第120話 電話
晩御飯は私が由衣と智陽の言い合いを止めてる間に藍斗が持ってきてくれた。
…我ながら私の弟、いい子過ぎる。
姉である私がこの感じなのに。
そのあと、真聡が戻ってきて私の家に結界を張ってくれた。
その時に謝るべきだったのは分かってる。
でも私は、何て謝ったらいいのかわからなかった。
結局、私が覚悟が決まる前に真聡は帰っていった。
流石に21時前だから由衣と智陽も一緒に。
そして今は22時半過ぎ。
両親のことも真聡のことも、今日はとりあえず寝て明日考えようと思った。
両親と口を利かないのは中学生の頃から何回もあった。
だからか、無理に話を聞こうとはしてこなかった。
なんか変な感じがするけど、そのお陰で私は落ち着いて寝れる。
だけど寝ようと思っても眠れない。
頭の中で真聡に謝れなかったことがグルグルと回る。
…いや私、あいつのことそこまで大事だとは思ってないんだけど!?
でも、あの6人といる時間は好き。
澱みや堕ち星と戦うのは大変。
戦いなんて早く終わればいいと思ってる。
でも、あの6人との繋がりは無くしたくない。
私は気が付くとスマホを手に持ち、メッセージアプリの真聡との個人トーク画面を開いていた。
友達登録は一応してある。
でも、メッセージではほとんど会話したことない。
私もあいつも、そういう性格じゃないから。
だからなんて送ればいいかわからない。
そのとき、右上の通話ボタンが目に入る。
…いっそのこと電話してしまおうか。
そんな考えが頭をよぎる。
でも、また喧嘩してしまったらどうしよう。
最近の真聡は変。
その違和感にイライラして、また嚙みついてしまったらどうしよう。
というか、それ以前に色々隠してるよね。
気になることはいろいろある。
1番気になるのは、堕ち星や澱みが全くテレビでもSNSでも話題にならないこと。
怪物がこんなに出てるなら普通は騒ぎになる。
なのに全く出ない。
真聡は「怪物の情報は消される」的なことを最初の説明で言ってたけど…おかしいでしょ。
高校生にそんなことができるわけないでしょ。
いや、今はそこじゃない。
…色々考えてしまったせいで余計に目が覚めた。
悩んでても仕方ないので私は起き上がってベッドに座る。
そして勢いで、通話ボタンを押してしまった。
ワンコール。
こんな時間に迷惑かな。
ツーコール。
出るなら早く出て欲しい。
スリーコール。
…やっぱりやめとこうかな。
そのとき、繋がってしまった。
『なんだ、こんな時間に』
私は驚いてスマホを落としそうになる。
出ないかと思って始めてたから余計に驚いた。
『…大丈夫か』
落としそうになった音が入ったのか真聡がそう聞いてくる。
私は少し恥ずかしくて「何もない。なんか聞こえた?」と返す。
真聡は『そうか』と言ってそれ以上は聞いてこなかった。
『で、何の用だ』
私はその言葉につい「怒ってる?」と返してしまった。
『…じゃあお前は俺が常に怒っていると思ってるのか』
「それは思ってないけど……怒ってないの?」
『そう言ってるだろ』
「そう。よかった」
言われてみればいつも通りかもしれない。
でも今の私は「あの言葉を彼に投げつけてしまった」という後悔から、いつもよりも敏感になっていたんだと思う。
でも、怒ってないならよかった。
…だけど何て謝ろう。
勢いで電話をしてしまった。
だから結局、謝る言葉は何も考えてなかった。
『用がないなら切るぞ』
何も言わない私に痺れを切らしたのか、真聡がそう言ってきた。
いや、でもそれは駄目。
ここで逃げたら私はこのまま謝る機会を失う。
そんな気がした。
…悩んでても仕方ない。
素直に謝ろう。
私はそう決意して、口を開く。
「待って。用があるから電話したに決まってるじゃん」
『じゃあさっさと言え。それとも言いにくいことなのか?』
「その……謝りたくて」
『…謝る?』
真聡のその言葉に私はヒヤッとして、言葉に詰まってしまった。
…やっぱり怒ってる?
だけど、次にスマホから聞こえてきた真聡の言葉は予想外の言葉だった。
『…何をだ?』
私の口から「え?」と少し間抜けな声が出た。
でも真聡はそれを気にせず言葉を続ける。
『…お前の家族喧嘩に巻き込まれたことか?』
「いや違うけど…」
『じゃあ何だ』
「いや…さっき「親がいない真聡には私の気持ちはわからないでしょ」って言ったことを……ちょっと、いやかなり言い過ぎたと思って…。
私の感情だけで、言ってはいけないことを言っちゃったと思って…
怒ったり傷ついたりしてないかと思って……だから…その…ごめん」
まずは謝れた。
だけど、真聡からの言葉はない。
少し怖くなってきた。
数秒経って、スマホから真聡の声が聞こえてくる。
『別に。俺がそう言われても仕方ないことを先に言ったからな。鈴保にはそれぐらい言う権利がある。
…それに、事実だしな』
「じゃあ…許してくれるの?」
『だから怒ってないと言ってるだろ。怒ってないことに許すも何もないだろ』
「そ…っか。……ありがと」
真聡も優しい。
態度も目つきも口も悪くて、誤解しやすいけど。
でも真聡も他のみんな…それ以上に誰かのことを想って動いてるのかもしれない。
真聡なりの方法で。
色んなことを我慢して。
何故かそんな気がした。
そんな彼に、私は何ができるだろう。
そう悩んでいると彼が言葉を発した。
『用が済んだなら切るぞ』
「待ってよ。まだ終わってない」
『だったら早く言え』
ここまで話した。
1番言いにくいことはもう言った。
そう思って、私はもう1つの私の決意を口にする。
「…私は、辞めないから。
確かに最初は逃げたよ。あのときは戦うのが怖かったから。
でもあの日。颯馬が堕ち星に成って、梨奈が怪我した日。私は思ったの。
戦う力がある私が逃げてどうするのって。私が戦って大事な人を、誰かを守れるなら私は戦うって。
だから、私はもう逃げない。最後まで、星座騎士として戦うから」
決意は言葉にできた。
だけど、スマホから言葉を聞こえてこない。
私は少し恥ずかしくなって「ちょっと、なんか言ってよ」と言う。
するとようやく、真聡の言葉が聞こえてきた。
「…ちゃんと両親にお前の考えを伝えろよ」
「…わかってるわよ」
「それと、無茶はするなよ」
私はその言葉に「どの口が」と言い返しそうになる。
でもそれをぐっと堪える。
せっかくすっきりしたのにまた喧嘩になったら意味がない。
…それに、きっとこれは私1人では解決できないと思ったし。
私は喧嘩になるのを避けるために返事をしてから話題を逸らす。
「で、結局あの堕ち星は誰だったの」
『明日か明後日にいるメンバー集め……鈴保はお前の家族に説明した時に隣にいただろ』
そう言われればあのリビングでそんな話もしてた気がする。
でも、あのときは感情がぐちゃぐちゃで誰が何言ってたかほとんど覚えてない。
覚えているのは…確か「私の父親が狙われている」的なことを言ってた。
私も異常に狙われてたし。
だからやっぱり、聞いておきたいと思った。電話してるわけだし。
「…覚えてない。もう1回教えてよ」
『今からか?…全員揃ったときでいいだろ』
確かにそれはそう。
聞きたいけど、もう夜も遅いし。
私の家にも結界を張ってくれたらしいし、多分安全。
今までから考えると、堕ち星って1回戦った後は数日は出てこないし。
それに、聞かせてって言っても多分真聡は今は言ってくれない気がした。
そう思った私は「わかった」とだけ返事をする。
『もう用はないか。切るぞ』
「うん。…ありがと」
『…何かあったらすぐに連絡しろよ』
「わかってるわよ。おやすみ」
『あぁ。しっかり寝ろよ』
そして通話終了ボタンを押す。
真聡に謝って、星座騎士として戦い続けることは伝えた。
あとは…両親に伝えるだけ。
…こっちの方が大変で面倒。
ちゃんと話さないといけないことは分かってる。
でも今はとりあえず寝よう。
そう思って私はもう一度ベッドに潜り込む。
今度は5分ほどで、私の意識は暗闇に落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます