第037話 1人で
からす座の踵が俺に振り下ろされる。
流石の俺でもこの距離ではどうにもできない。
堕ち星の攻撃を生身で受けたくはない。
しかし腕が使い物にならなくなるのと死ぬのを比べると前者の方がマシだ。
俺は踵が振り下ろされる場所予測し、両手で防ぐ。
しかし、その攻撃は俺には届かなかった。
代わりに金属がぶつかる音が響く。
「
紺のアンダースーツに紺と橙の鎧を纏った星座騎士。
平原 志郎がからす座の踵落としを受け止めた。
からす座はバク宙で後ろに下がって距離を取った。
「あぁ。君が新入りの」
「新入りだからって舐めんなよ!」
その志郎の言葉を合図にからす座との戦闘が始まった。
身体の痛みは徐々にマシになってきた。
早く加勢しなければ。
そこに今度は後ろから
「やっと追いついた…まー君大丈夫!?」
「ちょっと失敗しただけだ。」
俺は立ち上がり、もう一度星鎧を生成しようと左手を構える。
その左手を由衣が掴んだ。
「1人で…無茶しないでよ」
「何の話だ」
「私達…仲間なんだから」
由衣は俺の左手を強く握っている。
俺はその手を振りほどき、吐き捨てるように言う。
「…このからす座は強すぎる。お前達とは戦わせたくない」
お互いに口を開かない。
雨音と鈍い雷鳴、そしてその中に志郎とからす座が戦う音が響いている。
次の瞬間、一層激しく金属がぶつかる音がして志郎が転がってきた。
そして、志郎も立ち上がりながら由衣と同じようなことを言う。
「真聡、あまり1人で突っ走るなよ。仲間だろ?俺達。だからもっと頼れって」
あぁ、だから嫌なんだ。
だから1人で戦いたいんだよ。
だが今の俺ではからす座には勝てないのも確かだ。
…だったら、利用させてもらうしかない。
それなら策はある。
「お前ら、時間稼げるか」
「お、何か作戦があるんだな?任せろ!」
「うん。任せて」
「お話は終わったかい?」
「…終わった。私達が、あなたを倒す!」
そう言いながら由衣はレプリギアを呼び出し、いつもの手順で星鎧を生成する。
そして、右手で杖を呼び出して言葉を紡ぎ始める。
「羊が1匹、羊が2匹。嫌な現実から、幸せな夢の世界へ。眠れよ眠れ、羊の群れ!」
唱え終わると同時に杖を両手で掲げる。
すると半透明の羊が複数匹現れ、からす座に向かって突撃する。
からす座はそれを避けようと飛び上がるが、志郎が足を掴んで地面に引き釣り下ろす。
そのまま志郎はもう一度肉弾戦を始める。
一方、由衣は様子を窺いながら羊を突撃させる。
その連携が取れた戦闘を見ながら、俺は念のため自分に認識阻害魔術を使用してその場を立ち去る。
そして、急いで上に登れるところを探す。
幸い、科学館の外壁を上手に飛び移れば科学館の屋上に行けそうだ。
俺は自分に追加で身体能力強化の魔術を使用して外壁を飛び移り屋上へ登る。
屋上に到着した俺は、下の様子を見る。
2人はまだ戦って入るが、劣勢であることは見て取れる。
早く加勢に入らなければ。
俺はもう一度ギアを呼び出し、プレートを差し込む。
そして左手を時計回りに一周させ、左腕を伸ばして目元を隠すように戻す。
俺は1人で戦うつもりだった。
俺が全てを背負い込めばいいと思っていた。
そうすれば誰も傷つかず、悲しまずに済む。
だが、1人では出来ないことがある。勝てない相手がいる。
だから今は。今だけはあの2人に、甘えよう。
「星鎧 生装」
その言葉と同時に俺はギア上部のボタンを押す。
するとギア中心部から山羊座が飛び出し、俺の身体は光りに包まれる。
光の中で俺は紺のアンダースーツを身に纏い、その上から紺と黒の鎧を身につける。
そして光は晴れる。
俺は右手に杖を呼び出して、言葉を紡ぐ。
「水よ。生命の源たる水よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、澱みに塗れ堕ちた星となりしからすの座を捕らえる、水の檻となり給え」
杖先に青の魔法陣が現れ、周囲の空から落ちる雨水や周りの水溜りの水が杖先に集まっていく。
地上では由衣と志郎がからす座の攻撃で吹き飛ばされ、地面を転がる。
それを見た俺は屋上から飛び降りる。
「ところで、山羊座君の姿が見えないね?1回やられたことにビビって逃げたのかな?」
「そんな訳ねぇだろ!
水の檻よ、からすの座を捕らえよ!」
その言葉と共に俺は杖先をからす座に向ける。
杖先の水球はからす座に向かって飛び、包み込む。
着地した俺は続けて2人に指示を出す。
「由衣、眠りの力をこの水球に送り続けろ!」
「俺は!?」
「志郎は、俺の攻撃が失敗した場合に備えて待機!」
俺はもう一度杖を掲げ、言葉を紡ぐ。
「電流よ。人類に発展を与えし電流よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、澱みに塗れ、堕ちた星となり水の檻に捕らえられし、からすの座に天の裁きを与え給え!」
杖先に黄色の魔法陣が現れる。
そして上空の黒い雲から杖先の魔法陣に雷が落ちる。
俺はそのまま杖先を水の檻の中にいるからす座に向ける。
激しい光、音、衝撃波があたりを襲う。
俺は目を閉じ、防御魔術で自分を守る。
電流魔術。
属性魔術ではあるが、氷魔術と並んで他の5属より難しいとされる魔術。
中等部時代は使えなかったが
そのため氷魔術と合わせて特訓、調整を行っていた。
今回は上空に雷雲があったため、それを用いるので攻撃することに成功できた。
目を開けてまず由衣と志郎を見る。
2人は星鎧を身に着けた状態で立っていた。
どうやら俺と同じく防御魔術で身を守ったようだ。
教えておいて良かった。
一方、からす座は人間の姿で地面に倒れている。
そしてその手前に5つの板状のものが落ちているのが見えた。
あれはプレートだ。
からす座は立ち上がり始めている。
俺たち3人の中で1番近いのは志郎だ。
俺は急いで「あれを回収してくれ!」と志郎に指示を出す。
志郎は走り出す。
からす座も同時に走り出す。
そして地面に散らばっているプレートを取り合う。
からす座は人の姿のため星鎧を纏っている志郎相手は流石に不味いと思ったのか、すぐに後ろに下がる。
そしてこちらに言葉を投げてきた。
「あ〜あ。3つも取られちゃった。ま、最低限必要なものは回収できたからいっか。
それに、楽しかったしね。また時間があれば遊んであげるよ。今度は本気でね。それじゃあ、またね」
そう言い残してからす座の黒い服の男は黒い羽根を残して姿を消した。
こうして不意に遭遇した堕ち星との戦闘は幕を下ろした。
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