第021話 発熱
翌日昼休み。
俺は久々に屋上で静かな時間を過ごしていた。
日差しはこの季節にしては少し暑いかもしれないが、これこれで悪くない。
しかし、その時間も突然開く扉によって終わりを迎える。
「ねぇ、真聡?あのメッセージは本当なの?」
「たぶんな。だが昨日は夜まで一緒だったが普通だったぞ」
現れたのは幼馴染の1人の
今日は珍しく感情がわかりやすい。
とても驚いているのがわかる。
「あのメッセージ」とは今朝、
その内容は「ちょっと熱があるから今日は学校休む…」というものだ。
ごく普通のものだが「年中元気の体調不良知らず」の由衣が発熱で休むと言ったら…まぁ驚きもする。
実際俺も少し目を疑ったが、本当に欠席しているから嘘ではないのだろう。
「で、今日放課後どうするの?」
「どうするとは」
「まさか、ほっておくつもり?」
「俺が悪いみたいな言い方するのやめてくれないか?
…確かにあいつ、無理していたようだが俺はしっかりと無理はするなとは言ってたぞ。」
「…それもそうね。で、どうするの?」
「授業の配布物を渡す必要があるから様子は見に行くつもりだが。お前はどうする」
「じゃあ、ついていこうかな。やっぱり気になるし」
「そうか」
沈黙が訪れる。
由衣がいないとこんなもんだ。
俺は持ってきた昼ご飯用の栄養バーをかじる。
久々の静かな昼休み。
ここ数日は忙しかったから休息に丁度いい。
しかし、何故か視線を感じる。
そう思い、日和の方を見ると食べる手を止めて何故かこちらを向いている。
視線が合うと彼女は意味ありげな言葉を言った。
「
「どういう意味だ」
「自覚ないならいいや」
そう言って彼女はまた自分の弁当に目線を戻して、続きを食べ始めた。
…本当にどういう意味だ。
☆☆☆
放課後。
俺は
メッセージで「鍵開けておくね!」と来ていたので、ドアを引く。
やはり、鍵は開いていたようで玄関は開いた。
一応「お邪魔します」と2人とも言いながら靴を脱ぎ、中に入る。
すると2階から降りてくる足音が聞こえた。
「待ってたよ〜!いらっしゃい!」
「…思ったより元気そうだな」
「ね。心配して損した」
「2人とも酷くない!?」
由衣は少し不満げに言う。
確かに寝巻きではあるが、結構元気そうに見えるのだから仕方ないだろう。
「で、今何度あるの。」
「さっき測ったら〜…37.2℃だったかな?」
「まだ少しあるじゃねぇか。寝てろ」
「いや、私もう元気だよ!?」
「今週テスト週間なんだから、さっさと休んでさっさと元気になる。ほら部屋まで行くから」
「2人とも冷たい〜!!」
日和は文句を言う由衣を無視して、その背中を押し2階にある部屋に行く。
そういえば既に何回かお邪魔させてはもらってるが、由衣の部屋に入るのは小学生以来だ。
そんなことを考えながら2人の後ろをついて行く。
2人に少し遅れて由衣の部屋に入る。
すると由衣は日和によってベッドの上に座らされていた。
「で、風邪ひいたの?」
「う~ん…多分頑張りすぎた…んだと思う…お母さんもそう言ってたし…」
「だろうな」
「でも今日午前中寝てたから、今はもう元気だよ!」
やっぱり無理させないようにもっと休ませるべきだったな。
元気そうに見えたからとはいえ由衣の体力を過信しすぎた。
俺は少し反省しながら、鞄を下ろす。
そして、中から今日配られたプリントを取り出す。
「これ今日配られた分な。ノートは後で写真を送っておく」
「ありがと〜!!」
「で、こっちがご注文の品物。…まさかとは思うけど、由衣3つも食べるの?」
日和が手に持ってたビニール袋を机に置き、中身を出す。
その中身はコンビニのプリン。
さっきここに来る前に由衣の頼みで買ってきた。
「いやいやまさか!せっかくお見舞いに来てもらったんだからお礼にと思ってさ。これシンプルだけど美味しいんだよねぇ〜。
特に誰かさんは食べたことないんじゃない?」
そう言いながら俺の方を見る由衣。
俺はその視線を無視する。
それにだいたい予想通りの考えだ。
まぁ、確かに俺は食べたことはないが。
由衣は少し呆れている俺を気にせず喋り続ける。
「あ、もちろんお金は私が払うから!え〜っと財布は…」
「そんなことだろうと思った。ほら、病人は寝てる。お金なら真聡と半分にしたから気にしなくていいから」
由衣はベッドから立ち上がろうとするが、日和に阻止される。
彼女は不満そうにしているが、慣れたやり取りなのでこちらも俺は気にしない。
「じゃあ俺達は帰るぞ」
「もう帰るの!?」
「お見舞いに来たんだから渡すもの渡したから帰るよ」
「そんな〜…。せっかく3人で食べようと思って3つお願いしたのに…」
「やっぱりか。まだ少し熱あるんだから寝てろ」
「ねぇ、お願い!夜まで家族は誰も帰ってこないから…ちょっと寂しくて…」
「退屈の間違いじゃないの?」
「そんなことないもん。」
「お前、俺達がいると寝ないだろ」
「そ、そんなことないもん。」
「明日学校に来たら会えるんだから、ほら寝る」
そう言って日和は無理やり由衣を寝かせようとする。
しかし、抵抗する由衣。
頼むから寝てくれ…。
「でも2人帰っちゃうなら玄関閉めないと」
「…それもそうね」
それもそうだ。
俺たちは寝かしつけるのを諦め、部屋を出ようとする。
しかし引き止められる。
「ちょっと!プリン持って帰ってね!」
完全に忘れてた。
俺達はプリンを鞄に入れ、今度こそ部屋を出る。
そして階段を降りて玄関に向かう。
「しっかり寝るんだよ」
「わかったってばぁ…」
「じゃあな」
「うん!2人ともありがと!」
その言葉を背に受けながら俺達は白上家を後にする。
そして、日和とも別れ俺は家路についた。
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