第094話 増やしたくない

 突然目が覚めた。

 泥のように寝ていた。

 でも身体はいつものような感じがする。

 さっきまで飲まず食わず眠らずだったとは思えない。


 ……というか今何時?ここはどこ?

 少なくとも知らない天井、ベッドであることは間違いない。

 とりあえず、私は最後の記憶を思い出す。


 由衣に謝って……みんなといろんな話をしながらご飯を食べて…。

 あ、鮭のおにぎりが美味しかった。

 最近のコンビニおにぎりってコンビニとは思えないぐらい美味しい。


 じゃなくて、そのあとは………凄く眠くなってそのまま寝てしまった。

 ……つまりこれ、真聡のベッド!?


 とりあえず私は起き上がって、ベッドを囲うカーテンを開けてみる。

 すると、テーブルを挟んで向かい合って座ってる由衣と真聡がいた。


「あ、ひーちゃん!おはよ!……夜だけどね」

「……今何時?」

「19時前だ。身体の調子はどうだ?」

「結構寝てたんだ……もうだいぶ大丈夫……みんなは?」

「作戦会議が終わったから今日は帰った。佑希もな」

「じゃあ何で由衣は……」

「だって心配だもん!」


 由衣のその言葉に真聡は「やれやれ」という感じ。

 私は2人の幼馴染のやり取りを見て少し笑ってしまった。

 由衣は「何!?ねぇ〜!!」と言ってる。


 あの頃とは違うところはある。

 でも、やっぱりあの頃のメンバーが落ち着く。

 ……佑希は帰っちゃったけど。

 そんな事を考えながら靴を履いて、2人が向かい合って座ってるテーブルまで行く。


「ひーちゃん、何か飲む?……さっき買ってきたお茶とミルクティーしかないけど」

「お茶がいいかな」


 私がそう返事すると由衣は「ちょっと待っててね~!」と言いながら冷蔵庫に向かう。

 私も洗面台を借りて、顔を洗って口を漱ぎに行く。

 一応……寝起きだから。


 ソファーに戻ろうとすると、紙コップにお茶を入れてくれた由衣と同じタイミングだった。

 由衣に引き止められて、そのままキッチンスペースで会話が始まる。


「ねぇ、ひーちゃん。相談なんだけどさ」

「何?」

「もしまー君の部屋に簡単に作れる飲み物のやつ置いとくなら何がいいかな?」

「……ティーパックとかスティックってこと?」

「そう!前から思ってはいたんだけど、やっぱり何かすぐ飲めるものがないとここで話したりするとき不便じゃない?」


 由衣が言いたいことはだいたい分かった。

 ……でも真聡は何も買ってないの?

 そんな疑問を持ちながら、キッチンスペースを見回す。

 確かに何もない。

 キッチンもそこまで使ってる感じはない。


 そういえば、学校でのお昼ご飯も栄養食で済ましてた。

 確かにこれは心配になる。

 由衣が定期的に晩御飯を誘うって話にも今頃納得できた。


 「でさ、何がいいと思う?」と由衣がもう一度聞いてくる。

 私がその疑問に答えるよりも先に、真聡から文句が飛んできた。


「2人共、全部聞こえてるからな。いらないことをするな。というかお前たちは俺の部屋を何だと思ってるんだ」

「でもまー君もあったほうがいいでしょ?」

「いらん。早く戻って来い。レプリギアの調整や今後の予定を話さないといけないんだぞ。遊んでいたらお前らが帰る時間遅くなるんだぞ」


 真聡のその言葉に由衣は少し不貞腐れながら返事をしてソファーへ戻っていく。

 私もそれに続く。

 ……何か忘れてる気がする。

 その何かはすぐに思い出した。


「……家に連絡してない」

「ひーちゃんが寝てからだけど私がしといたよ?」

「…心配してなかった?」

「してはいた。だが「落ち着いて寝ている」と伝えたら「そのまま寝かせてあげてほしい」と言われた。……日和、最近寝てなかったのか」


 私は家族にも「由衣達との関係で悩んでる」なんて言ってなかった。

 でも何か悩んでるというのはバレてたみたい。

 やっぱり親に隠し事なんてできないみたい。


 ちなみに寝てないわけではない。

 ……家の中でも悩んでる時間は多かったかもしれないけど。

 でもそんなに悩んでたことが2人にバレたくないので、私は話題をそらす。


「寝てはいたよ。もう連絡してくれてたならそれでいいの。ありがと。で、レプリギアってそれのこと?」

「いや、これは智陽に貸す改造スタンガンだ。レプリギアはまだ出してない。由衣、取って来るから先に話し始めておいてくれ」


 なんか怖い単語が聞こえたけど、今は気にしないことにした。

 由衣は少し嬉しそうに、私が眠っている間に話していたことを話し始めた。


「任せて!まずはねぇ〜……」


☆☆☆


「これで大体全部かな?」

「多分な。こっちもできたぞ。日和、やってみてくれ」


 真聡にそう言われて私はソファーから立ち上がって、部屋の中の少し開けた場所に移動する。

 そして両手をお腹の上にかざす。そしてテーブルの上にあるレプリギアがお腹に巻かれるのを想像する。


 すると、深い紺色の光りに包まれると共に紺色のレプリギアがお腹に巻かれた。


「これでバッチリだね!」

「何でお前が嬉しそうなんだ」


 2人のそんな会話を聞きながら私はソファーに座り直す。

 そしてレプリギアを取り外して、真聡に預ける。

 すると由衣が心配そうな声で話しかけてきた。


「でも……ひーちゃん大丈夫?」

「何が?」

「だって初めての戦いが私達よりも強くてずっと倒せない相手だから…」

「……怖いよ。でもやるしかないでしょ。それに怖いのはみんな同じでしょ」

「それは……そうだけど……」

「それに真聡が一緒だから大丈夫でしょ。あと2人が明日1日使って私を鍛えてくれるんでしょ?

 ……それに私だって戦えるようになったなら逃げたくない」


 私の役目は真聡と一緒にこの前の入口から地下貯水路に入って、正面から戦うこと。

 最初は2人だけで戦わないといけない。

 言い方が悪いけど、私はしばらく囮。


 澱みや堕ち星は怖い。戦うのも怖い。

 でも、2人はずっと戦ってた。

 私が劣等感を感じて、距離を置こうと考えていた間も。


 でも、今は私も戦える力に選ばれた。

 だったらもう、逃げる理由なんてない。私だって戦う。

 それに……


「私みたいに怪物に追いかけられて怖い思いをする人を増やしたくないし」

「そっか……でも無理しないでね?」

「大丈夫、無理だと思ったらいつでも真聡に押し付けるから」

「言い方悪すぎるだろ……これで今日のうちにやることは終わった。そろそろ帰れ」


 真聡のその一言で私は自分のスマホを見る。

 20時過ぎ。

 ……流石に帰らないと家族が心配してそう。

 このままだと2日間家に帰ってないことになる。


「流石に今日はもう帰る」

「じゃあ、私も帰ろうかな〜……まー君、忘れてないよね?」

「何がだ」

「ひーちゃん起きる前に話したじゃん!ひーちゃん送っていくついでに私の家で晩ご飯一緒に食べるって!」


 その一言で真聡が固まる。

 由衣が真聡の正面に移動して「さっき誘ったら「…わかった」って言ったじゃん!」と言ってる。

 真聡の性格は少し変わった…変わったけど、やっぱりこの2人は仲が良い。


「わかった。わかったから先に出てろ。着替える」

「は〜い!ひーちゃん、出とこ!」


 そう言われて私と由衣は荷物をまとめて部屋の外に出た。

 流石にジャージは嫌らしい。


 そしてドアの外で真聡が出てくるのを待つ。


「……ひーちゃん」

「何?」

「初めて戦うのにこんなことお願いするのは酷いと思うんだけど……」

「そういうのいいから。何?」

「……まー君をお願い。1人でまた無茶するかもしれないから……」


 そういった由衣の目は凄く心配しそうな目だった。

 ……やっぱり真聡の方が。

 そんな事を一瞬だけ思った。


 でも、さっきの戦いで壁まで吹き飛ばされる真聡を私も見てる。

 私だって心配。

 確かに無茶をしそう。

 それに、真聡も私の大事な友達幼馴染だし。


 ……あと由衣ならきっと真聡に「私をお願い」って言ってそうだし。


「もちろん。任せて……とは言えないけど、無茶しそうなら引きずってでも逃げるようにする」

「ありがと」


 そうお礼を言った由衣の顔はニッコリと笑っていた。


☆☆☆


「本当に大丈夫なのか〜?」

「丸岡刑事いないからってやめてください。後で報告しますよ」

「なっ……」


 2日後、午前9時過ぎ。

 私と真聡は私が3日前にへび座の堕ち星に襲われた場所に来ていた。

 ちなみに川の水量はそこそこ。

 まだ増水の心配はない。


 あと末松って名前の刑事さんが真聡に変な絡み方してる。

 嫌われてるのか仲がいいのか……どっちなのこれ。


 一応、昨日1日で星鎧と武器は生成できるようになった。

 ……由衣が何か拗ねてたけど真聡が「気にするな」って言ってた。

 何があったの……?


 最低限戦えるようにはなったと思うけど、肝心の私の特殊能力はぶっつけ本番になった。

 まぁ、昨日も雨は降ってたから少しは発揮されてたと思うけど。


 下見組は無事に帰ってきた。

 つまり作戦が上手くいくかは私達しだい。

 ……頑張ろう。


「何があるかわからない。突入前から星鎧を生成して行くぞ」

「うん」


 真聡の言葉で私はレプリギアを喚び出す。

 そして私は時計盤の11時の位置に左手をかざして、プレートを生成してレプリギアに差し込む。

 そしてもう一度11時の位置に左手をかざして、時計回りに一周させる。

 最後に左手で山と谷を作るように下に下げてからまた上に戻す。

 そして右手でボタンを押して両手を下げる。


「「星鎧生装」」


 その言葉で私達は深い青色の光りに包まれる。

 その光の中で私は紺色のアンダースーツと紺色と青色の鎧を身体に纏う。


 そして光は晴れる。 


「では行ってきます」

「学生2人、その……お前たちに何かあったら俺が丸岡刑事に怒られるんだからな。……無事に帰ってこいよ」

「……善処はしますよ」

「ありがとうございます。行ってきます」


 末松刑事に別れを告げた私達は柵を越えて、川に飛び込んだ。

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