第092話 大事な友達
私、水崎 日和は魚座に選ばれた。
でもその衝撃を呑み込む間もなく、事態は進んでいく。
……確かにいつまでも住宅街に緊急車両が止まってるわけにもいかないし。
先輩達と大捕先生は一応病院に搬送された。
私もそのはずだったけど断った。
でも私も特殊な力を手に入れた今、由衣達と別行動になりたくなかった。
ちゃんと話を聞きたいと思った。
だけど私は約1日地下放水路を彷徨って、怪物との戦いに巻き込まれた。
警察や救急隊の人は念の為全員、病院の検査を受けて欲しいらしい。
すると真聡が「私に何かあった場合、もしくは他の人に異常が見つかった場合はすぐに私を病院に連れて行く」という条件で私の検査を免除してくれた。
……いつの間にそんなに警察と対等になってるの?
しかし、問題はそれだけではなかった。
どうやら華山 智陽って子がいないらしい。
体育祭で少しだけ話した気がする。あと夏祭りでも会った。
由衣と同じクラスだっけ。
警察の人によると「実は真聡達が地下貯水路に入っていったあと、澱みに襲われた。そこを助けてくれた弓使いの男と一緒にどこかへ行った」とのこと。
……何を話してるかわからない。
それを聞いて真聡達は複雑そうな顔をしてた。
由衣だけは何やら元気そうだったけど。
とりあえず、私達は今後についてと私についてを話すために、真聡の家に移動することにした。
自己紹介をしながら。
あと学校に置いてきた鞄も回収した。
☆☆☆
「智陽から連絡は?」
「ない…スマホは使えるようになったんだけど…連絡来てない。というか何でスマホ使えなかったの?」
「恐らく澱みのせいだろう。異常な量だったからな。現代機器に不具合を起こすんだろう」
真聡の家はビルの1フロアだった。
由衣に話は聞いていたけど実際に来るのは初めて。
これは確かに驚く。
私達6人はとりあえず汚れた服を、私は高校のジャージから制服に、他の5人は制服からジャージに着替えた。
そしてそれぞれ座って一息ついたところ。
次に口を開いたのは由衣だった。
「あの……言いにくいんだけど……」
「何だ」
「お腹が空きました……」
由衣のその一言で部屋の空気が緩む。
「確かに腹減ったなぁ…ってもう3時過ぎてるもんなぁ…」
「でも先に智陽を探さないと。射守と一緒のはずだから無事だと思うけど」
「なら先に飯食おうぜ。腹が減っては……だろ?」
「「戦はできぬ」ね。しかも戦じゃないし。人探しだから」
何故か平原君と砂山さんが言い合いを始めた。
それを止めたのは佑希だった。
「まぁまぁ、とりあえずコンビニ行こう。俺、今日購買行くつもりだったから、何も持ってないんだよ」
「私お弁当あるけど…」
「俺も」
「私も」
「でも体育会系2人はこの時間で持ってきた分だと足りないんじゃないか?」
「あぁ〜〜…まぁ確かにな…」
「私は別に足りるけど…」
「じゃあ私は…」
「昨日からずっと、地下貯水路にいた日和は食べるもの持ってないだろ。それにたぶんこの部屋の主はこのままだと何も食べずに作戦会議に入ると思うぞ〜」
「コンビニ着いていきます!」
「というわけで、3人連れてとりあえずコンビニ行ってくるからあと頼むな〜」
「え、まー君来ないの!?」
「俺はこれでも星力切れでふらふらだ。勝手に行け」
「じゃあ何食べたいものあったらメッセージしてね〜〜!!」
扉が閉まる。
部屋は嵐が去ったかのように静かになった。
というか砂山さん何か文句言いながら連れて行かれなかった?由衣も手首掴まれて半分強引だったし…
私はその疑問を素直に真聡にぶつける。
「何か……強制的じゃなかった?」
「多分、佑希は気を遣ったんだよ」
「……誰に」
「……薄々わかってるだろ。お前にだよ、日和。
……お前は俺達を避けてただろ。それなのに魚座に選ばれた。それに全員いる中だと話しづらいだろ。……特に由衣の前では」
真聡は座ってた場所からテーブルを挟んで反対側、私の正面に移動して座り直した。
一応隠してるつもりだったんだけど、結構見抜かれてた。
やっぱり真聡は鋭い。
……話すべきなのはわかってる。でも急に話せと言われても心が追いつかない。
私、自分のこと話すの苦手だし。
そう考えてると先に真聡が口を開いた。
「……無理に戦えとは言わない。戦いたくないなら戦わなくて良い。他の奴らには俺から話しておく。その左手の甲は隠すことが」
「違う」
真聡が話し終わる前に否定してしまった。
でも本当にそうじゃない。
私は確かに怪物とは関わりたくなかったのは、皆と距離を置こうと思ったのは怪物が怖いからじゃない。
いや怖いのは確かだけど。
真聡は驚いて言葉が止まった。そのまま私の方を見たまま次の言葉を待ってる。
………話そう。覚悟はできた。
「……私は自分のことが話すのが苦手。でも、頑張って話すから聞いて欲しい」
「…あぁ」
「……私が皆を避けてたのは私だけが戦えないから。真聡や由衣だけならまだ一緒にいようと思ってた。
でも、他の人が増えて。特別な力を持つ人が増えてきて、私がいない方がいい気がしてきた。由衣も元に戻ったからすぐに誰とでも友達になれるし」
「……でもあいつは」
「わかってる。6月のあの日、真聡がああ言ってくれたから、まだ友達でいていいんだって思った。由衣に振り回されはしたけど、夏祭りは楽しかったし。
……でも、佑希が戻ってきて。佑希まで特別な力を持ってて。だから本当にもう私の居場所はないって思ったの。だってあの頃の5人のうち、3人も怪物と戦える。
……選ばれてない私は完全に戦いの邪魔になる。
そう思ったから私はみんなと、由衣と距離を置こうとした。
でも地下貯水路に迷い込んで、どうしようもないと思ったときに由衣が……皆が来てくれて凄く嬉しかった。私はまだ友達なんだって。
そして魚座に選ばれたって言われて、私も皆と同じように特別な力が手に入って……とても嬉しかった。
これで皆と一緒にいれる。皆と一緒に戦えるって。
間違ってるのはわかってる。怪物と戦うための力をみんなと一緒にいるための理由にするのはおかしいって。
でも私は……嬉しかった」
思ってることはだいぶ話せた。
でも、きっと最後に言ったことには真聡は怒ると思う。
しかし、真聡から出た言葉は少し予想外だった。
「友達と一緒にいたい。それ自体は間違いではないだろ。「自分が唯一無二の友達でいるために、力を使って周りの人間を消す」とかな言うなら俺はお前を止めなければならない。
でも日和はただ一緒にいるための理由が、自信が欲しい。だから一緒に戦い……だろ」
「そう。というかそんな怖いことしないし…」
「なら俺は止めない。というか、怪物は怖くないのか」
「……怖いよ。でも私がみんなと距離を置いてたのは怪物が怖いからじゃない。私がみんなの邪魔になりたくなかったから。
でも、私は選ばれた。だったら私も戦う。
選ばれたのに私だけ戦わないなんて嫌だし」
「そうか。……別に由衣のことが嫌いになったとか、嫌になったとかじゃないんだな」
「……うん」
「それなら良かった。もしお前に嫌われてたら由衣はたぶん大泣きするからな」
「真聡がいるから別に大丈夫でしょ」私は思ったけど言えなかった。
でも「口は災いの元」とも言うし、どうせ言ったところで否定されるだろうから言わないことにした。
ただ、このまま会話が終わるのはどうかと思った私は話題をそらすのも兼ねて思ったことを言う。
何度か言ったことだけど。
「やっぱり真聡は変わってないね」
「だからどういう意味だ」
「わかってないなら良いよ」
前と同じ返し。
やっぱり無自覚らしい。
本人がどう思ってるか知らないけど、私は変わってないも思う。
自分のことは後回しで、誰かのことを先に気にするところ。
そんな事を考えていると、扉が勢いよく開いた。
「たっだいま〜!!」という元気な由衣に続いて4人が入ってきた。
「早かったな」
「まぁコンビニすぐそこだし」
「というかまー君!!何でメッセージしてくれないの!?」
「俺だって暇じゃないんだ……というか智陽」
「ごめん。連絡入れなくて。でも心配かけたくなかったから」
「外に出たらちょうど帰ってきてたんだ。そこら辺はまず食べてからにしよう。な?」
「だな!腹減ったわ〜」
「志郎は買ったチキンを食べながら帰ってきてたでしょ」
また一気に賑やかになった。
由衣は真聡に話を流されて文句言ってるし。
智陽……華山さんも帰ってきた。
これで本当に全員揃ったのかな。
それにしてもさっきから佑希に気を遣わせてばっかり。少し申し訳ない。
色々と考えているとみんなは既にテーブルに買ってきたものや自分のお弁当を並べ始めてる。
……流石にこの人数は少し狭い。
由衣は私の隣に座って、袋に入ってるものを説明しながら出してる。
……でも、先に謝らなくちゃ。
これからは、一緒に戦うんだから。
「……食べる前に私、由衣に謝らないと」
「え、何?何の話?」
「……私…由衣を…3人を避けてた。私だ戦えないから、戦う3人の邪魔になりたくなくて。だからいっそのこと、距離を置こうと思ってた。友達をやめる覚悟だった。
……でも、やっぱり寂しかった。私にとっても、あの頃の5人は大事なものだった。
さっき、由衣が私のことを心配して助けに来てくれたのがとても嬉しかった。
だから……由衣が許してくれるなら……って泣いてる!?何で!?」
「だって……大事な大事な友達が悩んでるのに……私全然気付けなかったって思うと……なんか涙が……
ごめんね、ひーちゃん……私「ずっっっと友達でいようよ」って言ったのにね……」
「……覚えてるの?」
「忘れるわけないじゃん!だってひーちゃんは私の2番目の友達なんだから!
あ、でも2番目って順番だから、順位じゃないからね!?だからまー君もひーちゃんもゆー君も……」
私はあのとき由衣が友だちになってくれたから今があるかもしれないと思ってる。
でも由衣はもう忘れてると思ってた。
「言われた側は忘れないけど、言った方は忘れてる」って聞くぐらいだし。
でも、由衣は覚えててくれてた。
私はそれだけで嬉しかった。
それに由衣は大事な友達に順位をつけるタイプじゃない。
ただ純粋に自分がやりたいと思うことをやるタイプ。
……ずっといっしょにいてわかってたはずなのに、何で忘れてたんだろ。
何で真聡に取られた気がしてたんだろ。
全然そんな事ないのに。
「まぁ、つまり由衣は少なくともここにいる全員は大事な友達なんだな」
「当たり前じゃん!」
「お前なぁ…」
「…何」
「まぁまぁ、俺だってここにいる全員大事な友達で仲間だぜ〜」
「志郎は聞かれてないから」
「ってあれ?ひーちゃん……泣いてる?」
その言葉で私は頰を触る。
……確かに涙が流れてる。
嬉しいからか、安心したからか。理由はわからないけど。
「ひーちゃん、これからは何でも言ってね?」
「……でも、迷惑でしょ」
「そんな事ないよ!!だって大事な友達なんだから!だから今回みたいに1人で悩まないで?」
その言葉は嬉しい。
でも、もし私が凄く面倒な要求をしたらどうするつもりなんだろう。
……私はそんな事言わないってわかって言ってるのかな。
いや、由衣はそこまで考えてないよね。
だから少しだけ意地悪な返しをすることにした。
「……でも由衣、勝手にどっか行くじゃん」
「それは……それはぁ……それは!!」
私と真聡以外が笑い出す。
それに対して由衣が「笑わないでよ!!」と返す。
でも、笑いは止まらない。
そこに予想外な一言が飛んできた
「いや、俺も思う。何でもかんでも首突っ込むのやめろ」
「まー君まで!!」
真聡が便乗して責めるとは思わなかったので、私も思わず笑ってしまった。
でもようやく心の中の黒いものが、胸のつかえが取れた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます