第146話 命令だ
「何で…お前がここにいる……稀平」
市役所近くの広場に現れた澱みを倒した直後、中等部時代の友人の
でも、おかしい。
だって、稀平は俺が殺したんだから。
そんな稀平は俺の口から零れた言葉に返事をする。
「同士であり友達の
「……違うだろ。なんで生きてるかを聞いてるんだよ!!答えろよ!!」
「…生きてたことに喜んでくれないんだ」
「……喜べるかよ。
……お前からは今も澱みの気配がする。1
俺がそう返すと稀平は左手で頭をかいた。
そして俺の言葉を聞いた由衣が「天秤座の堕ち星!?というか誰!?」と聞いてくる。
俺はそれを「黙ってろ」と返す。
そのやり取りを見た稀平が口を開いた。
「というか、仲間作ったんだ」
「……望んで作ったわけじゃねぇよ」
「それでも、僕は殺したくせに」
「お前は力に溺れ、人々を害そうとした。
こいつは…違う」
「そう。会いに来たのはもう1回真聡の気持ちを聞きに来たからなんだけど……その調子では、無理そうだね」
「あぁ。1
「残念だよ」
そう言いながら、稀平の姿は黒い靄に包まれて異形のモノへと変わる。
1年前と同じ金属のような身体で肩が天秤の皿ようなものが付いている天秤座の堕ち星の姿に。
「ほ、ほんとに堕ち星!?」
「お前は下がってろ!」
由衣の驚く声に俺はそう返す。
稀平は俺よりも歴が長く、土魔術に関しては俺よりも優れている。
そして星座は黄道十二宮星座。
それに加えてこの1年、ずっと澱みに塗れた堕ち星でいたならば。
その強さは想像できない。
俺だって
それでも。
由衣を守りながら戦える自信がなかった。
「でも堕ち星だよ!?私がいないと」
「いいから下がってろ!
これは…命令だ。絶対、戦闘に参加するな。俺があいつの動きを止めるまでは絶対に出てくるな」
俺は由衣の言葉に被せて命令を出す。
由衣はしょぼくれたように「わかった」とだけ言って下がって行った。
「…なに喧嘩してるの」
「喧嘩ではない。……お前を倒すのは俺の役目だ」
「そう」
その言葉と同時に岩が飛んでくる。
1年前よりも岩のサイズが大きい。
これを正面から砕くのは骨が折れる。
俺は突破するために言葉を紡ぐ。
「我が動き、人の目で追うこと能わず。その速さ、風の如く」
身体能力強化魔術に定義魔術を組み込んだ魔術で身体能力を上げる。
上げた身体能力から生まれる加速力で岩が飛んでくる前に、その下を通り抜けて間合いに入る。
「火よ、弾けよ!」
簡易詠唱で拳に火を纏わせて天秤座に叩き込む。
天秤座は衝撃で後ろに吹き飛ぶが、両足で着地した。
「やっぱり、強くなってるね」
「…喋るな」
この天秤座が本当に稀平なのか、偽物なのかはわからない。
でもそれは、牡羊座の力で元に戻せばわかること。
だからこそ。今、絶対に天秤座を倒さないといけない。
この命に変えても。
「でも、僕だって何もしてなかったわけじゃないから」
そう言って、天秤座が距離を詰めてきた。
そして、土を纏った拳が飛んでくる。
俺はその拳を逸らす。
逸らせはできた。
だが逸らしたのに手に響いた。
……避けた方が良い奴だなこれ。
「まだまだ!」
そう言って、天秤座からの怒涛の勢いで拳が飛んでくる。
俺はそれを避けながら拳を返す。
火を纏った拳と土を纏った拳の打ち合い。
打っては避け。
避けては打って。
そして受けられ。
そんな打ち合いの中。
俺の一発の拳が少しだけいい感じに入った。
天秤座は少し体勢を崩す。
俺はその隙に、首にめがけて炎を纏わせた右足で蹴りを叩き込む。
しかし、受けられた。
右足が右手で握られて下ろせない。
「いい一撃…だけどさ!」
その瞬間、足元の地面が盛り上がるのを感じる。
そして俺の身体は上空へ打ちあげられる。
吹き飛ばされながらも俺は天秤座の様子を確認する。
既に岩が生成されていて、俺を狙っている。
このままだとマズい。
そう思った俺は空中で杖を生成して、無詠唱の魔弾を放つ。
天秤座は魔弾に岩をぶつけに来た。
神秘の力がぶつかり、衝撃波と煙が発生した。
俺はその隙に地面に着地する。
同時に杖先を地面に付けて、短く言葉を紡ぐ。
「草木よ。澱みに塗れ、堕ちた星の座と成りし天秤の座を縛り給え!」
唱え終わると同時に煙が晴れた。
天秤座は四肢を蔓に縛られている。
俺は蔓を引き千切られる前に、杖を消滅させて言葉を紡ぎながら距離を詰める。
「電流よ。我が身に宿れ。そして澱みに塗れ、堕ちた星の座と成りし天秤の座に天の裁きを与え給え!」
バチバチと音が響く電流を纏う拳を天秤座に向けて振るう。
天秤座の身体は金属質に見える。
火よりも電流の方が通るかもしれない。
拳は天秤座に顔らしき部分に当たった。
しかし。
「躊躇なく顔を狙うね」
俺の拳ほどサイズの薄い岩の鎧が顔に生成されていた。
ギリギリのところで受けられたようだ。
こんな芸当ありかよ。
だが、これで終わりじゃない。
俺だって考えながら戦ってる。
「電流よ。迸れ!」
短く紡いだ言葉によって星力がさらに電流を発生させる。
その電流は周囲に広がる。
そして俺のすぐ近くにいて、拳が目前で止まっている天秤座を襲う。
電流が天秤座の動きを鈍らせ、岩の鎧が消滅した。
俺は一度拳を引いて、全力で天秤座を殴り飛ばす。
天秤座は吹き飛んで地面を転がる。
だが、まだ終わってない。
天秤座は立ち上がり、言葉を発した。
「電流魔術、使えるようになったんだ」
「あぁ。あの時のままだと誰も救えないからな」
「その力を友達を殺すために使うんだ」
「……今のお前は、友なんかじゃない。
倒すべき敵だ」
俺がそう吐き捨てると、天秤座は「そう」とだけ言って何かを放った。
無色透明な衝撃波。
恐らく精神攻撃の波。
当たってはいけない。
そして避けるだけではキリがない。
だったら、戦い方を変えるしかない。
俺はそう思って、星鎧の胸部を一瞬だけ消滅させる。
制服のブレザー内ポケットからわし座のプレートを取り出して、星鎧を元に戻す。
そしてリードギアに挿し込んでリードギアを起動する。
俺は背中に生えた星力の翼で空へとはばたく。
衝撃波は無事に避けれた。
「飛べるのか…」
そんな天秤座の呟きが聞こえる。
破壊力のある火と電流が受けられた。
いや、少しは通った。
だが1回見せた方法は通らないだろう。
今は街中だ。
あんな魔術を使ったら周囲の建物にまで被害が出る。
そもそもあれは、学院の地脈から魔力を借りれたからできた技だ。
この街の地脈は学院の地脈ほど活発じゃない。魔力が足りない。
だったら、手間はかかるがあの技を使うしかない。
今は冬だから幾分かマシだろう。
俺がそう考えている間に、天秤座は再び岩を展開している。
凍らせる前に温度を下げなければいけない。
つまり水がいる。
だが不幸なことに、今日はわし座しか手元にない。
エリダヌス座も持ち歩くべきだったか。
心の中で悔やみながら、俺は飛んでくる岩を避ける。
そして再び杖を生成して言葉を紡ぐ。
「水よ。生命の源たる水よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、澱みに塗れ、堕ちた星の座と成りし天秤の座を押し流し給え」
岩を避けながら、俺は天秤座に向けて水を放つ。
そして辺りの魔力を吸収するのと同時に熱も吸収するのをイメージする。
天秤座は避けながらも岩を飛ばしてくる。
天秤座に避けられた水は辺りを濡らす。
地味な戦い方だ。
だが、勝たないと意味がない。
そろそろ氷魔術に切り替えるか。
そう思ったとき。
天秤座が大跳躍した。
上を取られた。
どうやら土魔術で足元を盛り上げるのと同時に飛んだらしい。
上から岩が落ちてくる。
それを避ける。
流石に当たらない。
そう思った瞬間。
「油断したね」
その声と同時に俺の身体は地面に叩き落とされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます