第012話 学生だから

「ふ〜ん。だいたい事情はわかった。真聡も大変だったのね」


 連休の間の平日。

 この中途半端な日にも学校はある。

 俺は幼馴染の由衣ゆい日和ひよりを屋上に呼び出して、一緒に昼休みを過ごしていた。


 呼び出した理由は中学校入学時に姿を消した理由をはじめ澱みや堕ち星、星座騎士について。

 そして、遠足の日に何があったかを話すためだった。


「とりあえず、由衣が無事で良かった」

「それは同感だ」

「誰のせいであんな事になったと思ってるの?」


 俺は目をそらす。

 それは自己保身に走って、最初から全て話さなかった俺のせいだ。


 反省はしてはいる。

 日和は目をそらした俺を見てため息を付いた後、由衣に話しかける。


「ところで、由衣。真聡まさとに謝ってもらったの?」

「謝る…?何を?」

「……入学早々にこいつに泣かされたの忘れたの?」

「その話はもういいよ〜…。それに今こうやって3人仲良くお昼休みが過ごせてるんだから、私はそれで満足!」

「…由衣がそれでいいならいいけど。で、真聡。私には?」


 由衣に呆れたのかこっちに話が帰ってきた。

 何か凄く嫌な予感がする。


「…何がだ」

「私もあのとき一緒にいて同じこと言われてるんだけど。由衣ほどじゃないけど、私も傷ついたんですけど」

「…悪かったよ」

「本当に悪いと思ってる?」

「…思ってる」

「…奢りね?」


 嫌な予感は当たった。日和は普段は物静かだが、怒らせると怖い。

 こいつも昔から変わっていない。


 そして、ここで俺が日和の要求を拒否すると更に怒らせるのは目に見えている。

 …俺が悪いのは自覚しているから今回は仕方ない。


「…わかった。わかりました。奢らせて頂きます」

「よし、言質取ったから。取り消しは無しね?由衣〜?真聡が今度、お茶会しようだって〜。もちろん真聡の奢りで」

「え、何?3人でお茶会?やった〜!!まー君ありがと!」


 …やられた。これは思っていたよりダメージが入りそうだ。財布に。

 俺は思わず天を仰ぐ。


 精神まで少しダメージが入っている俺に由衣が話しかけてきた。


「ところでさ…疑問なんだけど…」

「なんだ」

「お昼。それで足りるの?」


 彼女は俺が持ってるゼリー飲料を指さしている。

 確かに2人の昼食である弁当と比べると俺のは簡素なものだった。


 しかし、俺には作ってくれる親はいない。

 だからと言って自分で作るぐらいなら魔術などの調整に時間を当てたい。


 それに、用意したとしてもきちんと食べれるかわからない。


 あと持ち運ぶならこっちの方が便利だ。

 そのため俺は由衣の言葉に「ほっとけ」と返すしかなかった。


☆☆☆


 放課後。

 俺達は担任の田村先生に呼び出され、空き教室にいた。


 俺は窓際にもたれていて、由衣は椅子に座ってる。

 ホームルーム終了から約10分ほど経って、ようやく先生は来た。


「で、なんですか。タムセン」

陰星いんせいまでそう呼ぶのか…。」


 生徒の殆どがタムセンと呼んでいるが、どうやらこのあだ名は好きじゃないらしい。

 「注意しても呼ばれるから諦めたらしいって噂」と由衣は言っていた。

 タムセンはため息をついた後、本題に入る。


「お前達。勝手な行動はしないでくれ。しかも、危険なときに」


 遠足から帰る直前に澱みに襲われた時の話か。つまりは説教か。

 めんどくさい。

 由衣は謝っている。

 「お前は少しは反省してくれ」と思いながら俺は自分の考えを口にする。


「俺は、自分の行動が間違っていたとは思っていませんよ」

「あのなぁ、陰星。学校生活なんだから集団行動を守ってくれ。それにお前はまだ学生なんだ。だから」

「だからなんですか。戦うなって言うんですか?じゃあ、誰が怪物と戦うんですか?誰かが戦わないと大勢がが犠牲になるんですよ。それでもあんたはに集団行動を守れって言うんですか?」


 空き教室に沈黙が訪れる。

 どいつもこいつも学生だからって。


 じゃあ、俺が戦うのをやめたら他に戦う人がいるのか?

 人の命なんて簡単に潰せるような怪人と。


 いないだろう。

 他人のために命かけて戦うやつなんて今の時代そういないだろう。 


 人間は自分が可愛い生き物なんだから。

 そんな時代に俺は戦うための力を与えられた。

 だったら選ばれた以上、戦うと俺は決めた。



 俺は人の手に余る力を人から切り離す。



 空き教室が静かになって1分ほどしたとき、校内に悲鳴が響く。


 どうやらまた何か出たようだ。

 その声を聞き、俺は教室から出ようとする。


 しかし、タムセンが俺を引き止める。


 「おい、陰星!」

 「なんですか。行くなっていうんですか。誰かが怪人を止めないと生徒から死者が出ますよ。それでもいいんですか?」


 タムセンから言葉は返ってこない。


 ここにいても何も変わらない。

 俺は教室の扉を開け走り出した。

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