第121話 何でまた
翌日。連休初日の朝10時前。
私は街中を歩いている。
その理由は、とかげ座の堕ち星についての作戦会議のために真聡から呼び出されたから。
家族旅行は流石に中止となった。
堕ち星が私の家族を狙ってる以上、星座騎士全員がいるこの街にいた方が不測の事態に対応できる。
って真聡が両親を説得してくれたらしい。
一方、私は結局まだ両親とちゃんと話せていない。
ただ朝ご飯は一緒に食べた。
食べ終わる時に「私は辞めないから。私が自分で戦うって決めてから」とは言った。
両親からは何も言われなかった。
絶対言い返されると思ってたから少し気持ち悪い。
でもまた喧嘩をしたくはなかったから、着替えや貴重品を持ってそのまま出てきてしまった。
もちろん、それだけでは駄目ってのは分かってる。
でも結局、なんて言ったらいいかわからなくて逃げてしまった。
真聡が家として使ってるビルに着いた。
少し早いけど、私は慣れてきた階段を上る。
そして、5階の扉を叩く。
数秒後に扉が開く。
扉を開けてくれたのはもちろん真聡だった。
彼は私の顔を見て「早いな」と呟く。
私は中に入りながら「だって居づらいし」と返す。
座ろうとソファーに目を向けると、既に智陽が座ってスマホを見ている。
挨拶を交わしながら私も座る。
…何でもういるの?
というかテーブルの上に置かれているタブレットとゲーム機は何?
そんな疑問を抱いた。
でも聞く気分ではなかったのでそっと胸にしまった。
その代わりに正面に座った真聡が私に質問をしてきた。
「ご両親とは話せたか」
いきなり嫌なこと聞いてきた。
ちゃんと話さず、一方的に言ってきただけ。
だから私は「うん。まぁ」と濁した返事をする。
「それ、ちゃんとは話してないだろ」
「…うるさい」
「…どうするかは鈴保の自由だが、後悔だけはするなよ」
本当におせっかい。
自分のことは何1つ話さないくせに、人にはわかってるような口を利く。
何よりも、間違ったことではない所がイライラする。
そして間違ってはないから言い返しづらい。
なので私は「わかってるわよ」とだけ返す。
駄目なのは私だってわかってる。
でも何と言えばいいのかわからない。
そう思っていると扉が叩く音が聞こえた。
それに続いて「まー君~!!来たよ~!!」と元気な声が聞こえてきた。
真聡は立ち上がって、扉を開けにいく。
入ってきたのは由衣、日和、志郎の3人だった。
「一気に来たな」
「しろ君とは途中で会ったの!ね~!」
由衣のその言葉に志郎は同意の返事をする。
全員が座ったところで、真聡が口を開いた。
「さて、じゃあ情報共有するぞ」
「佑希は…来ないんだっけか?」
「そうなの~。何か3連休中いないんだって~」
「そういや10月の連休もそうだったよね」
「そうそう!…わざわざ帰るの大変じゃないのかな?」
志郎と智陽の言葉に由衣が返事をする。
そこから昨日も話に出た佑希の双子の妹、佐希って子の話が始まった。
…何回か話に出てるけど、どんな子なんだろ。
そう考えていると、日和が口を開いた。
「…佑希と佐希、確かお兄さんもいたよね」
「そう!いたよね!?確か…
「うん。…佑希、全然和希さんの話しないよね」
「確かに…なんでだろうね?」
由衣と日和の思い出話がさらに盛り上がろうとしたとき、真聡が止めに入った。
「俺達しかわからない話はやめろ。話を戻すぞ」
正直助かった。
全く分からない話。それも思い出話をされると、どうしたらいいのかわからない。
真聡はそのまま情報共有を始める。
「堕ち星に成った人間の名前は
「もう名前とかわかってるのか!…何でわかったんだ?」
「昨日、逃げられる直前に俺がとかげ座が吹き飛ばしたんだ。そこに社員証が落ちていた。落としたんだろう」
「…そんなことある?」
「知らん。実際に落ちていて、今も本人の居場所がわかっていないとなるとそういう考えにもなるだろ」
昨日いなかった、志郎と日和が順番に質問して真聡が答える。
私も気になることがあるから聞いてみる。
「…動機は?」
「まだそこまでは分からん。
というか、それこそ鈴保がとかげ座との戦闘時間が長かっただろ。何か言ってなかったのか」
真聡のその言葉で私は昨日の戦闘を思い出す。
確か…。
「私を鈴保って名前から苗字が砂山かどうか確認した後に襲ってきた。あと、幸せが憎いから壊すとかも言ってた」
「そうなると…恨みか?
…まぁこっちは超常事件捜査班の仕事だ。俺達はとかげ座の対策を立てて、次に出たときに倒すだけだ」
「…そうね」
私がそう呟いた後、志郎が恐る恐る私に聞いてきた。
「なぁ…鈴保の父親って誰かの恨みを買うような人なのか…?」
「知らないわよ。…ただ、暇さえあれば職場で家族の話はしてそうだけど」
「まさか…それを聞いて?」
日和のその一言で全員が首を捻り、沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのは智陽だった。
「動機は今考えても仕方ないでしょ。それよりもっと重要な問題があるでしょ」
「え…何?」
「堕ち星。へび座もからす座も倒した。それなのに何でまた現れたの?」
「そうじゃん!普通に作戦会議してたけど…何で?
というか澱みの量も凄かったよね!?」
そう言い切った由衣は真聡の方を向く。
それに続くように私を含めた全員が、真聡の言葉を待つ。
真聡は何とも言えない顔をしながら口を開く。
「あのな、俺だってすべてがわかってるわけじゃない。
むしろ俺が聞きたいぐらいだ。あの山影 俊彰はどうやって堕ち星に成ったのか」
「…澱みは?」
「前にも言ったが、澱みの発生原因は人の負の感情と言われている。それなら、人間がいる限り無限に湧いてもおかしくないだろ」
質問した由衣は「そっか…」と呟いて口を閉じる。
その代わりに今度は日和が口を開いた。
「何で人は堕ち星に成るの?私達だって星座の力使ってるけど成らないよね?」
「…明確な違いはわからない。ただ、何かしら澱みが関係しているのは間違いないと俺は考えている。堕ち星によって澱みが出現することもあるからな」
「じゃあ…私達も堕ち星に成る可能性がある…ってこと?」
由衣のその一言で、再び沈黙が訪れる。
真聡は俯き、表情が見えない。
でも真聡にしか答えられないから全員で真聡の言葉を待つ。
数十秒後、真聡はようやく口を開いた。
「さぁな。それは俺にだってわからん。
ただ……全員、成ってはくれるなよ」
そう言ってソファーから立ち上がる。
「話は終わりだ。俺は今から見回りに出るからここの鍵を閉める。
だからお前らも出ろ。用事があるやつとかいるだろ」
「いや、ないけど」
「俺もないぞ。というか、せっかく来たから流星群の特訓してもらいたいんだけど…」
真聡の言葉に私と志郎が答える。
また少しの間が空いた後、真聡は言葉を投げてくる。
「…何でもいいから早く出ろ。鍵を閉める」
「いや、私ここにいるつもりだけど。街中走り回りたくないし、家帰っても誰もいないし」
今度は智陽がそう答えた。
テーブルの上に置いてあるタブレットやゲーム機、真聡のじゃないとは思ってた。
やっぱりこれ、智陽が持ってきたんだ。
…初めから居座る気だったんだ。
「…勝手にしろ。鍵は置いていく。最後のやつはしっかり閉めて、メッセージで誰が持ってるか連絡しろ」
真聡は吐き捨てるようにそう言って鍵をテーブルの上に置いた。
そしてスマホと上着だけを持って出て行ってしまった。
扉が閉まり、また沈黙が訪れる。
しばらくしてから由衣が口を開いた。
「あれ…怒ってる?」
「さぁ。真聡、最近また様子が変だからわからない」
「だよね?まー君…何でまたあんな感じに……」
また現れた堕ち星だけでも大問題。
それなのに、私達にはもう1つ問題がある。
そう感じた作戦会議だった。
…というか、ちゃんとした作戦は話してないよね?
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