第087話 甲羅
時間は真聡達が巨大な蛇と遭遇した頃に遡る。
☆☆☆
鈴保と上手く協力しながら魚座と蟹座との戦闘は続いていた。
ただこの通路は狭くて戦いづらい。だから少しずつ奥へと移動しながら。
すると、かなり広い場所に出た。
「鈴保!ここなら広くて戦いやすいよな!」
「そうね。さっさと倒すよ」
真聡達の状況はわかんねぇ。
だけど少なくとも、黄道十二宮星座の概念体が2体もいるのは明らかにおかしいことはわかる。
だからさっさとこの2体を倒して真聡と合流したほうがいい。
俺は少し焦りながらも蟹座との距離を詰める。
さっきまでで甲羅にはほとんど攻撃が通らないことがわかってる。
だから狙うなら腹の方がまだ攻撃が通るはず。
そう思って下に潜り込もうとするが、鋏が振り下ろされる。
この鋏は見ただけでヤバいのが分かるので死ぬ気で避ける。
あれ挟まれたら終わりだと思うんだよな。さっき通路の壁削ってたし。
結局、潜り込めずにまた距離が出来た。
そのときに少しだけ鈴保が視界に入った。
魚座に向かって毒を飛ばしている。
魚座は浮いてるし動き回る。
「だから毒を入れて動きを鈍らせるか落とすかしたい」と鈴保が言ってた。
鈴保も全力で戦ってる。
俺だっていつまでもこうしちゃいられねぇ。
今度こそ潜り込んでやる。
そう思って、距離を詰めようとしたとき。
凄い音がした。
その方向を見ると別の通路から凄い量の水が溢れ出してきた。
その水が引くとそこには人が7人ほど見える。
由衣と佑希と……人数的に行方不明だった人たちか?
どうやら無事に見つかったようで良かった。
そう考えてるうちに蟹座の方が近づいてきていた。
俺は鋏を避けながら鋏の上の関節らしきとこにガントレットでの一撃を叩き込む。
蟹座は痛かったらしく、後ろに下がっていた。
……あそこもありっちゃありだな。やっぱり硬いけど。
そう考えていると目の端で何かが動くのが見えた。
俺は蟹座とその何かが同時に見えるように移動する。
どうやらさっきと同じ通路から真聡が出てきたらしい。
既に星鎧を生成している。
真聡も何かと戦っているのか?
そう考えていると今度は同じ通路から巨大な蛇が出てきた。
まだ概念体いるのかよ!
でもへび座も巨大な蛇に成れるんだよな?
……どっちだ?
「はい、そこまで」
そのとき何者かの声が響いて聞こえてきた。
俺はその声がする方向を見る。
するとそこにはへび座の堕ち星とからす座の堕ち星がいた。
おいおい、強敵の堕ち星が揃っているのかよ……最悪じゃねぇか……。
……へび座があそこにいるってことはあっちの蛇は概念体ってことだよな。
俺なりに状況を見てるとへび座が話し始めた。
「本っ当に君達って僕の邪魔をしてくれるよね。まぁでも、僕の計画はほぼ最終段階だ。
それにここは澱みで満ちている。だから、君達に勝ち目はないよ」
何だよ計画って。ここで何やってんだよこいつらは。
すると真聡の指示が聞こえた。
「由衣はそのまま避難誘導、佑希はこの蛇、志郎と鈴保はそのまま概念体の相手!」
…あいつ、1人で堕ち星両方とも相手する気かよ。流石に無茶だろ
助けに行きてぇ。
でもそうしたら鈴保に概念体両方押し付けることになる。それは無理だ。
……だったらこの概念体さっさと倒さねぇと。
そう意気込んでると、鈴保が声をかけてきた。
「志郎、いける?」
「当たり前だ。さっさと倒さねぇとな」
どうやら鈴保も俺と似たようなことを考えてるらしい。
鈴保は今度は壁に向かって行った。
……壁を蹴って浮いてる魚座との距離を詰めるのか。
俺も蟹座との距離を詰める。
今度は鋏に邪魔されないように、足を避けながら横から下に潜り込む。
そして、渾身のアッパーを叩き込む!
蟹座はふらふらしながら横移動して俺と距離を取った。
手応えはあったんだけどやっぱり硬ぇ。ガントレットの先がかけるかと思ったわ。
というか概念体ってどうやって倒すんだよ!
前の蠍座は鈴保の手を刺したあと消滅しちまった。
今回はそんなことは起きねぇと思う。
真聡はとにかく攻撃しろと言っていたけどな……
悩んでても仕方ねぇから、とにかく距離を詰める。
しかし、さっき潜りこんだからか警戒されてる。
足ですげぇ邪魔してくる。
そもそもどこを攻撃すりゃいいんだよ。全身硬いんだが。
攻撃の隙を探して動き回っていると「しろ君避けて!」という声が聞こえる。
反射的に俺は蟹座から離れると、羊の群れが突っ込んでくる。
それに続いて赤色の鎧、由衣が蟹座に近づいて杖で思いっきり殴る。
フルスイングだな。
けどやっぱり硬いらしい。
とりあえず、蟹座と距離を取った由衣と合流する。
「いいのかよ、真聡は避難誘導しろって言ってただろ」
「だってまー君1人はダメでしょ!」
「…やっぱそうだよな」
「あの大っきな蛇はゆー君が相手するらしいから、早くこの2体倒そ。そしてまー君助けに行こ」
「だな」
会話が終わったと同時に蟹座の鋏が振り下ろされる。
俺達は分かれて避ける。
……にしてもどうやって倒すんだよ。硬すぎて決め手がねぇぞ。
悩んでると後ろから「逆にその武器無い方が良いんじゃない」と言われた。
驚いて振り向くと鈴保がすぐ後ろにいた。
どうやら鈴保も魚座に苦戦してるらしい。
「武器無しでどうすんだよ」
「硬くて弾かれるんでしょ。じゃあ無い方がいいでしょ」
そう言い残して鈴保はまた魚座に向かって行った。
……だが言われてみればそうかもな。
でも、そうしたら威力が下がらねぇか?
そう思ったとき、さっきチラッと見えたものを思い出した。
真聡が確か……腕に水を纏わせてたよな。
…………俺も似たようなことできねぇかな。
ガントレットから星力で斬撃を飛ばすことはできる。
なら、ガントレット無しなら拳そのものに星力を纏わせれねぇのかな。
蟹座に目を戻す。
俺が考えている間に由衣が代わりに蟹座と戦っている。
早く戻らねぇと。
……というか今の俺なら警戒されてないだろうし、また潜り込めるんじゃねぇか?
だったら今やるしかねぇよな!
俺は地面を蹴って全速力で蟹座に近づく。右腕に星力を集中させながら。
斬撃が飛ばせるようになったんだ。今の俺ならできる。
由衣が鋏の攻撃を全力で避けてる。
その隙に俺は蟹座の腹の正面まで行く!
そして気合を入れながら拳を叩き込む!
鈍い打撃音が響く。
蟹座は拳を受けた衝撃で後ろに下がる。
決まった……
「しろ君、凄い!」
「今思いついたことだけどな」
由衣が隣に来て、褒めてくれた。
……鎧で顔見えてねぇけど目がキラキラしてる気がする。
だけど今まで一番手応えがあった。
これならイケる気がする。
「なぁ由衣」
「何?」
「もう1回羊で蟹の動き鈍らせれるか?」
「さっきみたいに上手くいくかわかんないけど…やってみる」
「頼むわ。鈍くなったら俺がもう1回殴る。とりあえず、羊頼む」
「わかった」
俺はそう言い残してちょうど体勢を立て直した蟹座に近寄る。
今は時間を稼ぐだけでいい。
俺は蟹座の周りを動き回って、注意を俺に向けさせる。
ただ、俺は真聡のように速く動けるわけではない。
だから鋏の攻撃が結構危ないんだよな。
何度か鋏の攻撃を避けたとき、由衣の「羊の群れ!大回転!」という声が聞こえた。
俺はその声を合図に蟹座から離れる。
すると羊が蟹座に突撃していく。
俺はその間にもう一度集中する。
今度は両腕、両足に星力を集中させる。
どこで攻撃するかわかんねぇからな。
羊が全て消え、蟹座の動きが鈍くなった。
俺はそのタイミングでもう一度蟹座の腹の正面に出る。
そして右、左、右足と連撃を決める。
最後にもう一度渾身の右ストレートを叩き込む!
それを受けた蟹座は壁まで吹き飛んだ
土埃が舞って蟹座が見えなくなった。
「やったねしろ君!」
「おう!」
上手くいった喜びを由衣とグータッチをして分かち合う。
土埃が収まる。
そこには巨大な蟹はいなかった。
「これって!」
「あぁ。たぶん倒せたな」
駆け寄って確認しようとしたその瞬間。
明らかに痛そうな衝撃音が地下貯水路内に響いた。
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