第139話 新しい友達

 事件の翌日の夜。

 俺は庇ってくれた男子生徒の部屋に部屋を移動することとなった。


「ようこそ。僕の部屋へ。これからよろしく」


 男子生徒はそう言いながら荷物を運び終えた俺に手を差し出した。



 だが、俺は昨日の一件でここの学校にいる全員を疑いの目で見るようになってしまった。

 助けてくれたとはいえ、その疑いは拭い切れなかった。


 俺は差し出された手は取らずに、疑問を投げる。


「……何で教師陣から庇ってくれたんだ。お前達と俺は生きる世界が違うんだろ」

「あぁ~…あいつの言葉、気にするよな……別に僕はそんなこと思ってないんだけど…」

「俺がずっと虐められているのを知っていたのに助けなかっただろ」


 男子生徒は気まずそうな声を上げながら、差し出した手を戻した。


 しばらくしてから、ようやく口を開いた。


「それは…うん。本当にごめん。助けたいとは思っていたんだ。

 だからまず……話を聞いて欲しい。君は魔術師やこの学校…この学年のこと、何も知らないだろ?」


 それはそうだ。

 誰も俺と会話してくれなかったから俺は何も知らない。


 この学校で情報を得られるのは貴重だろう。

 なら、聞くだけ無駄じゃないだろう。


「…じゃあ聞かせてくれ。なんで俺はこんな目に合わないといけないんだ」

「それは…この学校…魔師社会の悪いところなんだ。

 魔師社会では「魔法師や魔術師の中でも、優秀な人が出世するべき。そうじゃない人は優秀な人の踏み台にでもなればいい」という考えがある。

 酷い人だと「この世界は優秀な魔法師や魔術師が支配するべき」「使えないものは死に絶えればいい」と考えている人もいる。

 もちろん、そうじゃない人だっている。

 ただ……俺達の学年はあいつ、昨日君と喧嘩した相手。氷上ひがみ 純一じゅんいちがかなりのやつでさ。そして氷上家は優秀な氷魔術の家系で本人も学年トップの実力で、誰も彼に逆らえない。だから学年全体の空気が最悪なんだ。

 そこに君が転校してきた。魔術師とは無縁の生活をしていた君はのやつらには嫌われる対象となったんだ」


 つまり、俺は最悪の学年に入ることになったという訳か。

 そもそも魔師社会とやらにがあるようだが。


 だったら、何故魔術師や魔法師は一般人に隠れてるんだ?

 そう思った俺は疑問を口にする。


「……何で魔術や魔法は秘密にされてるんだ。使えない奴なんて敵でもないだろ」

「…そっか。歴史も習ってないから知らないよな。

 それは今まで何回も神秘の力を得ようとしたり、恐れた人達たち、一般社会と魔師社会の争いがあったから。近代だと魔女狩りがあっただろ。

 そしてもし、現代で魔師社会と一般社会の間で全面戦争が起きたら、確実に人類……地球は滅亡すると言われている。

 だから協会…世界神秘等保護管理協会は「不必要に一般人の前で魔法や魔術などの使用を禁止する」という国際法を作った。

 すべては、この惑星ほしをこれ以上破壊しないために」


 スケールが大きすぎる。


 それが最初に抱いた感想だった。

 だが、驚いてる場合じゃない。

 俺は次の疑問を口にする。


「……魔師社会の事情はわかった。じゃあ何で君は僕の味方をするんだ」

「それは…僕も同じ目にあったから。

 僕の家も優秀な家系なんだけどさ。僕は一族に使える心に関する魔法が使えないんだ。だから、ずっと家での扱いが酷かったんだ。

 だからこそ、同じようにひどい扱いを受ける君を助けたかったんだ。

 あと、家族の中でただ1人僕に優しくしてくれた叔父さんが言ってたんだ。「力があるからこそ誰かを守るべき」って。だから僕は、君を助けたかった」


 …確かに昨日のあのとき、教師陣の間に入ってくれなければ俺はまた怒られていたと思う。

 それをにしてくれたのも、部屋を交換してもらえたのもこいつの家が優秀な家系だったからか……。


 ここで、俺はようやく目の前の男子生徒の名前を知らないことに気が付いた。

 彼を信用しようする気になった俺はようやく名前を聞く。


「……ありがとう。名前、聞いていい?」

「……あれ?言ってなかったっけ?

 まぁいっか。僕は心斎しんさい 稀平きっぺい、改めてこれからよろしく」


 そう言って彼はもう一度手を差し出してきた。


 俺は「陰星いんせい 真聡まさと。よろしく」と言いながら、今度こそ手を取った。


「…結局、魔術についてどこまで知ってるんだ?」


 稀平が手を離してからそう聞いてきた。


「…正直まったく。一応魔力操作?は教えてもらったけれど、正直まったくわかってない。

 何で昨日は火が出せたのに、今日の実技じゃ出せなかったんだ?」

「……どんな人に教わったんだ?

 まぁそこはいいか。えっと、魔術を使うのには訓練とイメージ、それと感情が関係してるんだ。

 訓練してた時間が長くて、強いイメージがあって、強い想いがある程、出力が上がるんだ」

「つまり…昨日は怒ってたから何とか使えたってことか?」

「そういうこと。

 ……魔術の特訓を始めてどれくらいなんだ?」

「……1か月ぐらい」

「1か月!?魔術の智識なしで!?」


 俺の言葉を聞いた稀平が驚いた声でそう言った。

 その反応に驚いた俺は恐る恐る聞いてみる。


「もしかして…凄い?」

「凄いよ!普通は初等部入学から練習を始めて1年生から3年生までにできればいいのを、いくら中等部1年とはいえ智識なしで1か月で火魔術を使うのは!

 何でかはわからないけど、真聡は才能あるよ!」


 稀平が興奮気味にそう言った。

 よくわからない俺は「そうなんだ…」としか言えなかった。


「とりあえず、基礎知識とか一般教養は俺が教えるから。えっと確かこっちに初等部の教科書が……あ!真聡は座ってて待っててよ!」


 稀平は部屋にある自分の荷物をひっくり返し始めた。

 とりあえず、俺は自分のベッドに腰を掛ける。



 こうして、1か月経ってようやく新しい友達ができた。

 そして俺の新しい生活がここから始まった。

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