞こえるが俺はこれ以上この話を続けると調子が完全に狂うと思い、説明を切り上げ話を戻す。


「ただし、2つ条件がある」

「やっぱり怒ってる?」

「口を挟むな。…まず1つ目。お前のお父さんが残した研究資料を俺にも見せて欲しい」

「いいけど…どうして?」

「…あの研究所にあったはずの資料は全て失われている。だから俺は今、手探りで戦ってる。研究資料に何か役立つことが書いてあるかもしれない」

「…わかった」


 どこか引っかかる返事だとは思ったが、気にせず俺は次の質問をする。


「2つ目。お前、以前星座の力が複数使えたら…って言ってたよな」

「言ったけど…」

「その件、何とかできないか?」

「凄い無茶振りだな!?」

「というかいつの間にそんな話してたの?」


 ツッコミが飛んできたが、俺は気にせず智陽にもう1度問いかける。

 すると彼女はしばらくしてから口を開いた。


「…どういう感じを考えてるの?」

「むしろどういう感じになるんだ?」

「え」


 俺は智陽が何か考えがあるのかと思っていた。

 しかし、どうやら智陽は俺の意見が聞きたかったらしい。

 …もしやお互いノープランだったのか?

 そう思ったとき、志郎から助け舟が来た。


「あれか?他の力を重ねて全体的に強化するのか、必殺技を撃てるようにするのか。どっちが良いかってことか?」

「そう、それが聞きたいの。…何でわかったの?」

「プラネタリウムの帰りにヒーロー物の話をしただろ?あれ以来時間があれば見るようにしてるんだよ」


 律儀だなこいつ。

 だがその2択を出してくれるなら答えは決まっている。


「必殺技…だな。一時的でいいから他の星座の力を使いたい。それに長時間、2つ以上の星座の力を使うのは厳しだろうからな」

「…何の話かわからないけど、智陽は作れるの?凄く難しそうだけど。」

「そう、問題はそこ。案は出せるけど作るのは無理だよ?」


 それはそうだろう。

 神秘を使いこなす魔術装備なんて並の人間が作れるわけがない。

 だがそこはちゃんと考えてある。


「そこは問題ない。作ってくれる協力者がいる。だから智陽は図面…というか案を出してくれたら良い」

「それで良いなら…やってみるけど…できるかな…」

「AIと研究資料を使えばなんとかならないか?」

「…まぁ、やるだけやってみる。もし期待通りにならなくても文句は言わないでね」

「やってみてくれるだけで助かる」


 とりあえず、こんなところか。

 そう思ったとき、どうやら鈴保にプラネタリウムの話をしていた由衣がこちらの会話に戻ってきた。


「あ、話終わった?」

「あぁ」

「じゃあさ、ちーちゃんの歓迎会を兼ねてお菓子パーティーしない?」


 そう言いながら由衣はテーブルに置かれていた2つ目の袋の中身を出す。

 中からは様々なお菓子が出てくる。

 …さては由衣、結果はどうであれお菓子パーティーはするつもりだったな?

 俺は呆れて言葉を失う。


「…私のときは歓迎会無かったけど」

「俺のときも無かったから安心してくれ」

「だってそんな時間なかったし……みんなで集まって周りを気にせず話せる場所って…ここしかないでしょ?でも…」

「俺の家をなんだと思ってるんだ」


 由衣が「ほら!」といい由衣達は笑い出す。華山まで笑ってる。

 思わずため息をつく。

 しかし、そのため息を誰も気にしなかった


 そしてお菓子パーティーが始まった。


 由衣は自分のおすすめお菓子の良さを語っている。

 少し疲れた俺はテーブルから離れ、部屋の隅に置いてある椅子に移動する。


 いつからだろう、賑やかなのが苦手になったのは。


 そんな事を思いながら由衣達をぼんやりと眺めていると、智陽が隣に来ていた。


「何だ」

「ちゃんとお礼が言いたくて。私にもう1度、お父さんを探すチャンスをくれてありがとう」


 智陽は深く頭を下げる。

 俺はそれを「やめろ」と言って頭を上げさせる。


「…見つかるかはわからんぞ」

「わかってる」

「…まぁ機会があれば、俺も知り合いに聞いてみる」

「本当?」

「有力な情報は期待するな。…俺もちゃんと協力して貰うからには、お前のお父さん探しも協力する」

「…ありがとう、本当に」


 しばしの無言。

 テーブルにいる3人の話し声だけが聞こえる。

 すると智陽はもう一度口を開いた。


「1つ聞いて良い?」

「何だ」

「私を助けてくれるとき、あの男達に力を使ってたけどいいの?」

「…バレたら怒られるだろうな。だが状況が状況だったから大目に見てもらえるだろう。そもそも男達の話なんて誰も信じないだろうし、警察も結果から黙認してくれるだろう。

 つまり、お前が喋らなければ問題ない」

「共犯…ってこと?」

「そうだな」


 そう言い切ると智陽がクスクスと笑う。

 そんな智陽を見て、俺も質問をすることにした。


「お前、怖くないのか。あんな目にあって。俺に関わってると、いつか冗談じゃなく死ぬような目に合うかもしれないぞ」

「…怖いよ。今もたまに思い出して怖くなるときがある。でも、みんなといると怖くない。怖いと思ってる暇が無い。

 むしろ戦いから離れて、1人でいる方が怖い。家に誰もいないし」

「…そうか。まぁうるさいのが2人もいると余計なことを考えてる暇なんてないよな」


 智陽が「そうそう」と返事をする。

 本当、騒がしくなったよ。この部屋は。

 そのとき、由衣の声がフロアに響く。


「2人共〜!何話してるの〜!」

「別に」

「これ美味しいぞ!2人も食べてみなって!」


 やはり志郎もそこそこ声が大きい。

 智陽はため息をつきながら戻っていく。

 俺も仕方なくテーブルに戻ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る