第096話 儀式

 時間は戦闘開始直後に遡る。


☆☆☆


「そ。じゃあ、君たち2人もすぐに向こうへ送ってあげないとね! エリダヌス座!」


 へび座がエリダヌス座のプレートを持った右手を掲げる。

 もう隠す必要もないから初めから使ってくるか。

 波が俺達に向かって襲ってくる。

 ただ向こうも力の配分を考えているのか、2日前にやられた程の規模ではない。


 俺はわし座のプレートをリードギアに差し込んで、翼を生成する。

 そして、コンクリートの空へと舞う。


 俺が狙うはからす座。

 船尾の上に座っているからす座に向けて、俺は無詠唱の星力弾を飛ばして気を引く。


 からす座は狙い通りにそれを避けてこちらに向かってくる。

 そして羽根が飛んでくる。

 俺はそれを避けて、からす座にさらに接近する。

 そして蹴りの予備動作に入る。


 しかし慣れない空中での攻撃、あっけなく避けられた。

 代わりに俺が蹴りをもらい、地面に叩き落される。

 なんとか衝撃耐性魔術は発動できたが。

 

「飛べるようになったからってさ。元から飛べる僕の方が慣れてる分、君の方が不利なんだよ?」

「……だろうな。だが、だからどうした」


 俺はそう返しながら立ち上がり、また星力弾を飛ばす。

 そしてリードギアを再起動し、翼を生成して空を舞う。

 

 羽根で星力弾を消滅させたからす座は「懲りないねぇ」と呟く。

 だが俺の目的はからす座ではない。

 こちらの考えがバレないようにからす座にまた星力球を飛ばす。

 返しに羽根が飛んでくる。

 その応酬が続く。


 しばらくそれが続いた後。

 「すばしっこいなぁ!!」という叫びが耳に届いた。

 隙を見て声がした方を見ると、へび座が右手を掲げねている。

 その右手の上には水球があり、周りの水や澱みを吸い上げながら大きくなっていく。


 この時を待ってた。


 急いでへび座の方へ向かおうとする。

 しかし、そう簡単にもいかない。


 「よそ見とは余裕があるねぇ」と言いながら、からす座が羽根を飛ばしてきた。

 それを俺は無詠唱の風魔術で弾き返す。


 しかし、羽根を散らしたときにはからす座はほぼ目の前にいた。


「俺の勝ちだ」

「確かに勝負はお前の勝ちだな。だが、これでいいんだよ」


 俺はその言葉と共に全身の力を抜き、コンクリートの地面に向けて落下を始める。

 からす座の攻撃はぎりぎり避けれた。

 俺は再び翼に星力を集中させ、全力でへび座の元へ向かう。


 本来こんな作戦はしたくなかった。

 だが勝つためにはやるしかなかった。

 日和も怖いはずなのにやると言ってくれた。

 だから絶対に間に合わないといけない。


「さて、じゃあさようならだ」


 水球の1点が膨らむ。

 だが、へび座はもう目と鼻の先だ。

 俺は力を振り絞って速度を上げる。


 そして、へび座の右手に握られているプレートを奪い取る。


 次の瞬間、水は力を無くしたかのように下へ落ちる。

 俺は少し離れた場所に着地した。

 …予定より少し星力を使いすぎただろうか。

 一方、へび座は水に濡れながら怒りの声を上げた。


「やってくれたね………山羊座!!!」

「ずっと狙ってたからな。悪いがエリダヌス座は貰うぞ」


 まず第1段階クリアだ。

 エリダヌス座が脅威なら、奪ってしまえばいい。

 どうせ堕ち星は碌な使い方をしないのは目に見えてる。


「……もういい。まだ万全じゃないけど、これ以上待ってたら儀式そのものが出来なくなる。

 そうなったら僕の努力の水の泡だ。からす座!使っていいよ!」

「ようやく許可が下りたよ……」


 へび座は船尾の上に戻っていった。

 からす座が俺達と船尾の間に入り、プレートを持った右手を突き出す。

 俺は急いで日和と合流する。


「悪いが頼むぞ」

「頑張るけどできるだけ早くしてね」


「じゃあ…遠慮なく。 しぶんぎ座流星群」


 本当はしぶんぎ座も回収してしまいたかったが、この状況では無理だ。

 だがこちらについても無策で来たわけではない。

 俺は左手を地面について、急いで言葉を紡ぐ。


「地脈よ。未だその力健在ならば、我が言葉に応え給え。

 我、星の力を分け与えられし者也。故に我、神秘を宿すもの也。

 我、その神秘を以てこの世界に害をなす存在と戦う者也。

 そして今、その存在を打ち倒すとき也。願わくばその秘めた力、魔力を与え給う!」


 唱え終わると同時に、凄まじい量の魔力が流れ込んでくるのを感じる。

 上を見上げると既に流星が降り始めている。


 一応、日和が直撃しそうな流星を水弾で撃ち落としてくれている。

 次は俺の番だ。

 杖を生成して、先を地面について言葉を紡ぐ。


「我に分け与えられし魔力よ、星力よ。今、我らの身をあらゆる悪意から守る壁と成れ。この壁、我が心折れぬ限り砕け散ること能わず!」


 すると俺と日和を囲うようにドーム型の壁が出来上がる。


 そして、コンクリートの地下空間に轟音と共に流星が降り注ぐ。


☆☆☆


 何故しぶんぎ座流星群があそこまで強力に成っているか。

 その答えはここにある澱みを使っているからだと考えた。


 ならその攻撃をどうやって防ぐか。


 その答えを出すために俺は「何故、この地下貯水路に澱みが集まっているのか」を考えた。


 その答えを俺は「地下貯水路の今、戦闘をしているこの空間は地脈が集まる合流地点の中心である」と推測した。


 そもそも北側を山に囲まれたこの街、星雲市が地脈の合流地点を中心に作られたらしい。

 この情報は昨日、協会の上層部に確認が取れている。

 その話の信憑性を補強するように、山際にある時代錯誤遺物研究所も地脈の上に建てられている。


 つまり、地脈が集まるところに澱みも集まっている。

 そしてその澱み…と魔力を堕ち星たちは利用している。


 ならば、魔術師の俺だって利用できるはずだ。

 地脈から魔力を引き出す方法は中等部時代に習っている。

 あの学校は日本最大規模の地脈の合流地点上に建てられていたから実際にやったこともある。


 つまり地脈から魔力を引き出し、それを星力に変換する。

 それがあの2体の堕ち星をここで倒す鍵となるだろう。


 実際、しぶんぎ座流星群を防げたのが良い証拠だ。

 ……詠唱でかなり定義や強度を底上げはしたが。


☆☆☆


 轟音が止まり、辺りに煙がまん延している。

 時間は1分程だっただろうか。

 流星が止まったと判断した俺は壁を解く。


「日和、無事か」

「真聡のお陰で怪我無し。ありがと」

「あぁ」


 そして煙が晴れると同時に奴らの声が聞こえる。


「あれ、全然元気そうじゃん」

「え、仕留めそこねたの?何してるのからす。

 でもまぁ……時間稼ぎにはなったよ。そこで見てると良い。へびつかい座が降臨するのを。

 僕が苦しんでる人を救う!」


 そう宣言すると共にへび座は巨大な蛇へと姿を変えた。

 苦しんでる人と世界を救う?人を異形の化け物にしてる疑いがあるやつが何言ってんだ?

 というか今へびつかい座と言ったよな…?

 ……本当に何をする気だよこいつは。


「2匹の蛇を従えて、蛇の力を使い俺自身も蛇になった!

 そしてここに、守り手の像を生贄に捧げる!

 さぁ、復活し、僕に力を貸せ!へびつかい座!!!」


 周囲の澱みが船尾の周りに集まる。そしてその船尾に3匹の巨大な蛇が絡みつく。


 辺りはより一層禍々しい空気に包まれた。


 そして…

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