第093話 最接近までに

「悪いな鈴保」

「別に。由衣と智陽じゃ日和抱えれないでしょ。だからといって男連中だと本人嫌かもしれないし」


 日和と由衣の仲直りのあと、遅めの昼食を取った。

 食べたあと、日和は安心したのか寝てしまった。


 約1日飲まず食わず眠らずで地下貯水路を彷徨って堕ち星との戦闘に巻き込まれた。

 安全な場所で食事を取ったら眠くなって当たり前だろう。


 流石にソファーに寝かしておくわけにもいかないので、俺のベッドを貸すことにした。

 日和の両親にも一応連絡入れたし大丈夫だろう。

 ……何かあっても家は近いし。


 あとベッドを簡易的にカーテンで囲っててよかったと今日ほど思った日はない。

 さっきは更衣室として活用されたしな。

 ……まぁ女性陣が着替えるその間だけ俺達男性陣は外まで追い出されたが。


 鈴保が戻ってきて座ってテーブルに広げられているお菓子に手を伸ばす。

 代わりに口の中に入っていたものを飲み込んだらしい由衣が口を開いた。

 ……というか何でお菓子パーティーが作戦会議と並行して開催されているんだよ。


「でも大丈夫なの?私達の声で起きない?」

「それは問題ない。遮光と防音の術を合わせて結界を張ってる。光は問題ないし、音は大声を出し続けない限り大丈夫だ」

「なんで私の方を見るの!?」

「俺を見るなよ鈴保……」


 つい由衣を見てしまったのがバレた。

 だが、由衣は驚いたりするといきなり声が大きくなる。

 ……釘を差したくもなるだろ。

 そしてどうやら鈴保も志郎に対して同じ事を考えたらしいく、志郎と言い合いをしている。

 2組の言い合いを佑希が止めた。


「はいはい。遊んでる場合じゃないだろ。で、智陽。何があったんだ?」

「何があった……と言ってもあの場所に澱みが湧いた。そこに射守 聖也と満琉が来て全部倒した。そして私はそれについて行った。それだけ」

「何であいつについて行ったんだ?」

「由衣と真聡ならわかると思うんだけど、射守は地下とか閉所とかでは戦わせないほうが良いと思ったの。

 だからわざとあそこから離した。行くなんて言わせないためにね。まぁ実際、他の場所にも澱み湧いてたし」

「星鎧がないから…か。何でギア使わないだろうな?」

「満琉に聞いてみたけど理由はわからない。満琉にすらあんまり自分のこと話さないらしいから」

「ほんと何だあいつ」


 志郎が射守に悪態をついてる。

 本当に苦手なんだな……。

 そんな感想抱いていると、智陽がまた口を開いた。


「話戻すけど、私はみんながまた地下貯水路に行くなら射守と満琉について行くつもり」

「地上に湧いた澱みを倒すのと射守を地下貯水路から離すってことだな」

「そういう事。ただ結構量多いから、そこだけが懸念点。今日も追いかけられて疲れた」


 佑希の確認に肯定したあとに智陽の口から出た言葉。俺はその言葉を無視できなかった。

 射守 聖也は弱い訳では無い。むしろ状況によっては俺より強いだろう。


 しかし、あいつの戦い方だと近づかれたら危険であることは間違いない。

 ……何人か澱み退治に派遣するか?

 そう思い俺は質問する。


「……誰か智陽についていくか」

「……それ、地下貯水路に行く人数減らすってことでしょ」

「まぁ……そうなるな」

「それは絶対に」

「駄目!!」「やめろ!」「「やめて」」


 まさかの佑希を除く全員からの反対を受けた。

 …………そんなに揃って言わなくてもいいだろ。

 というか大声を出すな。日和が寝ているんだぞ。

 しかし、ツッコむ前に話は進んでいる。


「でもちーちゃんも心配だなぁ……」

「まぁ頑張って逃げるから」


 人数を増やせないならできることがあるのなら……智陽にも自衛ができるくらいの力を持たせることだ。

 しかしそんな都合の良いものが……



 ある。

 がしかしあれは……まぁ聞くだけ聞いてみるか。


「智陽。自衛できるくらいの道具ならあるが……使うか」

「え、そんなのあるの」

「あるにはある……が……」


 そう言いながら俺は席を立ち、棚から黒いケースを取って戻ってくる。


「ただ……これだ」

「これって……」

「あのときのスタンガン!?なんで持ってるの!?」

「由衣」

「あっ……えへ」


 驚いて声が大きくなった由衣が佑希にツッコまれている。いやそれはどうでも……よくはない。


 このスタンガンは以前、智陽が誘拐されて俺達のギアやレプリギアを奪おうと襲ってきた連中が使っていたもの。

 レヴィさんに解析を頼んだが「俺が使わなくても他のやつに必要なことがある」的なことを言われて、3つのうち1つだけ手元に残っていた。

 ……まさかレヴィさんはこれがわかってて……いやそれはないな。


 智陽に視線を戻すと、まだ考えていた。

 ……まぁ、自分を誘拐した奴らが使ってた道具なんて使いたくはないよな。

 そう思い俺は口を開く。


「無理に使わなくていいぞ」

「…………いや、使う。貸して」

「大丈夫?無理してない?」

「大丈夫。それに私だって逃げ回るの疲れたし。……でも私でも使えるの?」

「そこは何とかする。……だが、澱みを一撃で消滅とかは無理だぞ。恐らく落ち着いて逃げれる隙を作るぐらいだ。あと人間には向けるな」


 そう言うと智陽は少し鬱陶しそうに返事をした。

 ……ごく普通の注意しただけなんだが。

 そして智陽は話題を逸らすかのように口を開いた。


「で、そっちは何があったの。ほとんど何も聞いてないんだけど」

「……俺達の間でも情報共有しないとな」


☆☆☆


「つまり、一応今は地下貯水路の水は引いてるらしい。

 でもまだ奥にはへび座とからす座の堕ち星がいて、まだ何かやろうとしている。 

 そして、へび座はみずへび座とうみへび座とエリダヌス座をからす座はしぶんぎ座の力を使ってきた。

 あとそれと別に蟹座と魚座の概念体もいて、その2体は倒して回収してきた。ということ?」

「纏めるとそうなる」

「……情報量多いね」

「だな……わからなくなってきたぞ……」


 智陽が俺達の話を確認を兼ねて纏めてくれた。

 それを聞いた由衣と志郎の頭からはてなマークが浮かんでるのが見える気がした。


「……そもそもって何?」

「それは俺も気になってた……じゃね?」


 2人は疑問を口にするが微妙に間違っている。

 訂正と説明をしようと口を開く前に、智陽が口を開いた。


ね。エリダヌスは川の名前でプトレマイオスの48星座の1つ。神話としては太陽神の子供が暴走した馬車と共に落ちた川のこと」

「怖!」「こっわ!」

「そんなことないでしょ」

「…鈴保はこういうの平気なのか」

「何か言った?」

「い、いや、何でもない」


 志郎と鈴保は何の話をしているんだ?

 そんな疑問を抱いたが、鈴保の圧から「聞かないほうがいい話」と察した俺は聞かなかったことにした。

 鈴保は逃げるように話題を変える。


「私はそれよりしぶんぎ座の方が気になるんだけど」

「いやマジで。流星群ってなんだよホントに」

「それもあるけど、しぶんぎ座って88星座には存在しないでしょ」

「え、そうなの!?……でもテレビとかでもしぶんぎ座流星群って聞くよ?」

「しぶんぎ座は星座が今の88個になったときに採用されなかった。

 だが、流星群が来る地点が隣の牛飼い座とりゅう座の間でちょうどしぶんぎ座の地点だった。

 だから流星群の名前として星座名が残ってる……だろ?」


 そう言い切った佑希は俺の方を見ている。

 なんで俺を見るんだ。簡単な説明としては十分だと思うが。

 そんな俺たち2人の無言のやり取りなど気にせず、由衣と志郎は佑希の説明に感動している。

 そして鈴保が次の疑問を口にする。


「88星座として残ってないのに何でプレートがあって、力が使えるわけ?」

「それは……知らん。ただ、この状況から考えると科学館でからす座に盗まれたのはレチクル座としぶんぎ座だったのかもな」


 何故88星座以外の消えた星座のプレートが存在するのか。

 俺だって知りたい。

 そして、1番何かを知ってそうな焔さんはまたいない。未だにスマホを持ってないし。

 …………次に帰ってきたときに聞くか。

 考えてもわからないことを今考えても仕方ない。


 どうやら科学館からからす座が持ち去った2つのプレートはレチクル座としぶんぎ座だったらしい。

 つまらあの戦いのとき、からす座はプレートが体外に出てなかった。あれでも余裕だったわけか。

 ……それならばどうやったらからす座、そしてへび座は倒せるんだ?


 色々と考えていると、由衣が根本的な問題について聞いてきた。


「でもさ、またエリダヌスの力使われたら私達流されるよね……」

「というか水が増えてるときに使われたら川が増水しない?」


 鈴保の指摘に会話に参加してる全員が固まる。

 そう。今、星雲市には台風が近づいている。最悪直撃コースだ。

 一応、家に帰ってきている途中に丸岡刑事から水が引いたとの連絡があった。

 しかし、気にはなる。

 ……だがまぁ、することは決まってる。


「台風が最接近するまでにへび座を倒して、エリダヌス座の力を使わせない。それだけだろ」

「だから力を使われたらって話…そうか、お前は一応平気なのか」

「あぁ、俺はあの姿になれば泳げる。あと日和も平気のはずだ」

「え。ひーちゃんも連れてくの…?」

「戦えるになったからにはな。それに一説によると神話で山羊座と魚座が飛び込んだのがエリダスヌ川とも言われてる。……相性がいいんだ」

「そう言われると……でも……」

「まぁ、そこは本人の意志だ。今回、一緒に行くかどうかは起きてから聞く」

「…そうだよね…………私達は普通に入る?」

「いや、不意を突いた方がいいんじゃないか?」

「それなら別の入口から入った方が良いよね」


 佑希と鈴保の言葉で再び部屋は静まり返る。

 というかこいつら本当に来る気かよ……


 しかし、蛇の概念体2体と堕ち星2体の計4体を相手するのは無茶すぎるのはさっきのでわかってる。

 ……ここで揉めたくもないし、時間ももったいない。

 俺はそこに関してはツッコまないことにした。

 そのとき、さっきから静かにスマホを見ていた智陽が口を開いた。


「河川事務所の職員通路は使えないの?」


 その一言に部屋にいる全員が驚きの声を上げた。

 俺だってその発想はなかった。

 ……いやだが普通はそうだよな。整備や点検などで職員が使う通路があるはずだよな。

 何故思いつかなかったんだ……


「でも……使えるの?台風近づいてる今、入らせてくださいって言って…怒られない?」

「……無理やり入るか?」

「見つかって怒られて私達が警察に補導されて終わりよ」

「じゃあどうすんだよ〜…」

「……超常事件捜査班に頼んで入れてもらえればいいだろ」


 俺のその一言に会話に参加してる全員がそれぞれ「その手があったか」と言う。

 ……誰も思いついてなかったのか。


「じゃあ善は急げ……だよな!」

「だね!行こ!」

「……いや、しばらく時間を空けたい。というか俺の体力と星力が回復していない」

「あ……そうだよね…………じゃあ…明日?」


 由衣はそう言うが俺は出来るだけ時間を空けたい。

 確かに時間を空ければ向こうにも回復されるだろう。

 だが、それを引いても俺は万全で行きたい。

 星力が万全に回復していれば魔術やリードギアなどの手数が増える。


 俺は日付を決めるために台風の最接近の日を聞く。

 すると智陽がすぐにスマホで出してくれた。

 ……いや自分で調べろって話なのはわかってるが。


「……明後日の夜中以降」

「……なら突入は明後日にする」

「明日じゃないの!?」

「日和に最低限戦えるようにないといけないからな」

「…一応聞くけどさ、台風が去ってからは?」

「台風で川の水が増えてるときに、エリダヌスの力を使われて住宅街が浸水したら困る。……やつの目的が何さはわからんが」

「じゃあ、突入は明後日。なら……俺達は明日下見にするか」

「あぁ。捜査班には俺から連絡入れておく」

「……私もまー君と一緒にひーちゃんの方について行ってもいい?やっぱりひーちゃん心配だから」

「……好きに……いや、お前にも頼みたいことがある。着いてきてくれ」

「やった〜!って何?」

「明日の話よりもさ。まだ1つ、話し合ってないことあるよな?」

「え、なんかあった?」



「あの真ん中に刺さってた船の後ろみたいなやつってなんだ?」

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