第084話 怖いのか?
真聡達の背中が暗闇に消える。
すると志郎が「じゃあ、俺達も行くか」と言って右側の暗闇に進んでいく。
私もその背中を追う。……やっぱり気乗りしないけど。
暗闇の中をヘルメットのライトを頼りに進んでいく。
しばらくするといきなり志郎が立ち止まった。
私もぶつかる前に立ち止まる。
「何。いきなり止まらないで」
「いやぁ……鈴保、1つ聞いていいか?」
「…何」
「お前……怖いのか?」
「……は???な、何が!?何を証拠に!?」
「いやだってお前……ずっと俺の背中を盾にしてるし……服掴んでるよな?」
私はその言葉で自分の手を見る。
すると私の右手は確かに志郎のポロシャツを指先で掴んでいた。
…………何で私こいつの服掴んでるの!!??
私は自分の無意識の行動に驚いて服を離して後ろに下がる。
私の反応を見た志郎は少し笑いながら聞いてくる。
「何だよ、無意識か」
「うるさい。早く進んで」
「……怖いのか?」
……答えたくない。
でもきっと志郎は答えないと先に進まないと思う。
……今は人の命がかかってる。さっさと進まないと。
だったら答えたくないけど答えるしかない。
私は渋々口を開く。
「そう。怖い。何か悪い」
「いやいや、悪いなんて言ってないだろ…………何が怖いんだ?」
「……こういう場所が苦手なの。小さい頃にたまたまテレビでやってた心霊番組を見てから苦手なの」
「あぁ……なるほどな…………戻るか?」
「はぁ!?何で!?」
「怖いのに無理に行く必要なんてないだろ。真聡もきっと怒んねぇよ」
そうだった。
確かに志郎は馬鹿でデリカシーが足りないし、ノリが軽くてたまにイジってくる。
でも他人のことはしっかり考えてる。人の悩みや欠点を笑うやつなんかじゃない。
むしろ笑うやつを頼んでもないのに勝手に文句言いに行くタイプ。
……言ったら笑われそうとか思ってた私が馬鹿みたい。
そう思いながら私は「もし怒ったら?」と聞き返してみる。
「あ〜……その時はお前の味方する。一緒に謝る」
「……ありがと……でも行く。ほら早く行くよ」
私なんか恥ずかしくなって止まってる志郎を追い越す。
でもすぐに「待てよ」と言われたので止まって振り返る。
「今度は何!?」
「いや……怖いんだろ?だったら無理すんなよ。俺のこと盾にしていいし、どっか掴んでてもいいからよ」
そう言った志郎はとてもかっこよく見えた。
……凄く不本意だけど。
でもやっぱり恐怖心には勝てないからその言葉に甘えることにした。
志郎を盾にしながら再び地下貯水路内を進む。
歩きながら志郎は色々雑談を振ってくる。
……凄く気を使われてる気がする。
それを無視するのは流石に申し訳ないので話に乗りながら進んでいると、今度は3方向の分かれ道が現れた。
「右と左と…正面……か。どうする?」
「……それより何か聞こえない?」
「……聞こえるな。どっちだ?」
何かの足音が遠くから聞こえる。それも沢山。
右から来てることに気づいたときにはもう遅かった。
その足音はこっち曲がってくる!
「嫌………ほんとに無理!!!!」
私は反射的に叫ぶ。
しかし、何も起きない。
でも足音は聞こえる。
混乱してると志郎が口を開いた。
「……鈴保……鼠の群れだったぞ」
「……え?」
「もう通り過ぎたぞ………それと流石にこの掴まれ方は辛いわ」
私は今の状況を確かめる。
私は志郎に斜め右後ろから抱きついている……
………は?何で?
私は驚きのあまり「流石に無理!」と叫びながら志郎を突き飛ばしてしまった。
志郎は「何でだぁ!?」と突き飛ばされながらも……コケない。
……知ってたけど体幹強い。
そして志郎は「いやいや……流石に酷くねぇか……?」と言いながら戻って来る。
流石に今のは私が悪いので謝る。
すると志郎はため息をつきながらも口を開く。
「まぁいいけどよ。でも突き飛ばすのだけはやめてくれ」
「………ごめん」
「で、どうする?どれに進む?」
そう言いながら志郎は右、正面、左と順番にヘルメットのライトで照らす。
私は少し考えてから答える。
「…正面」
「一応……理由聞いてもいいか?」
「左に行くと真聡達に合流するかもしれない。したら分かれた意味がない。あと変に曲がると迷ったときが困ると思う。だからとりあえず突き当たるまで一直線で行こう」
「うし、じゃあ行くか」
そう言って私達は再び歩き出す。
志郎はまた前を歩いてくれる。
今度何かあってもできるだけ掴まないようにしよう。
そう決意しながら奥へ進む。
それから分かれ道をできるだけ正面を選んで進む。
2回ほど分かれ道を過ぎたとき、また異音が聞こえて私達は足を止める。
「また鼠?」
「にしては音が大きくねぇか?それにさっきと比べると少ない気がするぞ」
私達は耳を澄ませる。
ここはさっきと違って分かれ道じゃない。
来るなら前か後ろの2つだけ。
どっちから来る…?
「後ろだ!鈴保!」
志郎が叫びながら私の手を引き前に出てくれる。
続いて志郎は「しゃがめ!!」と叫ぶ。
私は志郎が見たものが見えてないからとりあえずしゃがむ。
すると頭の上を何かが通り過ぎた。
……いや、飛んでるやつは足音しないよね?
私はその飛んでるものの正体を確認する。
そこには2匹の魚が浮いている。それに尾びれの付け根が紐のようなもので結ばれている。
「……魚座の概念体ってやつ?」
「それだけじゃないらしいぜ」
志郎の言葉で後ろを見る。
そこには巨大な蟹がいた。
「こっちは蟹座…?」
「どっちも黄道十二宮……だっけか?」
「そうね。………強敵かも」
前には魚座概念体、後には蟹座概念体。
流石に逃げれそうではない。真聡達に連絡してる暇もなさそう。
でも、堕ち星じゃないし志郎と2人でもいける。
「志郎……やるよ」
「おう」
私達は立ち上がってお互いの背中を守る形で概念体と向き合う。
私の正面には魚座。口をパクパクさせながら浮かんでる。
地下貯水路に入る前に喚んだギアは今もちゃんとお腹に巻かれてる。
私は時計盤の7時のところに手をかざして、プレートを生成してギアに入れる。
そして7時のところから左手を一周させて、左手を引いて右手を斜め上に突き出す。
「「星鎧生装!!」」
暗闇の地下貯水路を2つの星座の光が埋め尽くした。
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