第043話 逃げ出した
時間は
☆☆☆
「ねぇ!本気で帰るの!?ねぇってば!!」
私は遠ざかるまー君の背中に叫ぶ。
しかし、まー君振り返らずに行ってしまった。
残された私と
「…とりあえず、俺達だけで
「だね…」
「俺の方が体力あるだろうから、遠くから攻めるわ。」
「お願いします……じゃあ私は…学校の近くから探すね?
私は振り向き、後ろにいる智陽ちゃんを見る。
「私は…陰星君に着いていこうかな」
「何で!?」
「私…体力ないから走り回るの向いてないし。それに陰星君に言いたいこともあるし」
さっきのって…まー君の言い方についてだよね。
何か考えがあるのかな?
あれには私もまだ言い足りないと思ってたから…お願いしようかな…?
「じゃあ…まー君をお願いします」
「うん。何かあったら連絡してね」
そう言い残して智陽ちゃんは小走りで立ち去る。
…そういえば、智陽ちゃんはまー君の家知らないよね?
私は慌ててもう1度声を張り上げる。
「メッセージで住所送るからーー!!!」
そしてすぐにメッセージで住所を送る。
反応はなかったけど…聞こえてるよね?
メッセージを送りながら私は少し不安になる。
「さて、じゃあ俺も行くわ」
「うん。何かあったらグループに連絡するから!」
「おう!」
私は志郎君と反対向きへ歩き出す。
とりあえず、砂山ちゃんは左に曲がったから…私は今反対向いてるから右に曲がればいいかな?
そこから私は早歩きで住宅街を移動する。
走って探したいけど、どれくらい探すかわからないから体力考えないと。
歩き回ること五分程。
私は高校に戻ってきてしまった。
来た道を戻ったら当たり前だけどスタート地点に戻るよね……でももしかしたら砂山ちゃんは戻ってきてるかも?
そう思い私は通用門から敷地内に入る。
残っている生徒に金髪の女子生徒を見なかったか聞いてまわってみる。
しかし、残念ながら見てないという返事しか返ってこない。
校内を歩き回っていると、保健室に人が集まってるのが目に入った。
遠くからだから誰かまではわからないけど、男子生徒と女子生徒と多分保健室の先生ともう一人先生がいる。
私はもう少し近づいて目を凝らす。
どうやら男の子はさっき砂山ちゃんと喧嘩してた人で、女の子はその喧嘩を止めようとしていた人だった。
そういえば、巨大蠍が出たときに女の子は砂山ちゃんを突き飛ばして転んでたっけ。
…怪我してたのかな。
私は怪我についてと同時に砂山ちゃんについて聞こうと思って保健室へ向かう。
すると男の子以外は職員室の方へ向かい、男の子だけが別の方向へ向かった。
私はどっちに行くべきか悩む。
でもたぶん先生がいる方へ行くと邪魔になりそうな気がする。
というか何か言われそうな気がする。
なので少し怖いけど男の子に着いていく。
何て話しかけようか悩んでいると、先に男の子に後ろをつけているのがバレてしまった。
「何のようだ」
「あ、えっと…そのぉ…友達…怪我…したんですか?」
「さっきな。だから今忙しいんだ。それだけか?」
めっちゃ機嫌悪くない?
機嫌が悪いまー君もかなり怖かったけど、あれはまー君だから普通に話せてた。
だけど初対面の人が機嫌悪いと何て話せば良いか本当に分からない。
でも話を聞かないと何もわからない。
だから私は勇気を出して「砂山 鈴保ちゃんと知り合いなんですか?」と聞いてみる。
返ってきたのは舌打ち。
怖い……。
まー君…だとたぶん喧嘩になると思う、だから志郎君がいてくれたらな…と少し弱気になった。
でもここで逃げたら話は進まないので私は立ち去らない。
すると、私を追い返したいのか男の子が口を開いた。
「…あいつについて話す事なんてない」
そう言い残して男の子は、去っていってしまった。
手がかりが無くなった私は途方に暮れる。
とりあえず砂山ちゃんは学校にはいないみたいだから、私は学校から出るために歩き出す。
砂山ちゃん探しに戻るべきなのはわかってる。
わかってるんだけど…でも、砂山ちゃんと喧嘩相手の男の子の様子からして、少なくとも2人の間に何かあっただと思う。
その問題を放っておいていいのかな…。
私1人じゃ結論が出ないから、誰かに相談したいけど…まー君は「放っておけ」と言うのは目に見えてる。
志郎君…は今走り回ってるはずだから気が引ける。
ひーちゃんは…多分乗ってくれるとは思うけどまー君に「あまり巻き込んでやるな」って言われたから気が引ける。
私は歩きながら「誰も相談できる人がいな〜い…」と思わず言葉が漏れる。
……そう言ってから気づいたけど…相談できる人いるよね?
私は急いでスマホのメッセージアプリを開いて、電話をする。
電話の相手はすぐに出てくれた。
☆☆☆
「あづい…」と思わず口から言葉が漏れる。
私は今、市立病院の前にいる。
理由はさっきの男の子と女の子に砂山ちゃんの話を聞くため。
ただ…他の人から見ると出待ちに見えるのが残念ポイント。
でもあの巨大蠍の目的がわからない以上、さっきあの場にいた人を守るのは間違いではないと思う。たぶん。
ところで学校で怪我をしたときって、行き先は本当に市立病院であってる…よね?
私がこうやって砂山ちゃんの話を聞く方に決心できたのは智陽ちゃんのおかげ。
電話で私の考えを話したら「それも大切だと思うよ」って言ってくれて「市立病院に行ってみたら?」とアドバイスまでくれた。
ただ…志郎君に砂山ちゃん探しを完全に任せてしまうのが少し心苦しい。
それにしても暑い。手持ち扇風機を使ってるけど暑い。
途中でアイスとか買ってくればよかったかな…
と少し後悔していると待ち人が病院から出てきた。
私は2人の前に出る。
「あ、あの!」
「お前、こんなとこまで着いてきたのか。言っただろ、話すことなんてない」
「えっと……誰?というか何の話?」
そう言った女の子は左足をかばって立っている。
それを見た私は少し罪悪感を覚えた。
「その怪我…」
「さっき怪物に襲われたときに挫いちゃってさ。念の為って言われて病院まで来ることになっちゃった」
「…あいつを助けるからだろ。」
「颯馬、そんな言い方ないでしょ。鈴保は私達の友達で仲間じゃん」
「でもあいつは逃げ出した。もう友達でも仲間でもない。」
「またそんな事!少しは鈴保の気持ちも考えたら!?」
「でもお前はあいつのせいで怪我したんじゃねぇか!」
「だからこれは私が自分の意志で動いた結果だからいいの!」
今度はこの2人で喧嘩が始まってしまった。
止めないと。ここ病院の前だし。それに私は鈴保ちゃんについて知りたい。
そう思い私は2人の声に負けないように声を張り上げて、2人の言葉を遮る。
「あの!鈴保ちゃんと何があったんですか!?」
☆☆☆
「ごめんね…みっともないところを見せて…」
「ううん!私も颯馬君に無理に鈴保ちゃんについて聞こうとしたし…」
私達はとりあえず病院近くの公園に移動して、お互いの自己紹介と私の事情を説明した。
名前は
2人とも私と同じ1年生。そして2人とも陸上部で颯馬君は短距離、梨奈ちゃんはマネージャーらしい。
今は梨奈ちゃんと私はベンチに座ってて、颯馬君はウロウロしてる。
「で、鈴保に何があったかだよね。話して良いのかな〜…」
「放っておけば良いだろ。」
「颯馬は黙ってて」
「まぁ、無理にとは言わないから…」
「でも鈴保が危ないかもしれないんでしょ?」
「それは…たぶん…まだ言い切れないけど…」
結局、澱みと堕ち星についてはふわっとだけど話してしまった。
一応今回は私達が戦ってるっていうのは言ってない。
でも「鈴保ちゃんが狙われてるかもしれないから何とかしてあげたい」とは言った。
梨奈ちゃんは悩んでるみたい。
でも確かに初対面の人に友達の過去を教えてって言われたら困るよね…。
普通は断るよね……。
私だって初対面の人に昔のまー君を教えてって言われたら断るもん。
数分経って、梨奈ちゃんはようやく口を開いてくれた。
「うん、話すよ。鈴保に、私達に何があったかを」
「え、いいの!?」
「私達だって鈴保をどうにかしてあげたいとは思ってるから」
「…俺は思ってないぞ。」
「いらないことを言わないで。
まず私と鈴保は小学校からの友達なの。で、鈴保は中学校から陸上部に入ってやり投げを始めた。私も一緒にマネージャーとして入部して、そこで颯馬に出会ったの。
陸上部1年生はそんなに多くなくて、それに真面目に毎日来てた1年は私達3人くらいだったから自然に仲良くなったの。
2人共、県の記録に届きそうでずっと頑張って練習してた。でも鈴保は最後の3年生の大会を目前に肘を痛めちゃってね。出れなかったんだ。その後鈴保はそのまま引退しちゃったし、学校に来る回数も減ったの。
そして3年生の2学期に入ってからようやく学校に来る回数が増えたと思ったら、既にあんな感じになってて余計に話しかけづらくてさ。
一応同じ高校に進学したし、またやり投げするのかなって思ってたんだけど…ずっとあんな感じで私たちも困ってるの」
「そんな事が…」
「怪我をして、そのまま逃げ出しただけだろ。」
「またそんな言い方して…」
3年間頑張ったことが結果を出す前に終わることになったら嫌だよね。
…つまり、まー君が何もかも嫌になってるって言ってたのは当たってたのかな。
私は鈴保ちゃんに何を言ってあげれるだろう。
そもそも鈴保ちゃんは何を望んでるんだろう。
…わからないけど、とりあえず行動しないと何も始まらないよね。
私はベンチから立ち上がって、梨奈ちゃんの方を向く。
「話してくれてありがと。私、もう少し探してみる」
「お願いするね。私も鈴保が家に帰ってないか一応聞いてみる」
「…もし良かったら、連絡先交換しない?」
「…交換したほうが便利よね」
私達はスマホを出して連絡先を交換する。
これで鈴保ちゃんが家に帰ってたら教えてもらえる。
もしそうなら安心できるんだけど…。
でも鈴保ちゃんの家族に連絡が取れるまでは、探さないと。
私は私にできることをしたいから。
そして私は2人にお礼を言って公園を後にした。
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