第069話 幻覚
翌日。こぎつね座の堕ち星が現れたという情報が入り、俺はその場所へ全力で走って向かっている。
現場は駅近くの広場だった。そしてまたもや男子中学生が襲われている。
こぎつね座と共に窃盗をしていたメンバーだろうか。
しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。
俺は走って間に割り込む。
そしてこぎつね座の目の前で左手を地面につき、言葉を紡ぐ。
「土よ。壁となれ!」
目の前に土の壁が現れ、こぎつね座の爪が弾かれる。
俺は襲われていた生徒を連れて来た道を戻る。
しかし、やはり堕ち星は人間より身体能力が高い。すぐに追いつかれる。
後ろから地面を踏み切る音がした。
恐らく飛びかかってくる。どう避ける。
その時「目を閉じろ!」との叫び声が聞こえた。
俺は目を閉じるのと同時に男子生徒の目を手で覆う。
その数秒後。目を閉じていても眩しく感じるほどの光。
その光が収まってから目を開けると少し離れたところに佑希と由衣が来ていた。
「危なかったな」
「悪い。助かった。」
礼を言いながら2人に合流する。
由衣は男子生徒に「君は早く逃げて!」と声をかけてさらに遠くへ行かせる。
こちらを向いた由衣は明らかに怒っていた。
「自分で言ったことを自分が守らないでどうするの!」
「…俺は別だ。」
「別って何!?私にしたらまー君だって同じ。変わらないよ!」
俺は反論しようとしたが、こぎつね座が立ち上がっているのが目に入った。
今は言い合いをしてる場合ではない。
「…苦情なら後で聞く。やるぞ。」
「はぁい」「あぁ」
俺達はギアを喚び出す。そしていつもの手順でギアにプレートを差し込み、構える。
佑希は時計の2時の箇所に手を掲げ、プレートを生成してギアに差し込む。
そしてもう1度左手を同じ箇所にを掲げ、時計回りに左手を1周させる。左手が1周するのと同時に左腕と右腕が胸の前でクロスになる形で右手を時計の10時の場所に掲げる。
「星鎧生装!」
3人の声が重なり、それぞれ光に包まれて星の力を宿す鎧を身に纏う。
そして光は晴れる。
「前衛2人が来るまで俺が前衛をする。」
そう言って俺は前回の反省からか律儀に待っていたこぎつね座と距離を詰める。
由衣が何か言ってるが気にしてる暇はない。
間合いに入った俺はこぎつね座に拳を叩き込む。
しかし、その攻撃は腕で防がれる。
そしてぶつかり合う爪と拳。
俺は爪の攻撃を受け流し、避けながら拳を打ち込む。
今も定期的に指導をしてくれる平原 大牙さんのおかげで近接戦闘の技術は上昇している。
ただ近接戦闘は詠唱をする暇が無いので俺と相性は悪いが。
動きに隙を見つけた俺はこぎつね座の腹に渾身の一撃を叩き込む。
こぎつね座はその一撃を受け後退る。
「だから…邪魔すんなって言ってんだよ!」
その叫びと同時に3体の分身が現れる。
しかし、こちらだって無策なわけじゃない。
「もうその手も効かない!」
佑希がカードを投げて、4体のこぎつね座の目の前で爆発する。
しかし、分身は消えなかった。
「え…何で!?」
「さっきはやられたけど、もうそれぐらいじゃ驚かいない!」
4体のこぎつね座が一斉に俺に襲いかかる。
俺はなんとか攻撃を回避しながら包囲を脱する。
そして由衣の羊と佑希のカードの援護もあり、2人の元へ合流する。
「消えてないよ!?」
「だな。そうなると…真聡の攻撃も怪しいよな」
俺たちは作戦の立て直しを余儀なくされる。
しかし、こぎつね座も待ってはくれない。
4体同時に俺達に襲いかかってくる。
俺達はそれを散開し回避する。
どうやら俺には2体がかりらしい。
1番強いやつを優先的に潰そうという考えだろうか。理にはかなっている。
だがやられる側としては勘弁してほしい。
俺は2体のこぎつね座の攻撃を避けながら反撃の隙を伺う。
打開のチャンスはすぐに訪れた。
「こいつは任せろ!」
橙の鎧人間が飛び込んできてこぎつね座を1体連れて行った。
そしてもう1体も槍による一突きで後退する。
志郎と鈴保の前衛組がようやく到着した。
「で、何で分身消えてないの」
「佑希の爆発するカードが効かなかった。俺の水も効かない可能性がある。」
そう伝えた瞬間、再び襲いくる堕ち星。
俺と鈴保は攻撃を避け、反撃しながら話を続ける。
「マジ?」
「マジだ。」
「他に手はないの」
「…奥の手はある。」
「何。使いたくないの?」
「時間がかかる。」
「だったらこいつ抑えておくから。早く!」
そう言って鈴保はこぎつね座を俺から遠ざける。
…ここまでしてもらったならやるしかない。
俺は杖を生成して言葉を紡ぐ。
「電流よ。人類に発展を与えし電流よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、澱みに塗れ、堕ちた星と成りしこぎつねの座を焼き尽くし給え!」
杖先に黄色い魔法陣が現れる。
そして俺は「全員防御!」と叫びながら杖を掲げる。
すると杖先の魔法陣から電流が迸り、周囲に広がっていく。
その電流は4体のこぎつね座に命中する。
4人は俺の指示でちゃんと距離を取っていたようだ。
そして3体の分身が消え、本体だけが残った。
「何だよ…今の…」
「隠し玉だ。諦めろ。」
「ふざけんなよ…俺が助けを求めても誰も助けてくれなかったのにさぁ!何で俺が好きなようにできる力を得たら邪魔が入るんだよ!!!!」
その瞬間、こぎつね座から黒い何かが溢れ出す。
澱みか?
…いや違う。どうやら俺は根本的に間違っていたようだ。
こぎつね座の能力は分身なんかじゃない。
幻覚だ。
つまりあの分身は実体のある幻覚。
そして、防犯カメラに姿が映っていなかったのはそこにいないと思わせる幻覚が機械にまで影響した。
そんな事出来るのかという疑問はあるが、星座の力は神秘の力。魔術や魔法の常識を超えてくる。
機械の認識さえも完全に捻じ曲げてしまう幻覚が使えても不思議ではない。
俺は急いで魔力で脳と五感を守ろうとする。
しかし、先程電流魔術を使った反動があったようだ。
魔力も星力は切れていないが、神秘の力の幻覚を無効化は出来なかった。
次の瞬間、俺の視界と意識は漆黒の闇に堕ちた。
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