第143話 一生後悔する
俺は壁や手すりなど、あちこちに捕まりながらもなんとか
幸いなことに、稀平が通った場所には人が倒れている。
そして今は異形の姿。
見つけるのに時間はかからなかった。
中等部寮棟。
あの日、俺が氷上と揉めて、稀平が教師陣の追求から助けてくれた場所。
そこで俺は稀平に追いついた。
「稀平!!」
「
「……稀平に誰かを傷つけて欲しくないから」
「でも、誰かが罪を気が付かせないといけない」
「それは俺達の役目じゃない」
「でも神は去り、神秘は薄れた!」
「神様は彼方から見てる。神秘は、ここにある」
俺はそう言いながら、右手で左手首を掴む。そして、左手の甲の星座紋章を稀平向ける。
同時に星座紋章に星力を集めてプレートを生成する。
「稀平が、
俺が、
左手を返し、プレートを稀平に向ける。
そして、ギアにプレートを差し込む。
ギアを使って戦うのはやっぱりまだ怖い。
ちゃんと生成できるかもわからない。
でも、俺が稀平を止めないと。
俺しか止めれないんだから。
「星座の神秘を宿す鎧、生成」
その言葉と共にギア上部のボタンを押す。
身体中の星力、魔力がごっそり持っていかれる感覚。
そして、ギア中心部から山羊座が飛び出す。
「装着」
出現した山羊座は光を放ち、俺の全身を包み込む。
光の中で俺の身体は星力が結晶化した紺色のアンダースーツと黒色の鎧に纏われる。
そして、光が晴れる。
星鎧を纏った俺の姿を見て稀平は「…戦うしかないんだね」と呟いた。
「お前が止まればそれで解決する」
「それはできない相談!」
稀平は斜め下に両手を突き出した。
すると俺の目の前の寮棟の床が斜めに盛り上がって襲ってくる。
俺は後ろに飛び下がる。
着地する前に無詠唱の魔力弾を飛ばして反撃する。
しかし、稀平は澱みを飛ばしてぶつけて、魔力弾を爆発させた。
「じっとしててくれよ!」
そう叫びながら稀平が何かを放った。
色はない。だけど、少し景色が歪んで見えるから衝撃波か何かだろうか。
ただ、受けたらマズいことはわかる。
「土よ、壁と成り、我が身を守れ!」
言葉を紡ぎながら、左足に星力をまわす。
すると、目の前の地面が盛り上がり壁ができた。
俺はその陰に隠れながら次の手を考える。
稀平は土魔術が得意だから
だから距離を詰めないと。
方針を決めた俺は言葉を紡ぐ。
「我、神秘の力を与えられし者。その与えられし神秘の星座の力を借り、我が身、人の限界を超える」
定義付けで効力を上げた身体強化魔術。
今は地脈から魔力が供給されている状態だから遠慮なく使える。
俺は土壁から飛び出して一気に距離を詰める。
そして、稀平を取り押さえようと掴みかかる。
しかし。
「よめてるよ!」
そう言いながら稀平は俺を蹴り上げた。
俺の身体は上に吹き飛び、天井にぶつかる。
寮棟内での戦闘は想定されていない。
ましてや、神秘の力同士などは。
そのため、俺の身体は簡単に天井を突き破った。
上の階である女子フロアに出ても勢いは止まらず、さらに女子フロアの天井を突き破る。
そして俺の身体は中等部寮棟の上空に到達した。
このままだと追撃を受ける。
そう考えた俺は両手を突き出して言葉を紡ぐ。
「風よ。吹き荒れよ!」
両手から風が吹き荒れる。
宙に浮いている俺の身体は勢いよく動き始める。
両手から起こしている風の向きを調整しながら着地する。
着地した場所は屋外練習場。
建物などの障害物などないここなら、遠慮なく神秘の力を振るえる。
そして着地とほぼ同時に稀平が中等部寮棟の屋根上に出てきた。
こっちに向かってくる。
今度はこっちの番だ。
俺は両手を身体の前に突き出して言葉を紡ぐ。
「神秘を宿す山羊座の力。その力の一端である武器よ。現れよ」
するとごつごつとした絵本やアニメで見るような魔法使いの杖が現れた。
初めて星鎧を生成して戦ったときに無意識に生成していた杖。
今日は詠唱もしたからか、スムーズに生成できてよかった。
だが安心している暇はない。
俺は杖頭を稀平の方へ向けて、言葉を紡ぐ。
「水よ。生命の源たる水よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、人に害を与えようとするモノを、押し流し給え」
杖頭に青い魔法陣が現れ、水が生成される。
そして、稀平に向けて放つ。
稀平はその水を受けながらも地上に降りる。
そして着地と同時にいくつかの土壁を生成した。
見えるだけでも5つの土壁がある。
どこを狙えばいいか。
どこから来るのか。
俺は一度水魔術を止めて、様子を窺う。
次の瞬間、無数の岩が飛んで襲ってきた。
俺は水魔術をもう一度発動して、撃ち落とす。
「隙あり!!」
稀平に懐に入られていた俺はまた蹴り飛ばされる。
だけど、このまま追撃はもらいたくない。
俺は吹き飛びながらも言葉を紡ぐ。
「草木よ。この星に循環をもたらす草木よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、人に害を与えようとするモノを縛る枷と成り給え」
そして地面にぶつかると同時に、左手で地面を触る。
俺は仰向けに倒れた。
急いで起き上がると、稀平は蔓で四肢を縛られている。
俺は距離を詰めながら言葉を紡ぐ。
「火よ。人類の文明の象徴たる火よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、拳に宿りて、人に害を与えようとするモノを焼き尽くす炎と成れ」
そして縛られている稀平を思いっきり殴り飛ばした。
稀平は吹き飛び地面を転がる。
俺はそのまま、想いをぶつける。
「なぁ…俺達が戦う理由なんてないだろ」
稀平は身体を起こしながら答える。
「うん、ないよ。
だから真聡、僕と一緒にこの学校を、魔師社会を変えようよ」
「それは…できない」
「何で?真聡であってあの仕打ち、嫌だっただろ?」
「…うん、嫌だった。だからと言って、仕返すのは違う。
稀平こそ何でだよ。「力があるからこそ誰かを守るべき」って伯父さんに言われたんだろ?」
「だからだよ。僕は
だから僕は、ここにいるやつを皆殺しにする。弱い奴が虐げられるのはもう嫌なんだよ!」
話が平行線だ。
氷上と違って何を考えているかはわかる。
でも、それは駄目だ。
いくら人を守るためとは言え、他の人を傷つけてはいけない。
……倒すしかないのか。
「だからさ。退いてよ。俺だって真聡と戦いたくない」
「…俺だって、戦いたくない。
でも、退けない」
「……残念だよ。真聡」
稀平がそう言うと同時に稀平の周りの地面から土の塊が浮かぶ。
その土は針のような形になって、俺に向かって飛んでくる。
俺はそれを何とか避けながら距離を詰める。
そしてもう一度、言葉を紡ぐ。
「火よ。人類の文明の象徴たる火よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、拳に宿りて、人に害を与えようとするモノを焼き尽くす炎と成れ」
炎を纏った拳を稀平に叩き込む。
しかし、止められた。
「同じ手は2回も受けない!」
反撃の蹴りがお腹に決まって、俺はもう一度吹き飛んで地面を転がる。
「お願いだから、僕の邪魔だけはするなよ!!」
その言葉と同時に俺の身体は再び重くなる。
うつ伏せの状態から立てない。
同じ手。
一度見せた魔術。
そもそも、稀平はずっと一緒に魔術特訓の相手をしてもらっていた。
だから、稀平は俺の魔術をほとんど全部知ってる。
逆に俺も、稀平の魔術の全てを知ってる。
だけど、今の稀平は天秤座に選ばれて魔力じゃなくて星力を使ってる。
使ってくる魔術の規模が違う。
そしてこの謎の重圧攻撃。
勝ち目が見えない。
でも、地面に這ってる場合じゃない。
俺はもう一度、呻き声を上げながら力を振り絞る。
身体は少しずつ動くので、気合で立ち上がろうとする。
「だから…何で立てるんだよ!じっとしってくれよ!」
身体がさらに重くなり、再び地面に伏せる。
星鎧が消滅した。
そして、頭の中に言葉が響く。
『お前は今、目の前の助けを求める手を払い、その相手を殺そうとしている。
お前は、大好きな友人に何も言わず、失踪同然で姿を消した。
お前は、両親が死んだのにも関わらず、1人生き残りのうのうと生きている。
両親を助けられなかった子供に、誰が救える?』
俺の口から、言葉にならない苦しむ声が漏れる。
『お前は、大勢のどうしようもない命のために、目の前の弱者を救おうとする友人を殺そうとしている。
お前は、来るかもわからない未来に自分のような人を増やしたくないと、身勝手な考えで、大好きな友人たちに黙って街を出た。
お前は、一緒の車に乗っていたのに、1人だけ生き残った。
目の前の大切な相手を見捨てるようなお前には、誰も救えない』
失意に沈みかけたとき、お父さんの言葉が浮かんできた。
『人にはな、生まれた以上は何か役目が、理由があると父さん思うんだ。
だから、真聡は自分の好きなことを、やりたいことをやればいい。父さんと母さんはそんな真聡を応援する。
あ、でも他の人に迷惑をかけないようにな。誰かの物を取ったり、誰かをわざと傷つけるのは父さん本当に怒るからな』
「俺は……まだ……!!」
顔を上げると稀平は俺に背中を向けて歩き出していた。
俺は必死に左手を前に伸ばす。
すると、いつの間にか手から離れていた杖に手が当たった。
どうやら詠唱しながら生成したため、手から離れても消えてなかったらしい。
そして丁度、左側が視界の外だから見えてなかったようだ。
杖が手に届いた。
でも立てない。
でも稀平は止めないといけない。
今の状態から何とかするには……
地面を割るしかない。
俺は一か八かにかけて言葉を紡ぐ。
「土よ。生命に安寧を与える土よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、人に害を与えようとするモノを地の底に呑み込み給え」
すると、左手で掴んでいる杖から稀平に向けて一直線に地面が割れる。
最初は浅い地割れ。
しかし、どんどんと底が見えない深さになっていく。
そして、稀平の足元の地面も左右に離れ始める。
稀平は離れていく左右の地面に足をかけて、落ちまいと足掻く。
しかし、地面は左右にどんどん離れていく。
「真聡…お前…それほどに……!」
稀平の驚きの声が聞こえてくる。
しかし、地割れは止まらない。
そしてついに、足の長さ以上に地面が割れた。
稀平は、地割れにのみ込まれていく。
「真聡…お前はきっと僕を止めたことを一生後悔する。
魔師社会の変革を止めたのは、真聡だ」
稀平の姿は見えなくなった。
そして、地割れが閉じた。
俺は、異形の姿に成った友人を
殺した。
そして、視界が暗転した。
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