第031話 強さの証明
俺達は警察の規制線を超えて、立ち入り禁止区域に入る。
そこは酷い状況だった。
人が逃げるときに置いていった物があちこちに散らばっていて、地面には爪の跡が刻まれていた。
そして、その先で鋭い爪と牙を持つ怪物。
堕ち星と成ってしまった
「来たぜ、勝二兄」
「来たカ…シロウ…!!」
俺の声で気がついたのか、それとも気配で気づいたのかはわからないが勝二兄が俺達の方を見る。
これが俺の初実戦。
しかも相手は自分の兄弟子。
緊張していないかと聞かれると嘘になる。
そんな俺の肩に
「無理なら下がっていいぞ」
「いや、武者振るいってやつだよ」
「そうか。2人とも、作戦忘れるなよ」
「おう」「うん」
俺達は腹の上に手をかざし、ギアを呼び出す。
俺は左手を肩の高さ、時計の4時に掲げて集中する。
身体の中の星力が左手に集まるのをイメージして、獅子座のプレートを手の中に生成する。
それを腰のギアに上から入れ、もう一度同じ位置に左手を掲げて時計回りに一周する。
そして、左手を上向きにして右の拳を突き出し、右手でギアのボタンを押す。
「「「星鎧生装!」」」
俺と真聡と
その言葉を発すると同時にギアの真ん中からそれぞれの星座が飛び出して、俺達は光りに包まれる。
光の中で俺の身体は紺色のアンダースーツのようなものに包まれ、その上から紺色とオレンジ色の鎧が装着される。
そして光は晴れる。
「シロウ…ヤハリお前ハイツモ俺ヲ追イ抜イテ行ク…!!!!」
そう叫びながら勝二兄が突っ込んで来る。
やっぱり前回と同じく、目で追えない速さだ。
それを真聡が飛び出し、迎え撃つ。
金属が打ち合う音があたりに響く。
そして澱みも湧いている。
俺は由衣と一緒に澱みを攻撃し始める。
澱みと戦いながら俺は真聡と由衣とした作戦会議兼特訓を思い出す。
☆☆☆
あれは先週の晴れた日。
俺の家の道場ではなく、廃墟の駐車場でした話だ。
『小獅子座の固有能力はあの速さと爪だろう。そしてそれが1番厄介だ。だからまず俺が、迎え撃つ』
『迎え撃つって…大丈夫なの?』
『俺が速度を上げて追いつく。その間にお前らは小獅子座の動きや星力の流れとかから動きを追えるようになれ』
『結構無茶なこと言うな!?』
『それぐらい出来てもらわないと困る。まぁ俺も氷の術で速度を落とせないかやってみておく。
で、お前達が適応でき次第、俺がお前たちに自分に使ってる術と同じものを使う。残念ながら制限時間はあるがな。
使ったら
『私の固有能力って本当に眠りなの?』
『眠りかはわからない。だがこの前の戦闘では羊に触れたとき、小獅子座の動きは一瞬だが鈍ってた。理屈はわからんが、堕ち星には何かしら効果があるんだろう』
『…わかった』
『最後、小獅子座の動きがある程度鈍ったら一気に決める。以上だ』
だいたい作戦はわかった。
だけど俺は1番大事なことをまだ聞いてなかった。
『質問していいか?』
『なんだ?』
『勝二兄はどうなるんだ?助かるのか?』
『絶対とは言えない。が、助けてみせる。小獅子座が動けなくなったら由衣が元の人間に戻せるはずだ』
『はずって…』
『由衣が牡羊座に選ばれてからまだ1回しか堕ち星と戦ってない。だから試行回数が少ない』
『…今はその1回の成功例を信じるしかないよな』
『悪いな』
『…ねぇ、今日は話だけして終わり?何かしないの?』
『するぞ。今のうちから小獅子座の速度に慣れるために、俺が小獅子座の速度でお前らに攻撃をする』
『『え』』
『ほら、早く星鎧を生成しろ。時間がないんだからな』
☆☆☆
湧き出た最後の澱みを倒す。
澱みと戦いながら、勝二兄の動きを見ていた。
澱みは倒しきったし、勝二兄の動きもだいぶわかってきた。
俺は真聡に加勢しようとする。
そのとき、真聡と勝二兄が距離を取って向かい合った。
真聡は杖を生成して、杖先からいくつかの光の弾を飛ばした。
勝二兄は対抗して爪から斬撃を飛ばす。
光の弾と斬撃はぶつかって小さな爆発が起こる。
何だよあれ。バトル漫画みたいだな…。
だが、勝二兄の動きは少しだが遅くなり始めていた。
その隙に俺は由衣と共に真聡に合流する。
「行けそうか?」
「あぁ」
「うん!」
「見たと思うが斬撃を飛ばせるようになってる。あれにも気をつけろ」
そう言うと真聡は早口で言葉を紡ぎ始める。
「我らの動き、人の目で追うこと叶わぬ速さなり。その速さ、風の如く」
そして両手で同時に俺達の背中を叩く。
力がみなぎる…と言うより身体が軽い。獅子座に選ばれたときとは違う感覚だ。
前にも慣れるためにかけてもらったが、やっぱり山羊座の力は凄いな…
改めて山羊座の能力に感心していると、真聡はとっくに戦闘を再開していた。
俺も急いで参戦する。
真聡や勝二兄ほどではないが、かなりの速さで動ける。
俺は真聡と同じように打撃と蹴りで攻める。
そしてその隙をついて、由衣が羊を勝二兄に突撃させている。
攻防の最中、勝二兄がいきなり距離を取った。
そして、俺にめがけて踏み込んでくる。
勝二兄はまだ素早かったが、あれはいつもの重い一撃を決めようと来るときの癖だった。
俺はそれを見逃さなかった。
俺は拳を避けて、反撃の一撃を決める。
吹き飛ぶ勝二兄。
何とか体制を立て直そうとするが、真聡と由衣が拳での追撃を加える。
勝二兄は地面を転がり、立ち上がる。
そして俺にまた恨みの言葉を投げかけてきた。
「ナゼお前ハ…イツモイツモ俺ヲ置イテイク!!!」
その叫びと共に、再び澱みが湧き出す。
俺達3人は澱みに囲まれたので集まる。
「どうすんのこれ!?キリがないよ!?」
「…そうだな。だが、もう一度同じ攻め方をするしかないだろう。確実にダメージは与えているはずだ」
確かにそうだと思う。
だが、このままだと埒があかない。
それに、また真聡に勝二兄を任せるのも癪だった。
だったら。
「俺が勝二兄と戦う」
「え、大丈夫!?」
「あぁ。ずっと一緒に親父の稽古受けてきたんだ。動きぐらいわかる。だから真聡、澱みの方任せる」
「…無理はするな」
「おう!」
返事を合図に俺達は飛び出す。
俺は勝二兄目掛けて一直線に突っ込む。
初撃は受けられた。
そして、そこから打ち合いが始まる。
拳を入れようとすると止められ、拳が飛んでくるので止める。蹴りも同じくだ。
俺が勝二兄の動きを見慣れている。
つまりそれは勝二兄も俺の動きを見慣れているということだ。
お互いに一撃も入らない打ち合いが続く。
先に動いたのは勝二兄だった。
また距離を取ってから、あの足癖で距離を詰めてくる。
あの足癖は勝二兄に相手してもらってるときに「俺みたいな悪い癖は付けるなよ」と言われてきた。
だから俺はとっくに見切ってる。
飛んでくる一撃を避け、反撃の一撃を入れる。
しかし、その一撃は止められた。
「誘ッタンダヨォ!!!」
腕を掴まれていて、俺はそのまま投げられる。
そして追撃の爪の斬撃が飛んでくる。
なんとか地面を転がって、斬撃を避ける。
俺は立ち上がって、勝二兄にこの前の戦いから考えてたことを聞く。
「なぁ。勝二兄にとって、空手ってなんだよ。この力ってなんだよ」
「俺ニトッテ空手ハ…強サノ証明ダ…コノ力モダ…俺ハオ前ヲ超エテ…俺ガ1番強イト証明スル!!!!」
「証明して何になるんだよ!勝二兄にとって空手が強さの証明するためのものなら、何で空手始めたんだよ!何で強くなろうと思ったんだよ!!」
「空手ヲ…始メタ理由……?アァ…?アアアアアア!!!!」
勝二兄は突然頭を抱えて叫びだす。
そして、俺めがけて突っ込んでくる。
だけど、勝二兄からは攻撃する意思は感じられなかった。
俺は両肩を掴んで勝二兄を止める。
声をかけながら揺すってみるが、叫び続けている。
俺に何ができる?どうしたら良いんだ?考えてもわからない。
こういうとき、自分の頭の悪さが嫌になる。
…だったら、俺らしく突き進むだけだ。俺はいつもそうしてきた。
「勝二兄!!!!目ぇ覚ませ!!!!」
俺は気合を入れ、思いっきり叫びながら右手で勝二兄をぶん殴る。
勝二兄は吹き飛び地面を転がっていく。
勢いが止まったとき、勝二兄は元の姿に戻っていた。
俺は走って駆け寄ろうとするが、澱みを全て倒したらしい真聡がやってきて俺を止めた。
「待て。まだだ」
「まだってなんだよ!?」
「今から元の人に戻せるかやってみる。まだ近づくな」
前に説明されたが、いまいちわかっていない。
だが、今は真聡を信じて見守るしかなかった。
真聡がしゃがんで左手に手をつくと、勝二兄は地面から生えてきた無数の草に縛られ、地面に固定される。
「おい!?何すんだよ!」
「黙って見てろ」
俺は生身の勝二兄を縛り付ける真聡が信じれなかった。
だけど、今言い争っても無駄なことぐらいはわかる。
次に真聡は由衣に「やってみてくれ」と言った。
由衣は頷いて、杖を両手で持ち言葉を紡ぎ始める。
「眠れ。眠れ。苦しみも、憎しみも、恨みも、その力さえも。いつかあなたの辛い出来事が、悪い夢だったと笑える日が来るそのときまで」
そして由衣は杖を掲げ、下ろす。
すると由衣の上で大きくなっていた羊のようなものが勝二兄の上に落ちる。
「いやいやいや!!!おいおいおいおい!!!!どうなってんだよ!?」
「俺にも詳しい原理はわからん。だか、これで勝二さんはもう堕ち星になれなくなるはずだ」
「はぁ…?」
理解ができないが「ほら行くぞ」と言われ俺は真聡と一緒に勝二兄の元へ行く。
先に由衣が勝二兄の近くにしゃがんでいた。そして何かを拾い上げ、真聡に渡す。
「それって…」
「小獅子座の力の結晶、プレートだ。どうやら上手くいったようだ」
「うん!これで勝二さんはもう大丈夫…だよね?」
「多分な」
「なんでそんな曖昧なんだよ…」
しかし、勝二兄の顔を見るとこの前見た時よりは顔色がマシになっていた。
こうして、俺の星座騎士としての初めての戦いが終わった。
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