第23話とある研究者の日記①

 私は男性特別管理室に勤める二十代の研究者だ。男性特別管理室とは国の特務機関だ。エリート中のエリートだけがここの仕事に就く事が出来る。私はまだ本物の男性と会った事が無い。皮肉なものだ…。そのお陰で男性にうつつを抜かす事無く勉学に励みこの仕事の責任者に就く事が出来たのだから…。


 まずここの主な仕事は男性の精子を事細かに調べる事。それから何故男性が生まれにくいのか原因を突き止める事等が挙げられる。そして男性をランク付けするのもここになる。まぁ、早い話、男性に関する事を調べるのがここって訳だ。勿論収入も破格だ。


 ある日2つの検体が私達の元に届いた。今年高校に入学した男性2人の精子だ。精力テストが行われたのだ。しかしながらこれで分かるだろ?全国で一斉に行われたのに届いたのは2つだけ。男性が異様に少ないという事が。これがどれ程の危機かという事が。


 話を戻そう。まずは付与された資料を確認。勿論顔写真付きの書類等。1人は強面、もう1人は…久しぶりにこんな良い男を見た。現在存在している男性の中でも郡を抜いているな。これだけでもランクはかなり高ランクになるだろう。殆どの女性は人口受精する際に顔写真で決める為、顔が良ければそれだけで精子は高くなる。性格迄良ければ尚更高くなるがな。ランクはS、A、B、C、D、Eでランク分けされており現在の所C以上は居ない。そのCでさえ少数でEが殆どだ。


 さてさてこの2人のモノはどうだろうか?まずは強面君から確認するとしよう。検体から少し取り出し顕微鏡で確認。おっと研究所の全員がこちらに集まって来る。取り出す時の匂いを摂取する為だ。決して良い匂いでは無いのだが本能が求めて要るのだろう…。こういう格言がある。女性は皆変態。それを恥じていたら何も生まれぬと云う格言だ。私はこの格言を座右の銘としている。言葉というのは本当に奥が深いものだ…。


 私は意を決して顕微鏡を覗き込んだ。フム………形も動きもかなり良い……異常は見当たらない。久しぶりに見たな。こんな活きが良いのは冷凍保存された物の中でも早々見つからない。かなりの年月を経てついに日本にBランクの男がこの世に現れた瞬間だな。


「Bだ!Bランクだ!」


─私がそう口にした瞬間3人の女性が名乗りを挙げる!


「私が!」

「私も!」

「私もだ!」


 何故名乗りを挙げたかだって?それは勿論決まっているだろう?人口受精の為さ!研究員は率先して精子を貰えるからだ。高収入よりもこちらが目当ての女性もかなり多い。男性を産む事が出来れば余計に将来は保証されるし、女性の中には私が男性を産んでみせるという女性も多いしな。


「…決まりだ。3人はこれを持っていきたまえ!」


─私は3人の女性に男性の物を渡す。


「立派な男性を産める事を祈ってるぞ…」


「「「ありがとうございます!!!」」」


─3人は直ぐ様人口受精へと向かった。


 私は次の検体に取り掛かかる。フム………

…………………何だ…今のは…検体が入ってる容器を開けた途端、何かに意識を持っていかれた。匂いだけで意識を持っていったとでも云うのだろうか?周りを見渡して見ると皆同じ様になっていたみたいだ…。


「…大丈夫かお前達?」


「所長…今のは?」

「私意識が飛んでたみたいです…」

「…はっ!?」

「…私、今、可愛い男の子を産んだビジョンが見えましたわ!」


「ふぅ~皆、一旦落ち着こう!冷静にな?」


「「「「「…はいっ!!!!!」」」」」


それは私自身にも言い聞かせる言葉だった。こんな事は私の研究人生の中でも初めての経験。逸る気持ちを懸命に押さえ落ち着けながら顕微鏡を覗き込んだ。


「これ…は…!?」


「「「「「所長ぉ?????どうですか??

???」」」」」


「…お前達にまずは言って置きたい」


「「「「「何をですか?????」」」」」


「私は今日これから人口受精に入る…」


「それって…」

「あの所長が!?」

「今迄そんな事一言も言った事無かったあの所長がぁ!?」

「馬鹿な…」

「…って、ちょっと待って下さい所長!それは一体ランクはどうなっているのですか?」

「そうだ!」

「所長がそう言うのならかなりランクは高いよな?」

「間違い無い!でも高ランクの精子って確かここの研究所でも1人しか人口受精出来なかった筈ですよね?」


「諸君!その通りだ。私は所長権限を行使する事にした!」

(所長権限…それは所長だけに許された破格の報酬…)


「…そんな」

「羨ましい…」

「で、では…一体…ソレのランクは?」


「……ランクだ(ボソッ)」


「所長聞こえません!」


「…SSSランク……だ」


「「「「「……えっ?????」」」」」


「…計測不能だろう…今から巨大モニターに顕微鏡の中を映す…。見たら分かる…」


─モニターに映像が映し出される。そこには勢い良く泳ぎ休む事無く活発な動きで泳ぎ回るおたまじゃくしの姿が…


「…何だアレは?」

「あんな活発なの見た事無い!」

「どうせ顔が悪いに決まってる。どれどれ書類の写真はっと………………はぁー!?」

「…アレで顔迄良いというの?」

「待て!資料を良く見ろ!性格も優しいとある!?」

「馬鹿な…そんな男性が存在する筈無い…」

「待て待て待て!それよりも付与されている映像を…映像を確認してみろ!」

「何が映っているの?」

「これ以上何に驚けば…」

「…何だアレは???」

「アレが男性器だと!?」

「あんなのあり得ない!!!」

「…事実だ!信じがたいが事実だよ!これは偽装出来ない…」

「た…確かに…」

「強面の子も別格だけど、彼は規格外過ぎる…」


「とにかくだ!信じられぬと皆思うだろうがこれは真実だ…。そして私はこれで妊娠する。色々不満はあるだろう?だがこれは喜ばしき事だと思ってくれ!」


「それは何故ですか?」


「テストは一回だけでは無いだろう?(ニヤッ)」


「そ、そうだ…」

「た…確かに」

「次がある…」


「その通りだ。今回は私だったが次は君達の誰かの番なんだ…だから後は頼んだぞ皆!」


「「「「「はい!所長!元気な子を!男の子を!産んで来て下さい!」」」」」


「嗚呼!任せろ(とびっきりのキメ顔!)」


 こうして私は人口受精を行い妊娠。それと同時に産休へ。今の世の中は妊娠すると同時に産休が認められている。


「私の赤ちゃん。どうか元気に産まれて来てね!」


 豊和の知らない所で豊和が父になった瞬間だった。こんな事が行われて要る事等、豊和には知る由も無かった事であった。







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